世界史リンク工房

大学受験向け世界史情報ブログ

2017年02月

昨日、一橋の予想問題作成に利用したものがこちらです。歴史学研究会による編集で岩波書店から出されている『世界史史料』シリーズ。全部で12巻出ています。

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まだ全巻出ていないかと思ってamazon見てみたら全部出ているんですね。いつの間に12巻分の史料というと長大ですが、私はしょっちゅう必要になるもの(よく使うのは458-11でしょうか)だけ自分で買って手元に置いて、あとは必要な時だけ職員図書室に探しに行く、みたいな使い方をしています。いや、確かに図書室行けば置いてあるんですけどね。自室にもないと仕事にならんのですよ、実際w 

 

各巻のタイトルは以下の通りです。

1 古代オリエントと地中海世界

2 南アジア・イスラーム世界・アフリカ

3 東アジア・内陸アジア・東南アジアⅡ‐10世紀まで

4 東アジア・内陸アジア・東南アジアⅡ‐10-18世紀

5 ヨーロッパ世界の成立と膨張‐17世紀まで

6 ヨーロッパ近代社会の形成から帝国主義へ‐1819世紀

7 南北アメリカ先住民の世界から19世紀まで

8 帝国主義と各地の抵抗 

9 帝国主義と各地の抵抗 

  東アジア・内陸アジア・東南アジア・オセアニア

10 20世紀の世界Ⅰ‐二つの世界大戦

11 20世紀の世界Ⅱ‐2次世界大戦後 冷戦と開発

12 21世紀の世界へ日本と世界 16世紀以後

 

こうした各巻のテーマに沿って、原史料や史料集から精選された史料が解説付きで載せられています。重箱の隅をつついたような史料ではなく、いわゆる「世界史」の流れに沿った史料が選ばれていますので史料問題作成の際にはそれなりに使えます。原史料となると、英語以外さっぱりな私にはラテン語とかアラビア語とか正直お手上げですが、この史料集はがっつり日本語訳ですので、そのあたりもとても助かりますw 歴史勉強してて心底欲しいと思ったアイテムはどこでもドアとほんやくこんにゃくです。また、本書は歴史好きな人には「こんな史料があるんだ」と眺めるだけでもそれなりに楽しめるものになっています。興味ない人には拷問かもしれませんが。

 

中身は、長くてもせいぜい2ページ分程度の基本史料の一部抜粋が掲載された上で、用語などについての注釈と、その史料の性格が解説されていますので、専門外であっても基本的な歴史的知識さえあれば何が書かれているかはすぐにわかります。ただ、内容的には高校生にはやはりすこし厳しいですね。少なくとも、受験勉強用の「世界史」を勉強したい人には向かないです。また、高校の学習内容をこえた余計な知識が入り込んでしまってかえって混乱してしまう可能性もあります。「アウクスブルクにおける不正経理の告発(同シリーズ5、pp.178-179)」に関する史料なんか高校生が見せられても多分困るだけですしw 

 

私どものように世界史を教えるなど、特殊な職業についている以外の人が持つとすれば、これは世界史を「勉強」するためではなくて世界史を「愛する」ために持つ本の類ですねw 上述の史料についての解説には「本史料は新大陸の[発見]や新しい商業航路の確立により、16世紀の国際商業が大規模に激変した時代をたくましく生き抜いた南ドイツの商人ルーカス・レームの手による日記の抜粋である。ここでは、そのルーカスが勤めていたヴェルザー商会の不正経理に嫌気がさし、退職を決めた経緯が書かれている」とありますが、こういうの読むだけで萌えちゃう💛みたいな人じゃないと買った後で後悔しますw でも、一つ一つの史料に目を通していくと、それまで無味乾燥としていて無機質だった分野の歴史が息づいてくるというか、細部に彩りが出てくるので私はこういうの好きですねぇ。

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一橋大学「世界史」について、「今年(2017年)の予想問題はないのですか」というご質問がありました。すでにご質問にはお答えしておりますが、そちらでお答えした通り、作ってあるには作ってあるのですが、大人の事情により公開を自粛中ですw そういうわけで残念ながら問題を公開することはできないのですが、代わりに今年の予想問題を作成するにあたり、私が気を配った点についてご紹介しておこうかと思います。ただ、予想はあくまでも予想でして、正直なところ一橋の先生方が気まぐれで「よし、今年は猿人・原人祭りだ!」とか言ってアウストラロったりピテクスってしまったりした場合にはまったく意味をなしませんw 当たらないことの方が多いかもしれませんが、そこは気休めぐらいのつもりでご参考になればと思います。「余計な先入観を持ちたくない!」という方はむしろお読みにならずに飛ばしてください。

まず、私が今年の予想問題を作るとすれば、基本的には「史料読解をベースにした、例年の一橋の出題とは少し外れたものを作る」と思います。理由はいくつかあります。第一に、一橋を受験される方であればすでに本ブログでも公開しております「一橋の伝統的な出題範囲」についてはすでにふまえていて、ある程度の知識は入っているだろうと思われることです。こうした「伝統的な出題範囲」に関しては各種参考書もそれなりに東大や一橋など難関校で出題された内容を意識して作ってあると思いますし、過去問もありますから、こうしたものを日々練習してきた受験生の方にあらためて同じようなものを示す必要はない、というよりは、こちらが示すとすればむしろ優先すべきものは別にあると考えるからです。

これと関連しますが、二つ目の理由として、「近年の一橋はその範囲とは少しずれた出題をすることがあるので、受験生に対してはむしろそちらの補強をしてあげた方がよい」ということがあげられます。従来は中世であれば「神聖ローマ帝国とその周辺史」、近世~近現代であれば「フランス史」、「アメリカ史」、大問3のアジア史であれば「清朝建国期、清朝交易史、清朝末期の諸改革と混乱」、または「李朝末期以降の朝鮮史」とある程度その出題範囲を読むことができました(http://history-link-bottega.com/archives/5935036.html)が、近年は必ずしもこうした出題範囲に限定されず、より広い範囲からの出題がされています。(http://history-link-bottega.com/archives/5936916.html)こうしたことを考えますと、伝統的な基本路線は外すことなく、それをやや拡大していくのが予想問題を作成する際の基本姿勢となります。その際、一橋の研究者の専門分野に気を配っていることは同じく過去の記事ですでに述べました。

三つ目の理由は文句なしに「近年の一橋では史料読解型の設問がかなり出題されている」ということです。最先端(とまでいかなくても、わりと進んだ)の歴史学における成果を、生の史料や二次文献などの史資料から読み取れるようにして、ヒントとして受験生に示した上で、その読解をもとに歴史的知識・理解を整理させるスタイルの設問が非常に多く見受けられます。こうした設問は従来の一橋の設問とは明らかに一線を画すものですし、東大型の設問とも少し異なります(東大の設問は基本的には高校で学習する内容を逸脱するものではないように思います。要求されるレベルは高いですが)。そうした意味で、こうした史料読解問題に慣れていないであろう一橋受験生のために、この手の史料読解問題を作っておいた方がいいだろう、と思って今年の予想問題は作成しました。

ちなみに、この手の予想問題を作成するには史料が必要になりますが、教科書や資料集レベルに記載されている史料では分量・内容ともに物足りないですし、探すのに骨が折れます。そこで今回私が使用したのは、たとえば一橋2015年大問1でも出題された『フランク年代記』も掲載されております『世界史史料』(歴史学研究会編、岩波書店)シリーズです。この本については本ブログで簡単に紹介しています。(http://history-link-bottega.com/archives/11994047.html)少なくとも高校生が目を通して参考になるようなものではありません。ただ、数多くの基本史料が掲載されておりますので学校の先生がちょっと気の利いた史料を使いたいなと思って調べるにはそれなりに重宝します。もちろん、歴史の専門書とか、ダイレクトに1次文献をあたることもできなくはないのですが、専門の分野で12題を作成するならともかく、広い範囲から複数題作るとなると正直なところ手間がかかりすぎますので、私の場合はまずこちらから史料をあたりました。

以上のことを考えて、今年の一橋受験を準備する上で役に立ちそうなことを述べるとすれば以下の3点です。

 

1、伝統的な出題範囲の理解はしっかりとしておくこと。

2、史料読解や2次文献の内容把握ができる読解力をつけておくこと。

3、下に示すような分野など、穴になっている部分の詳細をまとめておくこと。

 

 上の3で言う「下に示すような分野」とは、一例を挙げれば以下のようになります。

 

(大問1)

:中世ヨーロッパ史の中でも、一連の流れを持っているもの、政治・経済・社会・文化など複数の要素が絡んでくるものなど(例:ビザンツ史 / 教会と各国君主の中央集権[またはその地域差] / イタリア都市 / 議会制の発達 / 大空位時代と金印勅書 宗教政策、宗教改革と各地への影響 など)

 

某予備校のオープンで出たロシア史とかも悪くないと思いますよ。少し素直すぎるかなという気はしましたが、東欧史をついてくるというのは一橋の基本だと思います。

 

(大問2)

:基本的には啓蒙の周辺。フランス史、アメリカ史で思想的な内容の絡むものは特に注意が必要。また、アメリカ史については現代史も含めて注意。その際、防共圏の設定など国際的な枠組みが作られるような動きについては特に注意を向けておく。(例:科学革命と啓蒙 / ドナウ帝国 / アメリカ独立戦争と啓蒙 / 大西洋革命 / 19世紀ラテンアメリカとヨーロッパ / 1819世紀プロイセン / ウィーン体制下の民族運動 / アイルランド併合と英議会制度 / 19世紀後半の社会主義・労働運動 / 19世紀トルコとパン=イスラーム / フィリピンの独立 / アメリカのカリブ・太平洋進出 / 冷戦 / 戦後のラテンアメリカ / 中東戦争とアラブ など)

 

(大問3)

:明末以降の中国史や李朝末期以降の朝鮮史がベースであることには変化はないが、それをさらに時代的に広げておく。また、地域的にもインド・ヴェトナム・フィリピン・チベットあたりには目を向けておく。(例:辛亥革命以降の中国の動向 / 国民党と共産党 / 土地改革~文革 / 中ソ対立 / 改革・開放 / 朝鮮保護国化 / 19世紀後半から戦後までのインド民族運動 / インドシナ戦争~ヴェトナム戦争 / 東南アジアの民族運動 / 戦後インドネシア / 中印国境紛争 など)

 

何度も繰り返しになりますが、上に示した分野というのは、一橋の受験に「出る」というよりは、「万が一出た場合に一橋用の勉強をしてきている受験生には穴になりかねない」部分で比較的狙われそうな一連の流れ・テーマを持っているものをピックアップしたものです。一橋の設問は付け焼刃の知識やヤマ張りでどうにかなる、という類のものではないということは、過去問を解いたことのある方ならすでにご存じのことと思います。ですから、これらの分野を集中してやり直すというより、まずは基本となる勉強をしっかりとした上で、余裕があればこうした脇道の部分にも目を通しておく、というくらいがよいのかなとおもいます。「HANDのいうことはあてにならん」というくらいの捉え方の方が正しいと思いますし、こちらとしても気が楽ですw 頑張って分析したり作ったりはしますが、人間のすることですから。

 

微力ではありますが、みなさんが目標を達成できることを心からお祈りして、できる限り細々とでも更新していきたいと思います。

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