SOLIDでは中学受験から大学受験までいろいろな授業を行っていますが、このブログをご覧になっている方に一番関係が深いのは、やはり大学受験世界史だと思います。
SOLIDの授業でも、これを生徒さんの理解度や志望校に合わせて、その場で確認しながら進めていく感じで進めています。
【論述問題について】
【世界史以外の授業もやっています】
移動時間がないので、学校や塾との予定も比較的組みやすいと思います。
【世界史の個別指導をお探しの方へ】
大学受験向け世界史情報ブログ
早稲田大学教育学部の世界史は、早稲田の世界史の中でもかなり特徴のはっきりした試験です。
問題の中心となるのは、単純に用語を答える問題ではなく、「正しい説明はどれか」、「誤っている説明はどれか」、「二つの文章の正誤の組合せとして正しいものはどれか」、「年代順に並べた場合、何番目にくるか」といった正誤・判定型の問題です。
また、選択肢の誤りは完全なデタラメであるとは限りません。人物名は正しいが時代が違う、王朝名は正しいが制度が違う、条約名は正しいが締結国が違う、地名は正しいが位置関係が違う、といった文章の一部分だけをずらした誤文が数多く作られています。
そのため、早稲田教育の世界史では、「この用語を知っている」だけでは十分ではありません。その人物がいつ・どこで何をしたのか、その制度がどの王朝で行われたのか、出来事の前後関係がどうなっているのか、などまで正確に整理できていることが重要になります。
今回は、2022~2026年度の5年分について、大問テーマを並べるだけではなく、各設問で正解を導くために必要となった知識を「中核知識」として整理し、地域別・時代別の傾向を確認しました。
【早稲田大学教育学部世界史の基本構成】
2022~2026年度を見ると、基本的に大問4題・マーク式という構成が続いています。近年は50問前後を解く形式となっており、2026年度も第1問12問、第2問13問、第3問13問、第4問12問という構成です。2025年度も4大問で構成され、各大問に多数の選択問題が配置されています。
つまり、教育学部では、かなり多くの選択肢を、限られた時間内に正確に処理する力が必要になります。
また、「50問あるから50個の知識が必要」と考えるのは適切ではありません。一つの4択問題の中に、複数の人物・制度・地域・年代が含まれているため、実際には、一つの正解を得るために複数の知識を比較しながら判断する必要がある試験と考えるべきかと思います。
【2022~2026年度の大問テーマ】
まず、5年間の出題を大まかに整理すると次のようになります。
※以下の「大問テーマ」は大学が付けた正式名称ではなく、問題内容をもとに便宜的に整理したものです。
(一国史よりも「テーマ史」の発想が重要)
5年間の問題を並べると、早稲田教育では単純な一国史だけでなく、「疫病」、「民族移動」、「交易」、「社会主義」、「移民」、「脱植民地化」、「経済活動」、「遊牧民」など、一つのテーマを通じて複数地域・複数時代をつなぐ問題がかなり目立ちます。
たとえば2023年度第1問では、古代ギリシアからヴァイキング、東方植民、ポルトガル・オランダ・イギリスの海外進出、アフリカやアメリカまで話が広がります。
つまり、「中国史」、「フランス史」、「オスマン帝国史」のような、国・地域ごとの通史だけでなく、「交易史」、「民族移動史」、「植民地化と脱植民地化」、「社会主義運動」のような、教科書の章を越えたテーマごとのつながりや整理を意識しつつ、学習を進める必要があります。
【設問ごとの「中核知識」をもとにした分析】
続いて、設問を解く際に決定的に必要となる「中核知識」について、時代・地域別などの分析を進めてみたいと思います。今回の地域別・時代別分析では、単純に「1問=1件」と数えてはいません。早稲田教育では正誤問題が多いため、一つの設問の中に複数の知識が含まれます。
たとえば2023年度第4問の「遼」についての問題では、「契丹文字」、「キタイ」、「猛安・謀克」、「州県制」、「澶淵の盟」といった複数の知識が選択肢中に含まれています。一方で、この設問の正答を決める上での決定的な知識は、「猛安・謀克は遼ではなく金の制度」という知識があれば十分でした。本稿では、こうした知識を「中核知識」と呼んでいます。
そこで今回は、正答を確定、または決定的に誤答を排除するために必要な知識を「中核知識」として扱い、これについて分析します。一方で、残りの選択肢まですべて正誤を判定するために必要な知識は「周辺判定知識」として別途分析を加えています。
(集計ルール)
今回の分析では、次のような集計上のルールを用います。
〇 正答を確定するために必要となる知識を「中核知識」として扱う
〇 二つの文章を別々に正誤判定する問題では、それぞれを独立した知識として考える
〇 年代整序では、個々の年号よりも「出来事の前後関係」を一つの知識として扱う
〇 問題文の中で、すでに示されている情報は、原則として必要知識には含めない
〇 すべての選択肢を完全に判定するための追加知識は「周辺判定知識」とし、地域・時代の集計には原則加えない
〇 複数地域にまたがる場合は、正答判定の中心となる地域を主分類とする
〇 複数時代にまたがる場合は、正答判定の中心となる時期に分類する
〇 大学側が不適切と認定した問題は通常集計から除外する
〇 大学側が複数正解を認めた問題は注意して扱う
したがって、以下の数字は厳密な統計値というより、出題の大きな偏りを見るための概算です。また、以下の割合は配点の割合ではありません。正答判定に用いた中核知識を地域・時代別に分類した際のおおよその構成です。数%の違いよりも、「4割弱」、「2割強」、「1割強」といった大きな傾向を見るためのものとお考えください。
(地域別ではヨーロッパが4割弱)
中核知識を地域別に分類すると、おおよそ次のような構成になります。
一方で、ヨーロッパ以外の地域が全体の6割程度を占める点には注意が必要です。ヨーロッパ史が比較的手厚く出ているからと言って、そこだけを重点的にやれば合格点に届くほど甘くはないということが分かります。
(中国・東アジアは2割強で、かつ時代的な広がりがある)
中国・東アジアは、5年間を通して非常に安定した形式で出題されています。
2022年度第4問
2023年度第4問
2025年度第4問
2026年度第4問
と、5年間のうち4年度でまとまった東アジア史が出題されています。たとえば、2023年度第4問では「唐」、「吐蕃」、「新羅」、「渤海」、「遼」、「西夏」などが一つの大問にまとめられています。さらに設問では、「朝鮮半島統一」、「渤海」、「唐末」、「新羅」、「遼」、「燕雲十六州」、「西夏」などに関する事柄が問われています。
また、2025年度第4問は古代中国から、2026年度第4問は19世紀末~20世紀初頭の東アジアから出題されています。
このように、中国史については過去5年分を見るだけでも古代・中世・近世・近現代からまんべんなく出題されるため、どこかだけを重点的に学習するという方法は危険です。教育学部で中国史から2割強の出題がされていることを考えれば、中国史については古代から近現代まで全体を通して仕上げる必要がある分野と考えた方がよいでしょう。
(イスラーム+中央ユーラシアも2割強)
西アジア・イスラーム世界と中央ユーラシアを合わせると、全体の2割強程度になります。これは、中国・東アジアに近い規模です。したがって、早稲田教育ではこの地域を「周辺分野」と考えない方がよいでしょう。
2022年度第3問では、現在のイラク周辺をシュメール・バビロニアからイスラーム時代、オスマン帝国、現代イラクまで追っています。
また、2023年度第3問では、トルコ民族の歴史について
○ 丁零
○ 突厥
○ ウイグル
○ トルコ人のイスラーム化
○ ガズナ朝
○ セルジューク朝
○ オスマン帝国
○ トルコ共和国
という長期的な流れが問われています。実際の設問でも、ガズナ朝、セルジューク朝、ウマル=ハイヤーム、ムラービト朝、オスマン帝国、青年トルコ革命、セーヴル条約、トルコ共和国の世俗化などが続きます。
少し脱線しますが、これについては、2010年代の後半から、トルコ民族の歴史については東大・京大を中心にかなり集中して出題されていましたので、受験生の間ではトルコ史に対する意識・耐性が高まってきていました。そうした面もあって、次第でもトルコ民族史については出題頻度が高まってきています。
東南アジアは5年間平均では1割弱です。数字だけを見ると、ヨーロッパや中国より優先順位が低いように見えます。しかし2024年度第4問では、東南アジア史が一大問を占めています。マレー、インドネシア、ベトナム、カンボジア、タイ、フィリピンなどがまとまって出題されました。
つまり、5年間平均では少ない地域でも、一年度では大問一つ分になることがあるということです。地域別割合は、「捨てる地域を決めるため」ではなく、「どこを厚くすべきか」を考える材料として使うべきでしょう。
(時代別では20世紀以降が3割程度)
必要知識を時代別に見ると、おおよそ次のようになります。
最も多いのは20世紀以降です。
2022年度にはヴェルサイユ体制、
2023年度には非同盟・NATO、
2024年度には社会主義や移民、
2025年度には脱植民地化、
2026年度には国連・冷戦・中東問題などが出題されています。
したがって、20世紀史は教育学部対策の重点分野と考えてよいでしょう。
(一方で、20世紀以前は約7割)
20世紀以降が3割程度ということは、逆に言えば「古代~19世紀」が約7割を占めることになります。
そのため、「早稲田は近現代が大事だから、古代・中世は後回しでよい」という勉強法は危険です。
特に中世は2割強あり、20世紀に次いで存在感があります。2023年度ではヴァイキング、東方植民、中世教会、テュルク史、唐と周辺民族など、中世関係の問題がかなり多く出ています。2026年度第3問も古代~中世の中央ユーラシア史が大きな部分を占めます。
したがって、「20世紀史をやや厚めにする」、「ただし古代・中世・近世にも穴を作らない」というのが現実的な対策になります。
(地域×時代で見ると、対策の重点は見えてくる)
大まかには次のような傾向があります。
これは「その時代・地域しか出ない」という意味ではありません。5年間の出題を見たときに、特に意識しておきたい組合せです。
中国史は時代を絞りにくい分野ですが、中央ユーラシアについては、「匈奴などの古代遊牧民」→「突厥」→「ウイグル」→「モンゴル」→「トルコ系諸民族のイスラーム化」といった長い流れを整理しておくことは比較的効果的かと思われます。
【早稲田大学教育学部では「周辺判定知識」も大切】
早稲田教育では、正答を決めるための中核知識のほかに、残りの誤った選択肢まで完全に切るための周辺判定知識があります。
たとえば2023年度第4問の「遼」の問題では、正答を取るだけなら、「猛安・謀克制は金」と分かれば判断できる場合があります。しかし、全選択肢を完全に判定するには、「契丹文字」、「キタイ・カタイ」、「猛安・謀克制」、「州県制」、「澶淵の盟」まで確認する必要があります。
同様に2023年度第1問では、「クレタ文明」、「ドーリア人=スパルタ」、「シュリーマン=ミケーネ文明」といった複数の知識が選択肢に並びます。
つまり、早稲田教育は、「50問あるから50事項を覚えればよい」という試験ではありません。一問を丁寧に復習するだけでも、複数の周辺知識を確認することができます。
こうした問題の特徴から考えると、早稲田教育の過去問演習で最ももったいないことは、「正解した問題は復習しない」ということです。たまたま一つの選択肢だけ知っていて正解した可能性があるためです。
過去問を復習するときには、「aはどこが間違っているか」、「bはなぜ正しいか」、「cはどこを直せば正しくなるか」、「dは何と何を混同させているか」などまで踏み込んで確認するとよいでしょう。
たとえば2023年度第1問のポルトガル海外進出を復習すれば、「ヴァスコ=ダ=ガマとインド航路」、「アルブケルケとゴア」、「マラッカ」、「マカオ」、「セウタ」などをまとめて確認できます。こうした誤文訂正を繰り返すことで、一問の過去問を複数の知識の復習に利用して、知識の層を増やしていくことが大切です。
【年代整序は「年号」ではなく「前後関係」が重要】
早稲田大学の教育学部では、出来事を年代順に並べる問題も見られます。
たとえば2023年度第4問では、「新羅による加耶諸国の併合」、「百済滅亡」、「白村江の戦い」、「高句麗滅亡」の順序が問われました。すべての西暦を完璧に覚えていればもちろん解けますが、新羅による加耶諸国の併合の年号まで覚えているというのは現実的ではありません。むしろ、「百済滅亡→白村江→高句麗滅亡」という歴史的な流れを理解していることが、正解に近づくためには重要です。
年号は数字だけで覚えるのではなく、事件と事件の前後関係までセットで整理するとよいでしょう。
【地理知識もかなり重要】
教育学部の正誤問題では、地理知識もかなり役立ちます。
中央ユーラシア、バルカン半島、西アジア、東南アジア、中国周辺地域などでは、「その国・都市・民族がどこに位置していたのか」を知らないと、選択肢を切りにくい問題があります。
特に、中央ユーラシア・バルカン半島・西アジア・東南アジア・中国周辺民族・列強の植民地分割については、資料集の地図で確認しておく価値があります。
早稲田の正誤問題では、「名前は知っているが、どこにあるのか分からない」という状態はかなり危険です。
【早稲田大学教育学部「世界史」で優先したい分野】
5年間の分析から考えると、まず重要なのはヨーロッパ史です。
中でも、「中世」、「19世紀」、「20世紀」は特に注意したいところです。
次に、中国・東アジア史です。こちらは特定時代ではなく、古代から近現代まで全体を押さえる必要があります。
さらに、イスラーム世界・中央ユーラシアです。両者を合わせると2割強程度となり、中国・東アジアに近い規模になります。
また、時代別では20世紀史、特に冷戦・社会主義・脱植民地化・国際機関などは重点的に確認しておく価値があります。
ただし、割合が低い地域・時代を捨てることはおすすめできません。東南アジアのように、5年間平均ではそれほど高くない地域が一年度では大問一つを丸ごと占めることがあるためです。
【まとめ】
2022~2026年度の早稲田大学教育学部世界史を、個別設問で正解を導くための知識を基準に分析すると、いくつかの特徴が見えてきます。
(地域別)
○ ヨーロッパが4割弱
○ 中国・東アジアが2割強
○ 西アジア・イスラーム+中央ユーラシアが2割強
という構造が大きな柱。
(時代別)
○ 20世紀以降が3割程度で最も多い
○ 20世紀以前も約7割が出題される
そのため、「ヨーロッパ近現代だけを重点的に勉強する」という対策では不十分です。中国史は全時代について、イスラーム・中央ユーラシアも重要で、各地域を網羅的に学習することが求められます。
早稲田大学教育学部の世界史は、細かな知識をただ大量に覚える試験というより、教科書レベルの知識を正確な関係性の中で整理し、それを正誤判定に使えるかを厳しく確認する試験と考えるべきかと思います。
一問一問のレベルはそう難解なものはありません。ただし、時代的・地域的に「ヤマをはる」ことは不可能に近いため、かなりの量の知識を備えて試験に臨む必要があります。
早稲田大学政治経済学部の学部独自試験から「世界史」が独立した受験科目として姿を消してから、ずいぶん時間がたちました。正直、「おいおい、早稲田の政経が世界史を削るのかよ…(しょんぼり)」と当時は寂しく思ったものです。
ただ、その後しばらく早稲田政経の総合問題を見ていて思ったのですが、総合問題は決して世界史を削っていないのではないか、と気づきました。総合問題の中に、世界史に関する知識・教養が要求されていることは明らかです。(なら、「世界史」として残しておいてくれよ、という気持ちがあることは否定しません。)
そこで、「総合問題の中にどの程度世界史は含まれているのか」ということが気になり始めました。かといって1年分程度見てもあまり意味がないので、「数がそろったらやってみんべぇ」と思って5年分ほど待つつもりだったのですが、忙しかったのでちょっとすぎてしまいましたw
そんなわけで、今回は「早稲田大学政治経済学部の総合問題に高校世界史はどの程度効くのか」をテーマに問題分析をしてみたいと思います。世界史講師というものは、こういうどうでも良いことに時間をかけたくなるものなのです。(人による)
結論から示すと、2021~2026年度の6年分を分析したところ、わりと結論は明確でした。過去6年間の全18問(大問数)、およそ3割では高校世界史との接続が特に強く、背景理解にかなり役立ちます。
一方で、世界史の知識だけで直接解ける問題はほとんどありません。
世界史が特に役立つのは以下のような場面でした。
○ 長文の背景理解
○ 社会科学的テーマの位置づけ
○ 因果関係の理解
○ 論述の具体例
上記のような内容に世界史が効く一方で、
○ 英文読解
○ 統計・グラフ処理
○ 初見の概念の理解
○ 日本語記述
○ 英作文
といった技能は、世界史では代替できません。
つまり、早稲田政経の総合問題における世界史は、「答えを知るための知識」ではなく、「問題を理解し、考えるための背景知識」としてはある程度効くと結論できるかと思います
【早稲田政経の「総合問題」】
早稲田大学政治経済学部では、2021年度一般選抜から入試方式が大きく変更されました。それまでの個別科目型から、大学入学共通テスト+学部独自試験「総合問題」という形式へ移行しました。それにともない、われらが世界史は政経の科目からは消えました。(何と言うことをしてくれるんだ-泣)
総合問題では、日本語・英語の長文や統計・図表などを読み、選択問題、記述問題、英語論述に答えます。
2021~2026年度を見ると、構成はかなり安定しています。
つまり総合問題は、
○ 日本語読解
○ 英語読解
○ 資料・統計処理
○ 社会科学的思考
○ 日本語記述
○ 英語論述
を一つの試験の中で総合的に問う形式です。
【2021~2026年度の出題テーマ】
次に、早稲田大学政治経済学部の総合問題について、6年間のテーマを並べてみたいと思います。
【数量分析:世界史との接続が特に強い問題は約3割】
6年間の総合問題を、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの計18問として、世界史との接続度を見てみます。
ここでは、「世界史との接続が強い」とは、高校世界史で学ぶ歴史的背景を持っていることで、問題の中心テーマを理解しやすくなる場合を指します。
※ 「強・中・弱」は、世界史知識だけで解ける割合ではなく、高校世界史の既習知識が問題の背景理解にどの程度寄与するかを基準にした分類です。(やや主観的なものが入っている点についてはご理解ください。)
シビアに数えると、世界史との接続が強いのは5/18=約28%です。2025年度Ⅱの移民問題まで「強い」に含めれば、6/18=約33%となります。
したがって、過去6年間の約3割のセクションでは、世界史の背景知識との接続が特に強かったと考えても差し支えないように思います。
また、2022年度から2026年度までは5年連続で、少なくとも一つは世界史との接続が強いセクションがありました。このことからも、「政経の総合問題では世界史はほとんど意味がない」とは言いにくいことが分かります。
【大問Ⅰと世界史:「社会問題の背景理解」に効く】
大問Ⅰは日本語の長文読解です。この部分では、世界史は問題そのものを解くというより、文章が扱っている社会問題を歴史的に位置づけるために役立ちます。
たとえば2025年度Ⅰでは、戦争と交渉、安全保障が中心テーマです。解答例では、戦争は破壊や軍事力維持、人員配置などのコストを生む一方、交渉であれば戦争に使う資源を他の社会的価値へ回せる、という整理がされています。
ここで世界史を学んでいれば、「第一次世界大戦」、「第二次世界大戦」、「冷戦」、「核抑止」、「国際連盟」、「国際連合」など、戦争と国際秩序について多数の具体例をすでに持っています。そのため、「なぜ戦争が起こるのか」、「なぜ交渉では解決できないのか」といった抽象的な議論にも入りやすくなります。
2026年度Ⅰでも、EUの炭素国境調整メカニズム、自由貿易、国際競争、反グローバリズムなどが扱われています。解答例にも「国際競争力」「排出枠」「反グローバリズム」といった語が現れます。ヨーロッパ統合や自由貿易の歴史を学んでいれば、文章の問題設定を理解しやすくなるはずです。
【大問Ⅱと世界史:「英文を読む前提知識」として効く】
世界史の恩恵を比較的感じやすいのが大問Ⅱかもしれません。大問Ⅱは英語の長文読解ですが、世界史の知識を持っていればかなり読みやすくなるパートがいくらか見られます。
たとえば、2022年度Ⅱでは、「Greece」、「EU」、「eurozone」、「IMF」、「austerity」といった語が続きます。ギリシャ財政危機やユーロ圏の背景を知っていれば、「これは何についての文章なのか」をかなり早い段階でつかめます。もっとも、かなり近い現代史まで学習していないといけませんが。
ただし、ここで重要なことは「世界史が分かれば問題が解けるというわけではない」ということです。
2022年度Ⅱの記述問題では、EU全体とギリシャの統計データを比較し、ベンフォードの法則からギリシャ統計に作為的な数値が含まれている可能性を推論する必要があります。つまり、背景理解では世界史が効きますが、実際の得点処理では英文・資料読解が主役となります。
2023年度Ⅱも同様です。Brexitや国民投票について知っていれば文章には入りやすくなりますが、実際には代表民主制・直接民主制や投票方式について書かれた英文を正確に読む必要があります。
【大問Ⅲと世界史:「具体例」として効く】
大問Ⅲの英作文では、世界史の役割はもう少し限定されます。
2021年度は世界史がいくらか効く非常に分かりやすい例です。「平和的な抗議は暴力化すべきではない」というテーマに対して、解答例では、ガンディーやマーティン=ルーサー=キングの非暴力運動が使われています。世界史を学んでいれば、こうした具体例をすぐに出すことができます。
一方で、2022年度の「ネット上の匿名性」、2023年度の「芸術教育」、2026年度の「外国人留学生」などは、世界史を使わなくても十分に論じられます。たとえば、2023年度Ⅲでは「Music and
arts are of less importance for a child's education than math and languages.」という命題への意見を求められていますが、こうしたテーマは世界史とは無関係です。
したがって大問Ⅲでは、世界史は使えるときに使う「論述材料」としてはある程度出番があると考えることができるかと思います。
【早稲田政経の総合問題において、世界史では補えない技能は何か】
では、逆に世界史では全く補えない事柄とは何でしょうか。表にしてまとめてみたいと思います。
特に重要な力が「初めて見る概念を、その場で理解する力」です。総合問題では、事前に知らない社会科学的概念が登場しても、本文や資料からその意味を理解して考える必要があります。これは世界史の知識の蓄積とは別の能力です。(もちろん、社会や経済の仕組みを理解するという大きな枠組みで考えれば世界史にもそうした要素はありますが、少なくとも直接的に効く類の話ではありません。)
【時代的な分析:世界史が効くなら、どの時代か】
2021~2026年度を見る限り、最も有効なのは、19世紀~21世紀の近現代史です。たとえば、
○ 産業革命
○ 自由貿易
○ 資本主義
○ 帝国主義
○ 植民地支配
○ 世界大戦
○ 国際連盟・国際連合
○ 冷戦
○ ヨーロッパ統合
○ グローバリゼーション
○ 移民
のようなテーマについては、概念理解、具体例の蓄積ともに早稲田政経の総合問題とは非常に親和性が高いと言えるかと思います。
一方で、現在のところ、古代史や中世史などが直接役立つ場面は、かなり限定的です。2024年度Ⅱの本文中に登場する、18世紀以前の歴史、たとえば「イスラームの平和」や、「モンゴルの平和」、「黒死病」、「中世都市と商業」などについては、世界史で深くしっかりこの部分の理解をしていた人であれば、いくらかは読みやすく、理解の助けになったかなという程度です。
したがって、早稲田政経の総合問題と相性がよいのは、年号や出来事の暗記より、近現代史の構造理解だと言えるかと思います。
【地域的な分析:ヨーロッパ近現代史との接続が最も目立つ】
地域別では、ヨーロッパ近現代史との接続が最も目立ちます。たとえば、以下のようになります。
2022年度=ギリシャ・EU
2023年度=イギリス・フランス・Brexit
2024年度=ヨーロッパを含む長期的な経済発展
2026年度=EU・自由貿易
一方で、アメリカ史も「移民」、「公民権」、「経済成長」、「民主主義」などのテーマで利用できますし、「植民地支配」、「脱植民地化」、「人口移動」という視点では、アジア・アフリカ史も背景知識になります。
【分野別分析:どのようなテーマが効くのか】
世界史の中でも政経総合問題との相性が特によい分野について考えると以下のようになります。
たとえば、2023年度Ⅱでは「Brexit」、「国民投票」、「代表民主制」、「直接民主制」という政治制度の問題が扱われましたし、2025年度Ⅰは「戦争」・「交渉」・「安全保障」という国際関係が、2024年度のⅡでは、「産業化」・「所得」・「人口」・「生活水準」という経済史・社会史が扱われています。
ですから、人物・王朝を中心とする政治史よりも、社会経済史・国際関係史・政治制度史・人口移民史の方が使いやすいという傾向が見えます。
【早稲田政経志望者にとっての世界史とは】
これまでの内容から、早稲田大学政治経済学部の総合問題を解くのに必要な能力と、世界史との関係を表にしてまとめてみると、おおよそ次のようになるかと思います。
総合問題のために、細かな世界史知識を覚える必要は当然ありませんが、それでも世界史の授業を真面目に受ける価値はあります。
普段の世界史学習で、「なぜそれが起きたのか」、「何が変わったのか」などの原因と結果や、「誰が利益(不利益)を得たのか」、「他地域にどのような影響を与えたのか」などの関係性をとらえる訓練や知識の蓄積は間違いなく総合問題の土台として有益です。
たとえば産業革命なら、個々の用語や人名は覚えていなかったとしても、
○ なぜ生産性が上昇したのか
○ 人口・都市はどう変化したのか
○ 労働者の生活はどうなったのか
○ 世界市場はどう拡大したのか
○ 国際関係はどう変化したのか
という視点を持つことで、政治・経済・社会の動きが具体的にとらえられます。抽象的な議論と具体的なイメージをつなぐ架け橋としては、世界史学習は非常に有益です。
【まとめ】
つまり、世界史の学習は早稲田大学政治経済学部の総合問題を解くにあたっては「何について読んでいるのか」を理解する力にはかなり効きますが、一方で「読む・資料を処理する・推論する・書くという技能そのもの」については、あまり効果を発揮しないと言えるかもしれません。
確かに、早稲田政経の総合問題からは世界史が消えてしまいました。ですが、「総合問題だから世界史はほとんど意味がない」というわけではないようです。
世界史は、「問題の背景を理解する」、「抽象的な社会科学の議論を具体化する」、「論述の材料を持つ」という点ではかなり有効ですし、政治・経済・社会は抽象論だけでまわっているわけでもありません。これまでの歴史の蓄積があるからこそ、理論は発展してきましたし、きっとこれからもそうだと思います。ぜひ、大学に入ってからでも世界史の楽しさと大切さに目を向けてもらえたら嬉しいなぁって、個人の感想ですね、これはw