詳説世界史ノート

(詳説世界史ノート編集部編、山川出版社、2014年版)

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 山川は「〇〇ノート」と名のつく学習ノート形式のものを非常に数多く出しています。これらの学習ノートは外見も非常に似ており、本屋の店頭に行くとこれでもかというくらいにおいてあるので、受験生からすると「そもそもこいつらは役に立つのか。いや、それ以前にこれらはどのような違いがあるのだろう」と迷ってしまうというのがこの山川の学習ノート群です。ためしに、いくつか例を挙げてみると、

 

・『詳説世界史ノート』

・『授業用 詳説世界史B整理ノート』

・『詳説世界史学習ノート:上』

・『詳説世界史学習ノート:下』

・『流れ図で攻略詳説世界史』

・『詳説世界史スタンダードテスト』

 

などなど。とにかく似ています。そっくりです。どれくらい似ているのか。

まず、学校の教科書などとして使われている「詳説世界史B」です。

 

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つづいて、『詳説世界史ノート(本書)』です。

 

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『流れ図で攻略:詳説世界史B』です。

 

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詳説世界史スタンダードテストです。

 

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これらが同じような水色の表紙に包まれて本屋に陳列されている様は
さながらスライムなのか水色のぷよぷよなのかわからない連中が群れをなしているかのようです。開いてみると、内容的にも一見、「む、どこに差があるのだろうか」と思わせるほどよく似ています。その違いはおいおい解説していきますが、これだけ似ているものを、そっくりなタイトルでドカドカと同じ場所において、ろくに各参考書、問題集の使い方の区別をユーザーに丁寧に示さないというのはどれだけ殿様商売なんだ、と思いますw 用語集にもその手の傲慢さは透けて見えますねw「オラ、オレ様は山川の用語集だぞ?受験生なんだろ?買えよ!は?使い方?そんなもんはテメーで考えろ!」みたいなw くぬどんかよw

 
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これらの学習ノート・問題集群の中でおそらくもっともよく見かけ、さらに受験用のまとめに適しているだろうと思われるのがこの『詳説世界史ノート』です。本書の「使い方」として、表紙カバーには以下のようにあります。

 

このノートは、『詳説世界史』の流れに沿ったノートです。教科書に完全準拠しているので、授業の予習・復習はもちろん、受験のための自宅学習にも最適です。

 

また、本書の冒頭にある「内容と使用法」にはこのように書いてあります。

 

 『詳説世界史』に完全準拠しており、教科書の構成・本文の流れに忠実に沿ってつくられています。内容は教科書の記述を逸脱せず、過不足なく整理されております。

 

たしかに、その通りなのでしょう。実際、私もその通りだと思います。学習ノートとしてよく練ってあると思いますし、仮にこれを一般の中高における世界史プリントとしてそのまま用いたとしても、特に問題なく使用できるレベルに仕上がっていると思います。

 

ただ、ここで注意しなくてはならない点があります。それは、ここでいう『詳説世界史』とは、高校の教科書として用いられる『詳説世界史B』のことをさしているのであって、私が最初に紹介した受験生のバイブル『詳説世界史研究』のことを言っているのではない、ということ(多分)です。実際、本書を手に取って実際に進めてみると、『詳説世界史研究』と比べるとやや内容が薄いことに気付きます。このことが何を意味しているかというと、本書を解き進めるだけで東大をはじめとする難関国公立ならびに早慶の難関学部に対応するだけの学力が身につくかは「微妙」だということです(身につかない、と言っているのではありません。使い方次第です。)要は、『詳説世界史研究』の方が情報が濃いのです。これは本書の出来が悪いと言っているのではなく、単純にその目的とするハードルが違うのです。つまり、本書はあくまでも教科書『詳説世界史B』のまとめ用の学習ノートに過ぎず、『詳説世界史研究』のまとめ用学習ノートではない、ということです。ちなみに、『詳説世界史研究』はこちらです。


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このことさえ踏まえれば、本書は『詳説世界史B』を教科書として使っている学校の定期考査対策としては十分に使えます。また、大学受験用としても、ある程度のレベルであれば十分対応は可能でしょう。私の感覚としては、偏差60強までの大学とセンター試験であればかなり対応できるのではないでしょうか。また、この学習ノートをもとにしてよりレベルの高い大学用の勉強を進めることも可能です。要は、情報量が足りないのならば足してやればいいわけで、たとえば『詳説世界史研究』を傍らにおきながら、本書を進めていき、足りない情報があれば本書に直接書き加えていくという方法を取ればよいわけです。

 

もっとも、そうした方法はすでに自分で『詳説世界史研究』をベースに効果的な学習スタイルを確立している人には必要ないでしょう。たとえば、学校の先生が作る副教材(プリントなど)が十分に東大、早慶に対応するに足る内容を備えていて、それらを使って学習を進めている場合や、自学自習で『詳説世界史研究』レベルの内容を自らノートにまとめている場合、『詳説世界史研究』にダイレクトにチェックペンひいて頭に叩き込んでいる場合などです。

 

いつもと同じことですが、要は使いようなわけです。教科書に準拠して同じ出版社から出ているものですから、出来としては十分です。ただ、「純粋に」本書だけで学習した場合、偏差70近辺の大学で高得点を狙うことは難しいでしょう。一方で、少し背伸びをして通史を学習したいと考えている「世界史を習って半年~1年目くらいの高校1年生または高校2年生」や、ざっと通史を教科書レベルの内容でおさらいしておきたい高3生には向いていると思います。ですが、図表・地図が少ない&コラムが少ないのは短所ですね。良くも悪くも「教科書を逸脱しない」内容になっていて、遊び心と言うか、面白みに欠ける気がします。
 
 正直、
HANDとしては地図が少ないという時点で、かなり減点です。まとめ用のノートですから、地理的なことは知っているだろうという前提でそうしているのでしょうが、世界史を覚える作業において地理情報の有無は大きくその成果を左右します。また、多くの場合世界史を勉強している受験生の多くが地理的な情報を十分に自分のものとして消化していないのが現状です。みなさんは、「イラン」といったらどこ、「トルキスタン」といったらどこ、と言うように頭の中におおまかな地図が出てくるでしょうか。こういった、「地名を聞けばだいたいどこのことか分かる」という感覚は世界史を勉強する上でとても重要です。HAND自身が授業をする時は、くどいくらいに地理的な位置関係を示しつつ(実際に画像を見せつつ)説明します。しかし、多くの先生方や学習参考書は、(私の経験上ですが)一度解説してしまった地理情報はほとんど説明しません。そうすると、生徒は「バルカン半島」と言われると「あー、なんとなくヨーロッパの東の方?」のような理解でとどまってしまっているのに、先生の方ではセルブ=クロアート=スロヴェーン王国であるとか、セルビア、ルーマニア、モンテネグロの独立なんてことを滔々と語りだすというギャップが生じます。こうなると「理解したつもりで実は全然理解していない」受験生の出来上がりです。もし地名を聞いた時に「まだイメージとして自然にはわいてこないな…」と感じるときには、こうした地理的な情報に敏感になるように注意して、基本的な位置関係だけは押さえるようにすると理解も深まり、学習効率も大きく上がってくると思いますよ。東欧については、ベーメン、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、ルーマニア、セルビアと言われた時におよその位置関係はつかめる、くらいになっているというのが理想です。

 

 ちょっと脱線してしまいましたが、本書はこんな感じになっています。

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右側に内容がプリント風にまとめてあって、左側に番号に入る言葉を入れていく形式ですね。ですが、HANDはこのやり方で本書を利用することはおすすめしません。HANDがもし本書を使うならこうします。

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おわかりになるでしょうか?つまり、ダイレクトに書きこんでいってしまうということです。本気で覚えるつもりなら絶対にこうしたほうがいいです。理由は二つあります。一つは、もし左の「解答欄」に答えを書き入れた場合、必ず目は「右→左→右→左…」というように往復を繰り返します。これが思いのほかに負担になりますし、なにより時間のロスにつながります。二つ目ですが、経験則で申し訳ないのですが、HANDは記憶にとって「視覚情報」は非常に重要だと思っています。「目で」見た印象というのは意外に頭に残っていたり、忘れてしまったとしても何かの拍子に「ひょいっ」と飛び出してくるものなのです。直接書き込んだ場合、その単語を見たときの視覚情報はその周辺の情報も連れてきてくれる、引き出してくれる可能性がありますが、「解答欄」に書きこんでしまった場合、右の「まとめページ」の情報と左の「解答欄」の情報が断絶してしまい、「視覚情報」からは何も引き出せなくなってしまいます。これが本番では意外に大きな差となって出てくる、というのがHANDの印象です。こうしたことは、本書の活用に限らず、たとえば地図を覚えるときにも当てはまります。下の例を見てみましょう。(ちなみに、この地図はHANDが無料の白地図サイトから保存したフランスの地図を加工して作ったもので、本書の内容とは無関係です。)

 

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地図記入例2


 

Aはダメな例、Bが良い例です。一目瞭然だと思いますが、Bの方は名前を覚えると同時にその都市がある「場所」の情報も一緒に視覚情報として取り入れることができます。何かを覚えて、自分の知識として消化する場合、こうした何気ない小さなことが大きな差となってあらわれることがありますので、「なかなか覚えられないな」という風に感じている人は、自分の学習方法に何か改善できる点があるのではないかと疑ってみましょう。

 

[本書が向いている人]

・世界史を習い始めたが、自分で「世界史B」の教科書レベルの内容をある程度まとめて、覚えてみたいという人。(高1、高2)←とくにオススメ!

・様々な理由から、「世界史B」の教科書レベルの通史をざっとおさらいをしたいという人(高2、高3)

・あまり細かい説明はどうでもいいので、とりあえず必要最低限のつながりと用語だけ頭に叩き込んでおきたいという人。

・センター試験レベルの世界史に最低限対応できる力を急遽(2か月~半年程度)で身につけたいという人。

・東大、早慶クラスは正直あまり考えていないという人。

・『詳説世界史研究』を用いて自学自習しているが、その前提となる書き込み用教材が欲しいという人。←かなりオススメ!(ただし、余白はあまりないのですごく細かくなる覚悟を)

・学校や塾の先生がめんどくさがりであまり副教材を作ってくれない&板書もしょぼくてまとめのしようがない、という人。←特にオススメ!

 

[本書をあまりオススメしない人]

・東大、早慶レベルの世界史に真っ向から立ち向かって高得点をゲットしたい人。

・話の細かい流れ、説明がないと満足できない人、覚えにくい人。

・図表や地理情報も含めて世界史を理解したい人。

・すでに偏差65以上の成績を模試で取ることができる人。

・学校や塾の先生から十分なレベルのプリントなどの副教材を与えられている人。

・学校や塾の先生の板書が充実していて、それをまとめれば教科書レベルの内容はきちんとわかるようになっている人。

・『詳説世界史研究』を用いて自学自習が進められている人。