早稲田大学の文化構想学部については毎年最後の大問でまとまった文化史の出題がされています。これまでも漠然と印象派周辺の絵画史に関する出題が多いなぁと感じておりましたので、今回は過去数年分の問題について傾向分析をしてみることにしました。(文化構想学部の全問題についての分析ではなく、あくまでも最終大問についての分析ですのでご注意ください。)
まず、以下は年別に文化構想学部の最後の大問で出題された設問の解答と、解答に直接関係する(解答を導くヒントにダイレクトに直結する)と思われる関連事項について示したものです。(関連事項は基本的にリード文や設問の文章の中に含まれています。)
また、解答に結びつくいくつかのヒントがリード文や設問中には見られますが、それらのうちかなり直接的に解答に結びつく知識の一覧を示したものが以下の表になります。
これを見ただけでもかなり印象派を中心とした19世紀以降の美術史に偏っているなという印象を受けましたので、数的に分析してみることにしました。ただし、「関連知識」については主観が入り込んだり、取捨選択がされてしまう部分もありますので、解答のみに絞って数を数えて分野別にまとめたところ、以下のような結果となりました。
表中の「文化以外、その他」というのは、解答の用語自体は、文化史ではなくむしろメインは政治史などの文脈で出てくる用語になります。例を挙げると、「フランス学士院を設立したルイ13世の宰相」というヒントで出題された問題の解答「リシュリュー」は、フランス学士院との絡みで考えれば文化史の範疇に入るものですが、ルイ13世期の宰相としての側面が強い用語であることから、ここでは17世紀~18世紀の文化とは数えず、「文化以外、その他」の範疇として数えました。また、2014年の設問の解答は全てアジア史に関する設問でしかも古代史からの出題でした。その他の年の設問が基本的にヨーロッパを取り扱っておりますので、アジア史についても「その他」として扱いました。
上記のようなものを除外したにもかかわらず、年によって偏りはあるものの、やはり19世紀~20世紀の文化史の割合が多いように思われます(約52%)。ルネサンス以降、ということになれば8割弱(約77%)がそちらからの出題になります。また、19世紀~20世紀の文化史にかかわる解答のうち、「ドビュッシー」、「スメタナ」などの音楽分野や、「アインシュタイン」などの自然科学分野を除外し、印象派を中心とする19世紀以降の絵画史にのみ絞って数を数えたところ、全体の4割近くがこの分野から出題されていました。やはり、印象派などが多く出題されているという感覚はデータ的にも誤っていなかったことになります。
【対策】
全体の傾向を見ますと、特に19世紀以降の文化史(できれば17世紀以降の文化史も含めて)については少し突っ込んだ内容まで覚えるようにし、中でも印象派についての知識はしっかりと入れておけば、大抵の場合には対応できる問題かと思います。ルネサンスまたはそれ以前についても出題されることはありますが、かなり基本的な知識ばかりで、重箱の隅をつついたような設問が出ることは2014年から2021年にかけてはありませんでした。(ラファエロだの、ミケランジェロのダヴィデ像だのはルネサンスの中でもやはり基本でしょう。) それ以外の文化については、通常の学習を進めていれば事足りるので、あえて特別な対策をする必要はないかなと思います。
理想を言えば、ルネサンス以降、17~18世紀のバロックやロココ、新古典などの美術を中心とした文化がどのような流れでつながっているのかについての簡単な理解に加えて、さらに19世紀からのロマン主義、自然主義、写実主義、印象派、アール=ヌーヴォーなどがどのようなものかということについての基本的な理解ができていることが望ましいかと思います。
注意しておきたいのは、以上の傾向と対策はあくまでも「全体を見ればそういう傾向が(今のところは)ある」というだけで、「絶対にココが出る」というものではない、ということです。現に、2014年の問題なんかは印象派だの19世紀以降の文化だのやっていても全く意味はないですからね。最後には運になってしまうので、あまり傾向や予想に頼り切ってヤマをはった勉強の仕方をするのではなく、可能であればまんべんなくじっくりと取り組む形の学習を進めるべきかと思います。出題傾向は、そうした学習をしっかり積んだ上でプラスアルファとしてより重点的に学習する箇所を定めたい人か、逆に全く勉強が追い付いていない場合に、窮余の一策としてヤマをはりたい人向けのものかな、と個人的には考えています。