さて、先日は早稲田大学法学部の論述問題出題傾向について解説しましたが、今回は東京外国語大学の世界史について、特に論述問題を中心に出題傾向の解説を進めていきたいと思います。
東京外国語大学については、2025年の問題からそれまでの「世界史」ではなく「歴史総合+世界史探究」の形に形式を変更しており、また配点もそれまでの100点満点から150点満点に変わるなど、かなり大きな変更が見られました。そこで、こちらでは2024年以前と2025年の新方式について、まずは形式上の注意点について述べた後、全体の傾向と対策についてお話ししていければと思います。
【2024年以前の出題形式】
・問題数:15~16問(うち大論述1問、小論述などが1問)
・配点など(100点満点)
① 大論述(ほぼ400字[まれに500字~600字]):配点20点~25点
② 小論述(40字~150字[まれに要旨の読み取り問題など]):配点10点[まれに15点]
③ 小問(一問一答形式の記述・選択問題):配点65点~70点
以前ご紹介したいくつかの過去問解説でもお話ししていますが、2024年までは論述問題やそれに準ずる要旨の読み取り問題などの比重がそれなりに高く、30点~35点(100点満点)を占めていました。
一方で、ほぼ一問一答形式で解くことができる小問が65点~70点ほど出題されており、またその内容もごく基本的な内容であったため、まずは小問をしっかり解く基礎力を身につけることが重要でした。その上で、論述については、満点を狙いに行くよりもまずは設問の要求にしっかり答える形でかける部分を書いていき、半分強もとれれば小問の取りこぼしがなければ十分に7割~8割程度を狙える、世界史が得意な人であればそれ以上も狙える内容の問題でした。ただし、論述の内容は小問と比べるとレベルも高く、やや難しい内容であったため、実際には小問をしっかりおさえて8割ごえをめざし、配点が大きい英語(300点)の足しになるようにするというところが現実的な目標となっていたように思います。
【2025年の出題形式】
・問題数:17問(うち400字論述1問、300字論述1問、論旨の読み取り問題1問)
・配点など(150点満点[歴史総合60点、世界史探究90点])
① 400字論述:配点40点
② 300字論述;配点30点
③ 論旨の読み取り問題(30字):配点10点
④ 小問(一問一答形式の記述・選択問題):配点70点
これに対し、2025年の問題ではいくつかの大きな変更が見られました。
・変更点1:歴史総合+世界史の総合問題に
・変更点2:配点が150点に増加(外国語は300点のまま)
・変更点3:論述問題の全体に占める割合が増加(約半分が論述問題)
まず、変更点1についてですが、大学入学共通テストと同じく世界史探究だけではなく、歴史総合が追加されました。(これは、日本史の方でも「歴史総合+日本史探究」の形に変更がなされています。) 「歴史総合」が科目として入って来るとは言っても、問題によっては日本史の内容にそこまで突っ込まない内容の出題も多いので、特に世界史履修者の場合には「歴史総合」の対策を特に行っていなくても解けてしまうというケースはあり得るのですが、東京外国語大学の場合はどうだったのでしょうか。
あらためて2025年の東京外国語大学の「歴史総合」の問題を見てみますと、世界史の知識だけでも解けなくはないのですが、論述問題や論旨の読み取り問題に「外国債」についての理解を試したり、「東洋連衡」などを指定語句として福沢の脱亜論と対比させるなどの内容が入っており、通り一遍の世界史の知識に頼るよりも、より日本史部分についての理解を深めている方が解きやすい設問がいくつか見られました。そういう意味では、「歴史総合」について、特に日本史部分を中心に復習しておくことは有益であるように思われます。ただし、コスパの面を考えると疑問符もつくので、できれば高1のうちにがっちり歴史総合を固めておきたいところです。
変更点の2についてですが、2次試験において「歴史総合+世界史探究」の配点が150点となり、従来の世界史(地理歴史)の100点から50点増加しています。英語の配点は300点と変化がありませんので、これは歴史の全体に対する配点比率が上がったことを示しています。(25%から33%に上昇。)2024年以前は、何だかんだいって英語が全体の75%を占めていたので東京外国語大学では英語が主役、世界史は足を引っ張らない程度にできればよいと考えていた人もいたと思うのですが、さすがに歴史が全体の3割を超えてくると、そうも言っていられません。このことは、今後は東京外国語大学を目指す受験生は英語一辺倒ではなく、ある程度歴史にも力を注ぐ必要が出てくることを示しています。次々に試験から世界史を削っていっている早稲田(母校w)などと比べると真逆の動きで、「さすがに分かってんな!」という気が個人的にはします。世界史を教える立場としては応援しますw
変更点の3についてですが、これがおそらく一番重要かもしれません。何しろ、「歴史総合+世界史探究」150点中、70点(約47%)が論述問題で、しかも300字論述と400字論述というかなり重ための論述が歴史総合と世界史探究のそれぞれで課せられています。また、歴史総合で出題された論旨の読み取り問題の10点を論述の一種として計算すると、実に150点中80点(約53%)となり、論述の配点に占める割合が半分を超えて来ます。ただでさえ全体配点に対して歴史の占める割合が増えてきているところに、半分近くが論述問題になっているわけですから、これはもう完全に別物の試験です。2024年以前のように、世界史の基礎を身につけて小問を「ちょちょいっ」と解くというレベルでは、もはや通用しません。もし、来年度も同様の出題形式・内容になるのであれば、東京外国語大学を受験する際に論述対策は必須となると考えてよいでしょう。
とは言え、「歴史総合+世界史」になったのは2025年が初めてですから、今後もこの傾向が続くかどうかは何とも言えません。来年以降、2~3年ほどは問題形式・内容が定まるかどうか様子を見る必要があるでしょう。
【東京外国語大学「世界史」大論述・小論述の出題傾向(2006年~2025年)】
:以下は、東京外国語大学の「世界史」(2025年は「歴史総合+世界史探究」)の大論述と小論述の出題テーマを示したものです。大論述、小論述ともに3語~5語程度の指定語句が示されることがあり、それらの語数については表中の〇の中にある番号で示しています。
時折、イレギュラーな問題が出ることもありますが、概ね近現代の国際関係などを中心としたものが多く見られます。また、文化史が出題されることはまれで、政治史・経済史が中心となっています。内容的には、いわゆる王道のテーマが出題されることが多く、ニッチな内容が主題とされることはめったにありません。以前にもご紹介した通り、東大で出題される近現代史の問題とテーマ的には親和性が高いと言えるでしょう。
ただし、東京外国語大学の場合には、リード文や途中で紹介される史資料のかなり深いところまでの読み取りが要求されることが少なくありません。そういった意味では、上智のTEAP利用型などとも似ているところがあるかもしれません。(一橋なども資料読解型の部分はありますが、時代・テーマ的に東京外国語大学とはかなりズレがあります。)
【東京外国語大学「世界史」大論述が対象とした時代区分(2006年~2025年)】
:続いて、以下は東京外国語大学の「世界史」(2025年は「歴史総合+世界史探究」)の大論述が対象とした時代がいつであったかを表にまとめたものです。
【対策など】
:上記の通り、東京外国語大学では2025年に歴史分野についての配点比率が上がり、中でも論述問題の比率が大幅に高まった出題がされました。ですから、これまでのように「英語にだけ力を注いで歴史は片手間でよい」という姿勢では、歴史をしっかり勉強してきた受験生に差をつけられてしまうことになるでしょう。また、論述問題の比率が高いことを考えると、付け焼刃の勉強ではどうにもなりませんので、東京外国語大学の論述に的を絞った論述対策をしっかりと進めていく必要があります。幸いなことに、出題テーマについては大きな変更は今のところ見られないので、東京外国語大学の過去問演習は依然として有効です。効果的な学習法としては以下のようなものが挙げられると思います。
① 世界史探究のしっかりとした基礎固め
(少なくとも、大学入学共通テストで9割が狙えるレベルにしておく)
② 歴史総合のうち、日本史分野の見直し
③ 世界史探究の近世以降(16世紀以降)の歴史の重点的な見直し
④ 大学入学共通テスト過去問演習や実戦問題集演習
⑤ 東京外国語大学「世界史」過去問の演習
⑥ 上智大学TEAP利用型過去問の演習
⑦ 東京大学過去問の演習(大論述・近現代史を中心に。第3問の演習は有益)
もっとも、上記のうち⑥・⑦は「余裕があれば」で良いと思います。上智については東京外国語大学と併願するケースも少なくないでしょうから、その場合には両方の過去問対策を進めることは非常に有益かと思います。
また、配点比率が下がったとはいえ、依然として英語は全体の3分の2を占めますので、英語をおろそかにしては始まらないことには変わりがありませんので、注意しましょう。