今回は、学習院大学文学部の第5問(200字論述×2)の分析をしてみたいと思います。同大学の論述分析をしてみようと思い立った理由ですが、「①傾向がかなりはっきりしている」、「②100点満点中30点と全体の中でかなりの比重を占めている」、「③2016年以降は試験時間が90分となっており、解き方次第ではしっかり論述に取り組むことができる」などがあげられます。
学習院大学文学部の第5問は、毎年テーマA・Bの論述問題となっており、各200字が割り当てられています。内容的にはごく基本的なものですが、同大の傾向としてやや社会史的なテーマや国際関係史が好んで出題されますので、用語集頼みで用語のみ覚えていて、それぞれの事象のつながり、全体のストーリーをよく把握していないという受験生はやや苦戦するかもしれません。(例:唐から宋にかけての社会経済上の変化について / 11世紀末から13世紀末までにおけるヨーロッパ世界の拡大について) また、各テーマごとに3つのキーワードが与えられていますので、ややテーマに偏りがあることを除けば、200字前後の論述問題の練習問題としては適している内容かと思います。各年度のテーマA・Bとキーワードの一覧は以下の通りです。
さて、全体の傾向ですが、Aの方ではほぼ中国史、Bの方ではヨーロッパ史が出題されます。どちらも王道のテーマが出題されており、特に奇をてらった出題などはされていません。その分、地力が試される問題であるといえるでしょう。Aのテーマ過去14年分(2009年~2022年)を『詳説世界史研究』の単元別に分類したものが以下の表とグラフになります。分類に際しては、出題の意図に沿って適していると考えた単元に分類しました。(たとえば、2018年Aの「唐から宋にかけての社会経済上の変化について」は「内陸アジア世界・東アジア世界の形成(唐末期)」という単元でも少し触れられる内容ではありますが、明らかに要求されている内容が「内陸アジア世界・東アジア世界の展開(宋代)」の方で語られる内容になりますので、後者でのみカウントしています。ただし、2022年Aの「魏晋南北朝時代から宋代に至るまでの官吏登用制度の変遷」だけは複数の時代にまたがっていることから、「内陸アジア世界・東アジア世界の形成」と「内陸アジア世界・東アジア世界の展開」の両方でカウントしました。(そのため、合計が15となっています。) ですが、ほとんどの年度ではどこか1か所のテーマに分類できましたので、複数のテーマが絡んだ複雑な出題は基本的にされていないことが分かります。
(各テーマの分類表[2009-2022年])
(テーマAの分類グラフ[2009-2022年])
ご覧のように、基本中国史なので、イスラームなどの出題もありません。(これは、今後もないことを保障するものではなく、過去14年については出題されていないと言っているだけです。) もう少しわかりやすく、中国のいつ頃の時代がテーマとなっているかを整理し直したのが以下の円グラフになります。
上述したテーマ一覧と合わせてご覧いただけると良くお分かりになるかと思いますが、中国古代史と宋代に関係した出題が多く、半分以上はこれらをテーマとして出題されています。対して、明・清と近現代は全体の2割程度にすぎませんので、論述問題に限って言うのであれば、もし「ヤマをはりたい」、「コスパを重視したい」のであれば宋代までの中国史を重点的に勉強することになるでしょう。(これは、「ヤマをはれ」と言っているのではなく、もし時間がない・余裕がないので、論述について偏った対策の仕方をしたいというのであれば、ということです。)
一方、テーマBのヨーロッパ史についてはもう少し分野・テーマに広がりがあるように思われます。以下はBのテーマ過去14年分(2009年~2022年)を『詳説世界史研究』の単元別に分類したグラフです。
多少、テーマAの中国史よりは散らばりがあるとはいえ、それでもかなりの部分が「オリエントと地中海世界」ならびに「ヨーロッパ世界の形成と発展」に集中しています。中でも、「オリエントと地中海世界」から出題されたのは4回中ギリシア史が2回(2012年、2021年)、ローマ史が2回(2017年、2019年)と、古代ヨーロッパ史の王道というべき内容が出題されています。一方、「ヨーロッパ世界の形成と発展」については2015年に出題されたイギリス議会制度の発展を除けば、「西欧の拡大」、「封建社会の衰退」、「中世都市における市民と権力」というように、どちらかと言えば社会経済史にかかわる出題がされています。全体に傾向がはっきりしていますが、教授陣の入れ替えなどによって専門分野ががらりと変わったりした場合には出題傾向が変わる可能性も否定できませんので、そのあたりには注意が必要かと思います。
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