すでに2017年一橋世界史解説において申し上げましたが、比較的安定していた一橋大学の出題傾向に最近変化が見られます。大きな変化を感じたのは2014年の問題でしたが、ただ歴史的事実を整理し、まとめさせるだけの問題から、与えられた史資料を活用して自分の頭で考えるスタイルの出題が増えてきているように思います。これに伴って、出題範囲にも徐々に変化が見られ、2017年の問題をもって、もはや従来型の一橋の出題傾向分析は役に立たない、と言っても過言ではなくなってきました。

 

 そこで、その変化が見られ始めた2014年問題以降の出題を中心に、近年の出題傾向を再度まとめ直してみたいと思います。細かい部分の解説などはすでに問題解説の方で行っておりますので、ここでは大きな傾向のみを把握するにとどめたいと思います。今回、分析の対象にしたのは2014年~2017年の4年間に出題された問題で、これらのうち「史資料読解の重要性が特に高い問題はどれか」、「出題で対象とされている時期はいつか」、「出題のテーマは何か」について調べてみました。以下がその表になります。

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この表から言えることは、

・史資料読解の重要度の高い設問が数多く出題されている。

・出題の対象となる時期には一定の法則性は見られない。

・設問の内容についても特に目を引く法則性は見当たらない。

ということです。つまり、これまでとは異なり、ひどく的を絞りにくい出題になっています。入試問題としてはこちらの方が本来のスタイルだとは思うのですが、受験生にとっては取り組みづらい要素が強くなってきているのは間違いありません。

 

 まず、史資料読解の重要度が高い設問が多いという点についてですが、一橋は従来から史資料を出題する傾向の強い大学でした。ですが、その史資料の多くは、論述の構成にまで影響を与えるようなものは少なく、せいぜい文章中にあけられた空欄補充のヒントとなる程度で、決定的な要素ではありませんでした。極論を言ってしまえば、史料やリード文がなくても設問さえあればある程度の答えを書くことが可能でした。

 ところが、近年の問題は、この史資料の読解から得た発想が論述の内容に大きな影響を与えるスタイルの問題が増えています。史料の性格を突き止め、出題者の意図をくんで解答することが求められているフシがあります。その変化を見るために、2014年までではなく、2000年の問題までさかのぼって史資料読解の重要度にのみ焦点をあてて分析しました。それが以下の表になります。

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これを見ると一目瞭然ですが、明らかに近年は史資料の重要性が増しています。また、このように表にしてみることではっきりしますが、従来は史料すら使われていなかった大問1、大問2において史資料が活用され、かつそれに重要な意味が込められている問題が増加しています。2014年問題のインパクトが強かったために目立ちませんでしたが、こうした変化は2014年よりも少し前、2011年頃から始まっているように見受けられます。大問3については、従来においても史料が示されることがほとんどでしたが、その内容には大きな変化が見受けられます。史資料の読解に重きをおく2003年から2006年ごろのスタイルへと回帰しているように思われます。もっとも、この「重要度」をはかっているのは私の主観ですから、必ずしも正確なものではありません。しかし、全体の傾向としては明らかではないかと思います。

 ためしに、無作為にかつての大問1を抽出してみましょう。以下は、上の表で史資料の重要度が「×」となっている時期のちょうど真ん中あたり、2004年の大問1です。

 

 宗教改革は、ルターにより神学上の議論として始められたが、その影響は広範囲に及び、近代ヨーロッパ世界の形成に大きな役割を果たした。ドイツとイギリスそれぞれにおける宗教改革の経緯を比較し、その政治的帰結について述べなさい。その際、下記の語句を必ず使用し、その語句に下線を引きなさい。(400字以内)

 [指定語句:アウクスブルクの和議 首長法]

 

 この問題と、史資料重要度で「◎」となっている2014年の大問1や2016年の大問1と比較してみてください。(本ブログの解説に、史資料をどのように活用すべきかも含めて示してあります。) その差は歴然ではないでしょうか。つまり、ここ数年の一橋の出題傾向の変化に対する違和感の正体の半分は、この史資料の重要性の変化に帰すると言ってよいでしょう。

 しかも、出題の対象となる範囲も多岐にわたっています。これまではほとんど出題例のなかった古代史からの出題、大問3における明史以前(1113c)からの出題など、近年ますます幅が出てきました。強いて言えば、16世紀以降の近代史の出題頻度が多い(2014年以降では12問中8問が該当)ようですが、これもあてにはなりません。また、出題内容にもこれといった法則性はありません。同じくこちらもあえて言えば大問3については中国周辺の国際関係史が主であるように見受けられますが、ひっくり返すのは容易でしょう。これも同じくあてにはなりません。

 

 このような一橋の新しい出題傾向に対して、ある特定のテーマだけに絞ってヤマをはって学習するという手法は意味をなしません。無駄というものです。今後の一橋受験を考えるのであれば、東大向けの受験勉強を進めることが一番妥当であるように思います。私がもし通年で一橋向けの受験対策を行うのであれば、東大・京大の過去問10年~15年分に加えて一橋の過去問10年分ほどをベースに論述の地力をつけ、史資料読解問題練習として東京外語の史料問題に触れさせる(ただし、設問は史資料読解の重要性を増したものに改変)といった形の授業をどこかで組み込むと思います。もちろん、これらに限らず、良問に触れる数は多ければ多いほど良いです。芸がないように思われるかもしれませんが、今後の一橋受験を世界史で考えるのであれば、「世界史に対する理解と論述」の地力をつけることが一番の近道であるように思います。その分、私大対策を特別にする必要は逆に少なくなるかもしれません。(それだけの地力をつけられれば私大の設問は苦も無く解けます)別の意味で、闘い甲斐のある相手になりましたねぇ、一橋世界史は。