早稲田大学商学部の世界史は、単純に「細かい知識をたくさん覚えればよい」というタイプの試験ではありません。
2022~2026年度の5年間について、通常問題245問と論述5題を一問ずつ確認すると、人物・制度・年代・地理・文化史などの知識を、互いに正確に結びつけて使う力が強く求められていることが分かります。
また、大問ごとの地域や形式にもかなり安定した傾向があります。
ここでは、2022~2026年度の過去問分析をもとに、早稲田大学商学部の世界史でどのような問題が出題されているのか、どのような対策が有効なのかを、具体的な数値とともに整理します。
なお、本記事では、大問Ⅳの空欄1つを1問として数え、論述は通常問題とは別に検証しています。
【早稲田大学商学部・世界史の基本構成】
近年の世界史は、毎年ほぼ次の構成になっています。
論述問題以外の問題(通常問題)245問のうち、180問が選択式、65問が記述式空欄です。
割合にすると、選択式が73.5%、記述式空欄が26.5%となります。つまり、通常問題のおよそ4問に1問は、選択肢を見て答えるのではなく、世界史の用語を自力で思い出して書かなければなりません。
そのため、早稲田商対策では、「選択肢を見れば分かる」という状態だけでは不十分です。重要用語については、自力で再生できるところまで仕上げる必要があります。
また、2022~2026年度の大問テーマを並べると、かなり明確な傾向が見えてきます。
① 大問Ⅰは5年連続で西ユーラシア系
:2022~2026年度では、大問Ⅰは直近の5年では連続で西ユーラシアを中心とするテーマになっています。ただし、一国の通史をそのまま問うのではなく、政治・経済・文化・宗教・地理をまたいで出題される点が重要です。たとえば、2023年度では、中世ヨーロッパの農業・都市・十字軍・シャンパーニュ大市・ハンザ同盟などを一つの大問の中で横断的に扱っています。
② 大問Ⅱは5年連続で中国・東アジア系
:さらに明確なのが大問Ⅱです。大問Ⅱでは、
2022年度:モンゴル帝国と中国社会
2023年度:清朝の版図拡大と多民族統治
2024年度:中国・東アジア史
2025年度:中国とアジア海域交易
2026年度:唐の興亡
となっています。
2023年度では、女真・モンゴル・チベット・新疆・朝貢関係など、清朝を多民族帝国として理解しているかが問われています。
5年間の出題のうち、大問Ⅱで出題されている問題は「12問×5年=60問」あります。そのため、少なくとも2022~2026年度については、中国・東アジア史は優先度の高い対策分野と考えてよいでしょう。
ただし、大問内では中国周辺地域にも広がるため、60問すべてが純粋な中国史問題という意味ではない点には注意が必要です。
大問Ⅰ・Ⅱだけで通常問題の約半分あります。つまり、通常問題の約半分を占める大問Ⅰ・Ⅱで、西ユーラシア系と中国・東アジア系という地域配置が5年連続していることになります。
一方で、大問Ⅲはテーマ史的な出題が多く、年度によってテーマが大きく変わります。
2023年度では「革命」を軸に、アジア・アメリカ・イギリス・フランス・ロシアまで横断しています。複数の革命を年代順に並べる問題も出題されています。2025年度は戦争・軍事技術と国家形成、2026年度は帝国主義・植民地支配・抵抗が中心です。
したがって大問Ⅲは、一国の通史よりも、同じテーマを複数地域・複数時代にまたがって理解しているかを見る大問と考えるとよいでしょう。
また、大問Ⅳは早稲田商で特徴的な長期テーマ史となり、13問の記述式空欄と100~120字程度の論述問題という形になっています。論述5題まで含めると、5年間で大問Ⅳには70問相当が配置されています。そのため、大問Ⅳは「最後に論述が1問ある大問」ではなく、試験全体の4分の1以上を占める大規模なテーマ史問題として対策すべきです。
2023年度では、古代アテネの民主政からアメリカの参政権、さらに現代のSNSまで一つのテーマでつながっています。このように、大問Ⅳでは、現代までつながる問題が毎年見られる傾向があります。たとえば、
2022年度:ファーウェイ
2023年度:CTBT・イラク戦争・SNS
2024年度:TPPなど現代の国際政治・経済
2025年度:基軸通貨・女性解放
2026年度:フェンタニル・現代の政党対立
などが出題されています。
したがって、早稲田商では、世界史の学習を第二次世界大戦や冷戦終結で止めないことが重要です。ただし、単なる時事雑学ではなく、歴史的なテーマの延長として現代を理解することが求められています。また、最低限のニュースなどは確認しておきましょう。
【年代は「年号暗記」だけでなく時系列が重要】
年代・時系列に関係する問題は5年間すべてで確認できます。
これらの問題では、単純な年号だけでなく、複数の出来事の前後関係を判断する問題も見られます。たとえば、2023年度の問題では、「立法議会→国民公会→ジロンド派追放→バブーフ処刑」というフランス革命期の政治過程が問われています。また、アジアや南北アメリカの革命を年代順に判断する問題もあります。
このため、「1789年=フランス革命」のような一点的暗記だけでなく、同じテーマに属する出来事の前後関係を整理することが重要です。
【地理上の知識も5年すべてで必要】
地理知識を必要とする問題も5年間すべてに見られます。例として、
・エルベ川とハンブルク
・リューベックとハンザ同盟
・ハンザ商館としてのベルゲン
・アルタン=ハンとフフホト
・東晋、南朝の都としての建康
・洛陽と竜門石窟
・安南都護府の位置(ベトナム北部)
・ニューアムステルダム(ニューヨーク)
などがあります。2023年度では、エルベ川・リューベック・ベルゲンが直接問われています。
したがって、早稲田商対策では、世界史用語集だけでなく歴史地図や資料集を併用するなど、地理的把握をしっかりしておくことが必要です。
ただし、
【人物は「名前+事績」で覚える】
5年間を通して、人物と事績・著作・制度を結びつける問題が繰り返されています。
たとえば、
・トゥキディデス:『歴史』(ペロポネソス戦争)
・法顕:『仏国記』
・楊炎;両税法
・顧炎武:『日知録』
・マルグレーテ:カルマル同盟
などです。
そのため、早稲田商では人物名を必ず関連事項と結び付けて覚える習慣をつけることが重要です。設問自体は基本的かつ脊髄反射的な一問一答的発想で答えられるものが多く、複雑な思考を必要とするものではありません。
【文化史が比較的重要】
商学部という名称から経済史中心の試験を想像するかもしれませんが、実際には文化・宗教・学術系の出題もかなり見られます。2022年度はルネサンス、2025年度はキリスト教・教会史、2026年度は文字の発達・伝播が大問テーマになっています。
つまり、少なくとも5年間のうち3年分で、文化・宗教・学術系の内容が大問の中心になっています。そのため、文化史や宗教史を受験直前まで後回しにする学習法は避けた方が良いでしょう。
【過去問で出た事項が別角度から再び出題】
5年間の比較では、同じ人物・制度・テーマが別年度に異なる角度から再び問われる例も確認できます。たとえば、以下のようなものが確認できます。
重要なことは、「一度出題された重要人物・制度・テーマが、別角度から再び問われることがある」という点です。特に、2024年度で選択問題として扱われたカンザス=ネブラスカ法は、2026年度にはミズーリ妥協との違いと南北対立への影響を説明する論述の中心事項になっています。したがって、過去問演習の際には、答えだけを覚えるのではなく、「年代」、「内容」、「原因」、「結果」、「関連人物」、「関連事件」などの周辺事項や関連事項まで確認する価値があります。
【論述問題は5年連続で100~120字】
論述問題を比較すると、形式と要求にかなり明確な傾向があります。
2022年度では、アメリカ金融機関からの借入、累積債務、原油価格低下、アメリカの金利上昇をメキシコ債務危機につなげています。
2023年度では、ジャクソン当選の背景について、西部開拓・自営農民・産業資本主義・労働者・白人男子普通選挙を因果的につないでいます。
2024年度では、サン=ステファノ条約から列強の反発、ベルリン条約、ロシアの影響力後退までを説明しています。
2025年度は新移民の特徴から反発、1924年移民法による規制までを説明しています。
2026年度も、ミズーリ妥協とカンザス=ネブラスカ法の違いから奴隷制拡大問題、共和党結集、南北緊張へつなげています。
論述問題の傾向としては、「原因→変化→結果」あるいは、「制度A→制度Bとの違い→その影響」などが出題の中心となる傾向があるため、こうした関係を短くまとめる練習が有効です。
また、過去5年間の出題に関する限りでは、「2023年度:ジャクソン」、「2025年度:新移民」、「2026年度:奴隷制問題」と3題が明確なアメリカ史であるため、アメリカ史については重点的に確認しておきたいところです。(2022年度のメキシコ債務危機も、アメリカの金融機関や金利政策との関係が重要でしたので、そこまで含めれば8割がたがアメリカ史という見方も可能です。)
また、論述以外の通常問題でも、独立・ハミルトン・ニューヨーク・奴隷制・黒人参政権・政党政治・現代社会の分断などが繰り返されています。中国・東アジア史に加えて、アメリカ史も重点的に学習したい分野と考えてよいと思います。
【2027年早稲田大学商学部「世界史」出題予想】
あくまでも出題傾向は傾向なので、絶対に出るとは言えませんが、仮に自分が2027年の早稲田大学商学部の世界史試験を受けることになった場合、特に気を付けておきたい箇所をあげるのであれば、以下のような内容になるかと思います。
① 宋代の政治・経済・社会
中国史の中で直近5年の独立テーマとしては手薄です。
また、「唐→五代」までを2026年に扱ったため、その次の時代として自然な箇所です。
② 王安石の新法
①と同じですが、宋史の中心事項であり、かつ財政・経済政策という商学部との相性も良いです。
③ 宋と遼・西夏・金の国際関係
中国を周辺諸民族との関係から扱う商学部の出題スタイルに合うと思います。
④ 宋代の商業・都市・紙幣
交子・会子、開封・臨安、海上交易など「経済史」と接続しやすい箇所です。
⑤ 明末清初~清代の経済・貿易
2023年の清朝は帝国統治中心だったため、経済面は再利用余地が大きいかと思います。
⑥ 朝貢・冊封と東アジア国際秩序
2024~26年の東アジア史を横につなぐテーマとして出題しやすい内容です。
⑦ アメリカ独立革命と合衆国憲法
大問Ⅳの最重要基礎事項です。2022・23・26年にも関連事項が繰り返し登場しています。
⑧ ハミルトンと連邦派
2022年にハミルトンが直接出題済みです。連邦派と、それに対抗する集権主義などがありえます。
⑨ ジャクソニアン=デモクラシー
2023年度論述そのものの周辺領域で、過去問知識の再利用候補です。
⑩ 南北戦争・奴隷制・再建期
2026年に中心テーマ化されたため、周辺事項を別角度で再利用する可能性があります。
⑪ ミズーリ協定・カンザス=ネブラスカ法
同じく、2026年度論述の核心です。商学部は過去問事項を数年後に再利用することがあります。
⑫ アメリカの工業化・独占資本・反トラスト法
2022・24・25年度の経済史・金融史との接続性が高い内容です。
⑬ ニューディール政策
アメリカ経済史の王道の大テーマですが、直近の大問Ⅳでは主役になっていません
⑭ ブレトン=ウッズ体制・ドル基軸通貨体制
2025年に「基軸通貨」、2022年にGATT・ケネディ=ラウンドが出ており再整理価値が高い。
また、最近の円安などの話題とも合います。
⑮ GATT・WTOと自由貿易
商学部との親和性が非常に高いです。
⑯ プラザ合意
出題されるとされるとすれば単問と思いますが、最近の為替をめぐる動きとも合います。
⑰ 産業革命とイギリス経済
2024年度は帝国主義・金融資本、2026年度も帝国主義を扱ったため、その前提となる産業革命は重要です。
商学部は一つのテーマから前後数世紀へかなり広く設問を振るため、予想事項を中心に周辺知識まで広げておくことが重要です。特に「宋史」と「アメリカ経済史」の2本は、2027年度入試では注意したい箇所です。
【早稲田大学商学部・世界史の対策:まとめ】
2022~2026年度の数量分析と問題内容の精査から、特に次の点を重視したいところです。
1. 中国・東アジア史を優先度の高い分野として仕上げる
2. 大問Ⅰ対策として西ユーラシア史を広く押さえる
3. アメリカ史は近現代まで丁寧に学習する
4. 文化史・宗教史を後回しにしない
5. 重要用語は選択肢で分かるだけでなく自力で書けるようにする
6. 年代は単独年号だけでなく時系列でも整理する
7. 歴史地図を使って都市・地域を確認する
8. 人物は事績・著作・制度とセットで覚える
9. 過去問で出た事項は周辺知識まで復習する
10. 論述では原因・変化・結果を100字前後でまとめる練習をする
直近5年間についてみた場合、大問構成や出題分野にはかなり安定した特徴が見られます。
一方で、テーマそのものは幅広く、同じ人物・制度・事件も異なる角度から問われることがあります。
そのため、「頻出用語だけを覚える」のではなく、「頻出する知識のつながり方」を理解することが、早稲田大学商学部の世界史対策では特に重要だと考えられます。
ただし、こちらの出題傾向はあくまで直近5年間の傾向を分析したもので、それ以前の問題なども含めればまた別の傾向が見える可能性もあります。また、出題傾向はあくまで傾向であって、次年度以降の出題を保証するものではありません。重点的に対策する箇所は意識しつつも、そこだけの対策で満足しない方が良いでしょう。



