(注意:本記事は2015年~2021年分を分析した記事になります。)
上智のTEAP利用型が始まって今年で7回目です。上智は2015年度からTEAPを活用した試験を導入してきましたが、この試験では世界史が採用されています。かなり本格的な史料読解と論述試験が採用され、多少の試験形式の変更はあるものの、史資料を提示し、それに関する5問程度の小問と2題の論述問題を課すというスタイルに変更はありません。開始から7年分が出そろったということで、データとしてもかなりまとまったものになってきておりますので、以前書いた分析記事の更新を行ってみようかと思います。もっとも、以前から2年分しか追加されておりませんので、内容的に変わらない部分もあるかと思います。年ごとの設問解説は別途掲載しております(一部、抜けている年があります)ので、そちらをご覧ください。
過去7年分の上智TEAP型の設問データは以下の通りです。
(試験時間、設問数、論述字数と全体のテーマ、扱われた主要な時代)
試験形式については、初年度と2年目についてはやや安定を欠きましたが、その後は概ね小問5問前後、論述2題の形式に落ち着いています。ただし、リード文として示される文章の量と、論述として要求される字数についてはかなりの差があるので注意が必要です。また、試験時間については当初60分試験であったものが、ここ4年間は90分試験に変更されています。そうした意味で、過渡期であった2017年の設問は論述の難度、字数、試験時間を考慮した場合にややアンバランスなものとなり、受験生にはかなり厳しい年となりました。おそらく、この2017年問題がこれまで出題された設問の中では条件も含めて考えた場合に最も難しかったものだと思います。
上智TEAP利用型世界史の問題では、小問には特別見るべきものはありません。2020年にやや難化したかと思われましたが、2021年の小問ではむしろ簡単になりましたので、平均してみれば旧センター試験または中堅私大クラスの出題がされているかと思います。問題数が少ないことを考えても、取りこぼすことなく全問を正解したいところです。論述問題については意外に一橋に通じるものがあり、史料読解と世界史の知識を合わせて適切な解答を用意するというプロセスを受験生に要求します。史料を読ませる、という意味では東京外語の問題とも似たところがありますが、外語の問題よりも解答作成に際して史料に依拠する割合が高い(史料から読み取った内容を解答に反映させる必要があることが多い)です。また、外語の小問数が多いのに対して上智の小問数は少なく、論述が占める割合が非常に高くなっています。(もっとも、それが配点の面においてもそうであるかは定かではありません。)また、こうした史料読解型の設問はこれまで東大ではあまり出題されてこなかったのですが、つい最近東大でも史料の読み取りと利用を要求する設問が出題されました(2020年)。もっとも、東大ではその後通常の出題形式にもどりましたので、今後どうなるかは分かりませんが、大学共通テストでも史資料を用いた出題が増加していることを考えると、今後こうした出題が増えてくることはほぼ確実かと思います。上智の世界史論述問題は、年によって良し悪しはありますが、全体的に論述問題としてはよく練られていて、質はかなり高いと思います。
全体のテーマも論述も近現代史が中心です。今のところは16世紀以降しか出題がされておらず、また16世紀について出題された2020年を除けば、18世紀以降からしか出題されていません。また、地域としてはヨーロッパとその周辺が主です。前回の解説では「アジア・アフリカでも植民地史や独立のプロセスなどはしっかり追っておくべきでしょう。」としておりましたが、2021年問題はまさにロシアの進出と中央アジア(一部イギリスの進出)が主要なテーマでした。また、2020年問題はアジアも関連はしていましたが主要なテーマはフランシスコ=ザビエルやイエズス会宣教師の布教活動で、やはり主軸が置かれているのはヨーロッパであったと思います。テーマ自体は一橋よりも東大や外語に親和性がある気がします。類似の設問として、前回解説では2016年のスペイン領と13植民地の「対照的な」という表現が1998年東大のアメリカ合衆国とラテンアメリカ諸国の対照的発展についての問題と類似していること、2018年のヨーロッパ統合の「加速」・「抑制」要因という表現が、2006年東大の戦争の助長要因と抑制要因についての問題を思い出させることなどを指摘しましたが、これに加えて2021年のロシアの進出とユーラシアの国際関係というテーマが2014年の東大で出題されたロシアの対外政策とユーラシア各地の国際関係変化について述べるという問題と似通っていることも追記しておきたいと思います。やはり、「別の大学の過去問は見る必要がない」とすぐに切り捨てるのではなく、余力があればですが、幅広く様々な問題に触れておくことが結果として対応力の底上げにつながるのではないかと思います。
注意点としては、2020年から2年続けて論述問題の質が変化しています。2019年までは史料読解の必要はありつつも基本的には世界史の知識と読み取った情報を整理してまとめれば十分であったのに対し、2020年と2021年の論述問題では解答者自身の見解や用意された文章の文脈を考慮する必要があるなど、解答者自身が自分の言葉で語る必要のある設問が続けて出題されています。この傾向が今後も続くかどうかは分かりませんが、今後も続くとすれば受験生はかなりの文章読解力と文章作成力を要求されることになります。また、今後は同様の問題が出題されない場合でも、これまでの上智の出題を見るに何かしら実験的な出題や変化が起こってくる可能性は十分に考えられます。過度に過去問の傾向に頼りすぎるのは禁物です。目先の変わった問題に出くわしたときに焦らない気構えと対応力を備えておくべきかと思います。一方で、時代と場所・テーマについては近世以降のヨーロッパ史が主であることは確かです。ただ、これも7年分しかデータがないということは肝に銘じておくべきかと思います。
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