世界史リンク工房

大学受験向け世界史情報ブログ

カテゴリ: 勉強法と学習の際の注意

昔からよく「世界史ってどれくらい勉強すればできるようになりますか?」という質問を受けます。これについては、個人差がかなりありますし、東大などの難関国公立や早慶などの難関私立では必要となる知識の質と量も変わってくるのですが、難関国公立・私立どちらも目指す場合に「最低限必要なラインと言うのはどのあたりか」ということを中心に考えてみたいと思います。私個人の感覚なので、根拠があるわけではありません。あくまでもどこかのおっさんが勝手なことを言っているという一つの参考程度にお考え下さい。
まず、「難関校を中心に…」と言っておいてアレなのですが、個人的には、世界史は高偏差値の大学と低偏差値の大学との間で、問題を解く際に必要とされる知識・学習量の幅がそれほど大きくない科目だと思っています。よく、「この大学は偏差値がそんなに高くないから、チャチャッと2、3カ月勉強すれば大丈夫」と勘違いされることが多いのですが、実はそんなに簡単ではありません。中堅校より偏差値的には低い大学の問題であっても、結構広い範囲、色々な内容から出題されます。たしかに、問題のレベル的には早慶の正誤問題のように重箱の隅をつついたような設問が出されることはありませんが、それでもその事実を知らなければ解けない問題が出されますので、世界史の通史について「広く・浅い」知識は必須となります。
たとえば、以下は共通テスト偏差値(河合塾)で言うと40~50くらいの大学の一般入試で実際に出題された内容について、一部アレンジを加えたものです。

・北魏を建国した鮮卑の氏族名は何か。(答:拓跋氏)
・九・三〇事件をきっかけに実権を握ったインドネシアの独裁者は誰か。(答:スハルト)
・フランスで初めて三部会を招集したフランス国王は誰か。(答:フィリップ4世

これらはどれも選択問題でなく記述問題として出題されているので、答えは知らないと書けませんから、問題のレベル的には決して易しくありません。また、範囲も比較的満遍なく出題されることから、これらの問題に満足いくレベルで対処するためには、少なくとも教科書の太字部分くらいの知識はしっかり頭の中に入っているという状態が要求される設問だと言って良いと思います。
もちろん、一部の大学についてはある程度「必ずこの時代、この分野が出る」とか、「この部分が出題されやすい」といった傾向が顕著な大学もあるのですが、大部分の大学では広い範囲から出題され、出題範囲を限定することが困難な場合が多いです。また、傾向はあくまで傾向であって、来年度も同じ傾向で問題が出るとは誰にも言えません。つまり、世界史は「ヤマをはる」とか「一部、短期間やれば点が取れる」と言った科目ではなく、かなりがっつり勉強しないと偏差値に関係なく受験問題を解く役にはたたない、「やるか、やられるか」の科目なのです。逆に言えば、「やってやる!」と一念発起して世界史通史を身につければ、偏差値帯にかかわらずある程度は戦えることを意味していますので、しっかり勉強しているうちに自分が狙っていたよりも高い偏差値帯の大学に挑戦するための武器になるかもしれない科目でもあります。
それでは、世界史探究の通史をある程度完成させるためにはどれくらいの学習量が必要になるのでしょうか。普通、高校の授業では「世界史探究」は週3コマ~4コマ(1コマ50分)の授業が設定されていて、高2~高3の2年かけて通史を終えますが、「2年かけても通史が終わらない」ということはザラにあります。私の経験では(当時は「世界史B」でしたが)、高2から始めて週4コマ(1コマ50分)で進め、一応高3の1学期には全通史が終わるというかなり超高速の授業展開でした。それでも夏休み前には「1週間~2週間で補講16コマ(自由参加)」というような無茶なことをしてようやく終わる(でも受験に必要だからみんな出席)というような状態でした。週4コマですと2年間でだいたい190~210コマくらい(高3の3学期は除く)あるイメージなので、総時間数で言うと160時間~180時間くらい授業をする感じでしょうか。この分量の内容を数か月でモノにするのはかなり無理がありますから(本人の努力次第でできないことはないのですが…)、やはり計画的に早いうちから準備をしておくことが望ましいです。できれば新高2になって間もなくから始めて1年半で通史を完成させ、高3に入るあたりから問題演習を併用し、最後の半年を問題演習や過去問対策に集中してあてるというサイクルが理想です。遅くとも、新高3の始まる頃には通史の学習・復習を始めておくべきで、最も遅くても夏休み前後から始めるのが、通常対処し得るギリギリのラインではないかと思います。
私の経営する塾の卒業生では、世界史をほぼゼロ学習から始めて、授業で「ヨーロッパ中世史(フランク王国あたり)~現代史」を週3~4コマ(1コマ80分)で進めて完成させたというのが最高速でした。(だいたい、山川出版社の『詳説世界史ノート』の内容について7割~8割方身につけた状態で、第2志望校に合格できました。)これはかなり極端な例ですし、ご本人の努力によるところが大きいとは思いますが、同じく世界史ゼロ学習から週2コマ(1コマ80分)で10カ月程度であれば、やや負荷はかかりますが、通史について難関大に通用するレベルまで持っていくというのは比較的現実的な選択肢としてあり得ます。もちろん、その場合もただ授業を聞いていればよいというわけではなく、家庭学習等で受験生自身が復習したり、覚えたり、問題を解いたりという努力を重ねることが前提です。その場合、80分×週2×10カ月(40週)=6400分=約110時間の授業で一通り通史を網羅することになります。ですから、無理のない週1ペースであれば80分×80週の計算になりますので、やはり新高2から始めて20カ月(約1年半+α)くらいのペースが目安になりますよね。
これらを踏まえて、受験で使えるレベルに世界史を仕上げるのに必要な学習量はどれくらいになるかと言いますと、難関大に対応できるしっかりした地力をつくるには最低限以下の内容をこなすことが望ましいです。

① 通史の網羅
:教科書や学校・塾プリント、『詳説世界史ノート』などの完成と暗記。

② 共通テスト向け問題集を1周
:『30テーマ世界史問題集』(山川出版社)など、共通テスト向けの問題集を1周。

③ 標準的な世界史問題集を1周
:『世界史標準問題精講』や『関東難関私大世界史問題集』(山川出版社)、『実力をつける世界史100題』(Z会)など、古代から単元別に復習できる問題集を1周。また、関西圏であれば『新版関関同立入試対策用問題集』(山川出版社)なども選択肢としてはあり得ます。(どれか1冊でOK。)

④ 大学入学共通テストや志望校の過去問対策
:自分の志望に合わせて最低数か年分、できれば5か年~10か年分。

以上が最低限ですが、これに加えて難関国公立・早慶などについては以下のものが必要となるかと思います。

⑤ 『早稲田大学入試対策問題集』、『慶応義塾大学入試対策問題集』(山川出版社)
:単元別ではないですが、私大の問題としては最高難度の問題が数多くそろっています。こちらを全て解き切り、内容を消化できる(解く力を身につける)のであれば、上記③については必ずしも必要ではありません。

⑥ 志望校過去問
:早慶については志望学部とその周辺や併願校・学部について最低5か年分。難関国公立については、できるのであればできる分だけ過去にさかのぼってやっておくにこしたことはありません。ですが、「解いている時間がない」ということであれば、東大であれば『テーマ別東大世界史論述問題集』(駿台文庫)などを用いて、広い範囲について解答作成にいたるまでのおおよその道筋やテーマなどについての理解を深めておくことが望ましいです。

⑦ 論述対策問題集
:国公立や論述が出題される私大については、その大学の過去問対策でも良いのですが、早いうちから論述に慣れておきたいという場合には『段階式世界史論述のトレーニング』(Z会)などの論述問題集に取り組んでみるのも良いかと思います。

だいたいこれだけの内容がこなせれば、世界史は「どうにかなる」というよりもむしろ「武器にできる」レベルの力が手に入るはずです。ただ、最初にも申し上げたように世界史学習には個人差があります。人によっては、教科書1冊や用語集1冊あれば難関国公立早慶に合格してしまうくらいの学力を身につけてしまうというケースもありえます。(私自身、高校の頃に学習したのは『詳説世界史研究』丸暗記+資料集たまに見る+過去問対策くらいで、他の問題集等には手をつけませんでしたが、世界史は武器にする科目でした。[というか、当時今ほど多様な問題集が手近な本屋で見つからなかったのですよね…。])ですが、繰り返しになりますが、学習内容の習得にはそれぞれ個人差というのがあります。世界史が「好き・嫌い」から始まって、1回に集中できる時間、集中の深さ、内容の理解や消化の速さなど、個々に異なりますので、一部の人の成功談をあてにしても始まりません。ですから、上に示したものは、世界初学者が「さぁ、これからはじめるぞ」といって難関大を目指すといった場合、概ねこれだけのことをこなせば「まず戦える力はつく」という目安だとお考え下さい。
世界史で力をつけるにはかなりの分量の学習が必要になることは間違いのないところですが、おそらく1番肝心なことは「世界史を好きになる」ことに尽きると思います。世界史と言うのは、様々な人間模様が織りなす究極の大河ドラマで、本来面白もの(血生臭くはありますが…)であるはずです。魅力的な歴史の語り手に出会えれば、世界史は聞いているだけで結構面白かったりします。ですから、ただ用語や事件を黒板に羅列して「ここ覚えておけよー」という語り手ではなく、歴史の背景や登場人物の人間模様、モノ・カネ・情報が飛び交うダイナミズムを生き生きと語れる魅力的な語り手に出会うことが世界史の学力を高める一番の方策なのかもしれません。また、そうした語り手に出会えなかったとしても、自分自身の想像力を豊かに膨らませることができれば歴史は魅力的になり得ます。ぜひ、自分なりの方法や形を見つけ出して、世界史を受験の武器にするだけでなく、歴史の面白さに気づいて欲しいなと思います。
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ついこの間の話になりますが、202312月に、山川出版社の『世界史用語集』(全国歴史教育研究協議会編、初版202312月)が新しくなり、現在(2024年度)の高3が使用している教科書「世界史探究」に準拠したものに変更されました。

その結果、旧来の教科書「世界史B」(昨年度の高3が使っていた教科書)に合わせて作られていた同社の「世界史用語集:改訂版」(全国歴史教育研究協議会編、第1版第1201812月)とはかなり表記の異なる箇所も見られることになりました。これは、教科書「世界史探究」と「世界史B」の記述内容にかなりの変更が見られたので当然といえば当然のことです。

ただ、教科書の表記が変わったからと言って、すぐに現場が対応できるかといえば、もちろんそんなことはありません。そもそも、新しく教科書に載る語や表記や表現の変更になる語だけをとっても膨大な数にのぼりますので、実際には現行の高3でも旧表記のままで学習していたりする場合は少なくないと思います。そもそも、新しい用語集が出版されたのが202312月ですからね…。教科書新しくするなら用語集も同時に新しくしてくれないと(切実)、古い用語集を使わざるを得ないですから、旧用語集を高2のころからずっと使っていますという現高3も多いものと思われます。

また、「もう1年頑張ろう!」ということで再チャレンジを目指す昨年度の高3の場合には、そもそも「世界史B」で学習しているので、より不安も大きいかと思います。一応、大学入学共通テストでは旧課程と新課程について考慮はしてれているようです(詳しくは大学入試センターをご覧ください)が、模試や各大学の個別試験までは(対応してくれるところもあるかもしれませんが)その限りではないかと思いますので、やはり心配だという方も多いのではないでしょうか。

そこで、本稿では新しい山川の用語集は、旧版の用語集と比べてどこが違うのかということをチェックしてみることにしました。(ヒマなことをしよる。) で、チェックしてみた結論から申し上げますと「旧課程の世界史Bで学習していたとしても、基本的には新しい世界史探究に対応できるし、そんなには困らない」(多分)です。まぁ、いくつか新しい語は出てきていますし、表現や表記の異なるものがあったりしますが、その多くはこれまでにも「教科書や参考書などの片隅やコラム、新説などとして紹介されてきたもの」であったり、「そもそもの出題頻度がそれほど高いとは思えない語」などが大半な気がします。中には、それなりに重要でそれなりに出題されそうな語もありますが、それらも新しい問題集を解いたり模試を何回か受けたりしていくうちに多くは修正されていくもののような気がします。

ですから、これまでしっかり勉強していたのであれば「そこまで心配することはないかなー」と思うのですが、最近は史資料問題が増えてきているので、史資料に自分の知らない表記で書かれた場合にその後が何か判断がつくだろうか、という点はちょっと気を付けたい点ですね。特に衝撃的だったのはやはり「アクエンアテン(旧イクナートン)」でしたね。これが史料問題で旧名示さずに出てくると怖いですね。他には「アンラ=マンユ(アーリマン)」あたりも多少怖さがあります。まぁ、たぶん問題作る側もその辺は考慮して注意書きつけてくれるんじゃないかなぁとは思うのですが。

また、新語や表現の違いをチェックすることで新しい教科書「世界史探究」がどのあたりを重視し始めているのか、つまり「推し」ているのかなどがある程度見えてくるかな、とも思いました。そういう意味では、より学習を深めたり学力を高めたいと思うのであれば、お金に余裕さえあれば、旧版を持っていたとしても新版は「買い」かなと思います。
もちろん、これまで世界史は全く勉強していなかったという場合には、新課程で進めていく方が無難ではあります。ただ、話の流れだけを取るなら、正直「世界史探究」よりも「世界史B」の方が高校生には把握しやすいかなーと感じますけどね。「世界史探究」は、縦割りの地域史や各国史を脱却して各地域の関係性やダイナミズムをつかんで欲しいという意図は感じるし、大切なことだとも思うのですが、あっちに行ったりこっちに行ったりで最初に学習する人にとっては分かりづらいんではなかろうか、と。何と言うか、大学で期待されるような内容を高校生に持ってきちゃった感が否めません。「複数のものの関係性をつかむ」という行為は、まず初めにそれぞれを構成する個がどういうものかを把握しないと難しいのではないかと思うので、そういう意味では「世界史B」の構成の方がつかみやすい気がします。

脱線しましたが、本稿では新版と旧版の山川用語集をチェックして、新語や表現に変化のあった語をいくつかの項目にまとめました。ただ、目的は「世界史B」と「世界探究」の記載の微妙な違い・傾向把握をすることにあるので、チェックした全ての用語は載せず、個人的に気になる語や注意したいなと思う語(「傾向把握の上で重要かな」と感じたものや、「これまでと比べて、これからちょこちょこ出題頻度が増えてくるかもしれないなー」と感じたもの)のみをまとめてあります。その中でも特に気になる語については赤字で示しました。(私の主観的なもので、用語集の色分けとは無関係です。)

また、チェックしたのは見出し語(用語)のみで、用語の解説や中身については基本ノータッチです。また山川用語集の「例のアレ」(用語の後ろにある①~⑦:「世界史探究」教科書7冊のうち何冊に登場するかをしめしたもの)についてはガン無視しましたw 自分、そもそもあれあんまり重視していないので…。出るもんは①だろうがわりと問題に出るし、出ないもんは⑦でも滅多に問題に出ませんもん。出題傾向はたくさん実際の問題にあたって経験値積んだ方が、より実態に近い感覚が身につく気がします。でも「例のアレ」のことは大好きですw

チェックした用語のうち気になるものは、以下のような項目ごとにまとめてみました。順番については、各項目内では基本古い方から新しい方に流れていますが、編集の過程で多少順番が前後しているところがあります。

 

1、新語

2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語

3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語

4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語

5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの

6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語

7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所

8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現

 

ご注意いただきたいのは、「一応チェックはしましたが、見逃しや間違いはあるかもしれないということ」と、「出るかも出ないかもとか、問題があるとかないとかは、基本私の主観なのであって何の根拠も保証もないこと」ですw また、個々の語やまとまりについて気になったことや注意が必要なことがある場合には、ところどころ解説を入れてあります。

 

【① 新語】

:上にも書いた通り、ここで紹介する新語は個人的に気になった一部のみで、これ以外にもたくさんあります。ざっと見て、新語だけでも100以上はありました。ただ、そのうちの多くは必ずしも「見たことも聞いたこともない!」というタイプのものではなく、これまでも教科書の中で別の表現で書かれていたり、資料集には載っていたり、参考書や問題集には言及されているものだったりしました。

 

・ウルのスタンダード

・黄老の政治思想

・「インド化」

・武人政権《朝鮮・日本》

・銀経済《ユーラシア大陸》

・オルトク商人

・チンギス統原理 

・スンダ海峡ルート

・「コロンブス交換」

・エスナーフ 

・絹製品《イラン産》 

:従来、絹については中国産・シルクロード関連やビザンツ関連では書かれていたが、イランのものが用語集で強調されてはいなかった

・農村経済の活発化《ムガル帝国期》

・松前藩 

・「四つの口」

・中世からの連続性《ルネサンス》

・スペイン1812年憲法(カディス憲法)

・通信革命 

・公衆衛生

・アラビア語による文芸復興運動

・輸出入の逆転《インド》

・回民の蜂起 

:旧版は「回民」のみで、蜂起に関する記載は無し

・アジア域内交易

・アヘンの輸入代替化

・甲午改革

・閔妃殺害事件 

・満洲

:旧版は満州(洲)の項目のみ「洲」の字が示されるのみで、その他はすべて「満州」表記であったが、新版ではこれが全て「満洲」表記にあらためられている。

・「日本の工業化」、「金本位制確立《日本》」、「アジア間交易」

:全般に、19世紀日本の経済状況のディテールに関する新語が並ぶ(ただし、程度)

・立憲派 

・「茶プランテーション」、「本国費」、「綿紡績業《インド》」

:全般的に、19世紀インド統治・経済に関する新語が並ぶ(程度)

・トルコ民族主義 

・「スペイン風邪」 

1919年革命

:エジプトのサアド=ザグルールによる闘争が追記

・関税自主権の回復《中国》 

・ムスリム同胞団の非合法化 

・輸入代替工業化 

・戒厳令《台湾》 

 

やはり、経済的な交流、システムがこれまで以上に丁寧に説明されるようになった箇所が個人的には気になります。また、特殊なところでは台湾の戒厳令が現代史の方でも登場してきますので気になりますね。その他については、これまでにも見られたもののうち、あまり受験生には「問題に出る用語」として意識されていなかったものが、用語としてしっかり示された場合などは気になりますね。すでに「グレートゲーム」などは周知されているのでいいかなと思いますが、「ウルのスタンダード」あたりは人によっては意外に盲点になる気がします。

 

【2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語】

(または似た言葉はあるが内容に大きな変化がある語)

:これまでにも登場していた語のうち、大きく表記が変更になった語がいくつか見られました。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・アメンヘテプ4世(アクエンアテン)

:旧版ではアメンホテプ4世(イクナートン)で、大きく異なります。

・写本絵画

:旧版の「ミニアチュール」の語は基本的に消えたが、「細密画」の語はところどころに残っています。もともとヨーロッパに由来する「細密画」や「ミニアチュール」の語をイスラーム世界の写本絵画にあてはめることが適切ではないと考えられたものと思われます。

・中央ユーラシア型国家

:旧版に「中央ユーラシア」はありますが、騎馬遊牧民が形成した国家形態としての中央ユーラシア型国家の説明とは全く異なりますので、新語として扱うべきものです。

・ガージャール朝

:旧版ではカージャール朝です。カッコで(カージャール朝)ともなかったので、一応今後は注意が必要かと思います。

 

【3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語】

:用語としては旧版からありましたが、「世界史探究」の全体的な傾向を踏まえて、表現の仕方・説明文・登場する時代や文脈などに変更がある語がいくつか存在します。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・荘園

:これまでは唐の時代で出てきていたものが、魏晋南北朝時代にまでさかのぼって出てきており、唐の時代でも再度登場します。全体的に「世界史探究」では魏晋南北朝時代と隋・唐時代の連続性を強調する記述に変わっていますので、それにともなう変化であることには注意が必要です。

・香薬(香辛料・香料)

:新しい表現で、記述に変化が見られます。おそらく、「香辛料」としてしまうと胡椒をはじめとするスパイスだけを想像していまい、乳香や没薬といった樹木の樹脂からとれる香料を想像しにくいところから表現を変化させたのではないかと勝手に推測しています。

・三仏斉

:内容が大きく変化しました。旧版の記述では原則としてシュリーヴィジャヤを含むもの(または同一のもの)ととらえられていた記述が、新版では基本的には別のもの(シュリーヴィジャヤのあとをうけたもの)としてとらえられており、「ザーバジュ」というアラブ側の呼称なども紹介されています。

・「塩・茶の専売」(宋代)、「塩の専売《元代》」

:これまでは前漢の武帝の塩・鉄・酒の専売や、唐末の黄巣の乱にからんでの塩の専売という文脈で書かれていた塩の専売が、宋代や元代についても別の文脈で登場しており、宋代については茶の専売についても言及されています。

 

【4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語】

:旧版と表記が変わっていますが、カッコ内で旧版表記が併記されている語です。旧バージョンで書いたとしても特に問題はないと思われます。いくつか例を挙げてみます。

 

・アンラ=マンユ(アーリマン)

・モンゴルの君主名や称号

:たとえば、新版では「オゴデイ(オゴタイ)」などとなっていて、モンゴルの君主の名前は微妙に変えられています。また「カン(ハン)」と「カアン(ハーン、大ハーン)」の違いなどが明記されるなど、モンゴル関係は細かな変化が見られます。

・全国三部会(三部会)

:旧版では「全国三部会ともいう」となっていました。新版では説明の中で地方三部会が明記されていますので、それとの違いを明確に示すことを意図したものと思われます。

・「スルタンの奴隷」(カプクル・デウシルメ制)

:旧版にあった「デウシルメ」の代わりに登場しましたが、旧版では「スルタンの奴隷」という呼称はありませんでしたので新語となります。また「カプクル」も新語です。

・行商(公行)

・カトリック対抗(対抗宗教改革)

:旧版では「対抗宗教改革(反宗教改革)」となっていましたが、また新しい表現となりました。

・教案(仇教運動)

:旧版では「教案」という語は全く示されていなかったので新語となります。

 

【5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの】

:「世界史探究」では、全体的な流れや関係性を把握させたいという記述が目立つことから、用語集の方でも細かい知識・用語は極力説明文のなかにおさめてしまい、用語数を削減しようという傾向が見て取れました。具体的な例をいくつか挙げてみます。

 

・ルイ14世の対外戦争

:旧版では独自の項目として登場していた「南ネーデルラント継承戦争」、「オランダ戦争」、「ファルツ戦争」が消え、説明書きの中でまとめて紹介されました。従来よりも、これらの戦争がルイ14世の対外戦争の一環であったことがはっきりわかる記述にするとともに、個々の用語の量や重要性を減らして簡略化することを意図したと思われます。

・対仏大同盟

:旧版では第1回、第2回、第3回対仏大同盟が別項目で示されていましたが、一つにまとめられて簡略化されました。ただ、こちらについてはそれぞれの回の対仏大同盟が当時の政治状況と密接に関連していたこともあり、記述が簡略化されたからと言って個々の設問の内容が簡略化されるかといわれると疑問です。今後も結構細かい内容まで突っ込んだ設問が私大などでは出題される気がします。

・ナポレオン3世の対外戦争

:旧版では「クリミア戦争」、「アロー戦争」、「イタリア統一戦争」、「インドシナ出兵」などが別項として表示されていましたが、一つにまとめられました。(ただし、クリミア戦争、アロー戦争、イタリア統一戦争などは、新版でも別の文脈では独自の項目として出て来ます。)

・産業革命の波及

:旧版では「ベルギー産業革命」、「フランス産業革命」、「ドイツ産業革命」、「アメリカ産業革命」、「ロシア産業革命」、「日本産業革命」とそれぞれ項目が建てられていたものが、一つにまとめられて簡略化され、説明文の中で解説されることになりました。

 

【6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語】

:これまでも教科書の中で文章として表記されてきたものを、あえて一つの用語として提示し、説明することで、特定の視点やとらえ方があるんだよということを意識づけさせようとしたと思われる語が散見されました。個人的には非常に良い改善だと思います。いくつか例を挙げてみます。

 

・西域の文化(ポロ競技・胡服・粉食) 

・古文の復興《唐》 

・ポーランド王兼任《ロシア》

:旧版では「ポーランド王国」の項目の中で説明されていた内容が強調されました。

・都市交通網の整備

:旧版には「地下鉄」という項目で少し言及されています。

・マムルークの一掃

:旧版では「マムルーク」の項目の中で解説されていました。

・ロシア領トルキスタン

:ロシアの南下の文脈では一つにまとめられました。ただし、新版でも「ブハラ=ハン国」・「ヒヴァ=ハン国」・「コーカンド=ハン国」は別の箇所(ティムール朝の滅亡の箇所)で独自の項目として示されています。

 

【7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所】

:6とは逆に、旧版よりも用語や説明が減少している箇所が何カ所かありました。ものによっては今後重要度が減少したり、特定の用語が出題から姿を消していく可能性があります。いくつか例を示します。

 

19世紀社会主義の形成と発展を示した箇所

:ラサール、ベーベル、バクーニン、皇帝狙撃事件などが見出し語としては消えるなど簡略化されました。

・イギリスのインド支配におけるいくつかの用語

:ラクシュミー=バーイーやインド省などの用語が消えましたが、新語が増えるなど重要度の低下は特に見られません。

・フランスによるベトナム支配の過程を示した箇所

:トンキンやアンナンなど細かな地名が消え、インドシナ出兵も「ナポレオン3世の対外戦争」の説明文の中にまとめられるなど、全体に簡略化されました。こちらも、ベトナム植民地化の過程の重要度が減じたというわけではなく、従来と比べるとトンキンやアンナンなどの個々の地名にはこだわらなくなる可能性があるという程度かなと思います。

 

【8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現】

19章については、現代史に関する部分になります。正直こちらについては入れ替わりが激しいので、時事的要素の強いものだと思っておいた方が良いかと思います。例えば、旧版には存在しなかった「トランプ」や「バイデン」の語は、教科書に登場する前から実際の入試の場面では登場していますので、同様に用語集には載っていないけれども、ニュースなどを通して知っておいた方が良い用語は日々変わってきていると思った方が良いと思います。また、逆に今回は用語として登場しているけれども、しばらくしたら消えていたという用語もあるかと思います。

新語のうち、個人的に気になる項目は「従属理論」ですかね。ウォーラーステインの近代世界システム論と関連する語ですし、ついこの間東大でオリエンタリズムやサイードなんかが出てきたことを考えると突然「ポッ」と出てきたとしてもおかしくはありません。

「問題が作りやすそうだな」と感じる項目としては、「従属理論」のほかに「南巡講話」、「戒厳令解除」、「ロヒンギャ問題」、「フェアトレード」、「シリア内戦」、「LGBTあたりでしょうか。特に、台湾は最近HOTですし、戒厳令については上記の通り、新用語として2カ所出て来ましたのでちょっと気になります。地域や時代の流れをとらえるという意味では「経済の自由化《インド》」、「社会主義体制の崩壊《アフリカ》」は重要なテーマを含んだ良い項目だと思います。 

また、時事的知識として当然おさえておくべき内容としては「トランプ」、「バイデン」、「習近平」やロシアのウクライナ侵攻がらみ、それから「人工知能(AI)」や「持続可能な開発目標(SDGs)」あたりでしょうか。今は猫も杓子もSDGsで、学校でも散々「探究!探究!」って言ってる中で良く出て来ますから、多分、今の中高生はご存じでしょうね。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」なんかは今の受験生は当然ご存じでしょうが、5年後、10年後になるとインパクトが薄れていくかもなので、その頃の受験生は意外に苦労するかもしれませんね。 

旧版から表記が変更された語については、ほとんどのものは大きな違いは見られませんでしたが、「女性参政権獲得運動」だけはやはり気になりました。旧版でも存在した女性参政権(アメリカ・イギリスなど)の他に別項として現代史に設けられています。東大2018年大論述をはじめとして、女性の権利拡大や参政権獲得に関する設問はあちこちで出題頻度を増しているので、引き続き注意が必要ですね。

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最近は、共通テストで史資料を用いた設問が多く出されるようになったこともあり、各種統計データを用いた出題が数多くなされています。こうした設問の中でも、特に頻出と思われるものが以下の4つです。

 

①アメリカ合衆国への移民数推移(19世紀~20世紀初頭)

②各国の工業生産構成比(19世紀~20世紀初頭)

③ソ連の経済政策と工業生産高(20世紀前半)

④世界恐慌前後の各国工業生産

 

とはいっても実際に統計とったわけではなくて、完全に私の主観なんですがw それでも、これらは鉄板の出題と言って良いくらい目にします。なぜかといえば、ある程度のまとまったデータは近現代史の方でしか残っていない(推計値などは中世や古代でもありますが、やはり限界があります)ので、どうしても古代史や中世史の史資料問題は画像資料や地図、文書史資料を用いたものが多くなりがちです。また、データとしてはある程度豊富な近現代史においても、高校生に出題した際に解く側がある程度題意をくみとれる設問を作るとなると、それに適したデータを集めるのに結構な労力を必要とします。必然的に、高校生に出題しやすく、かつデータも手軽にそろっており、また出題することに一定の意義を見いだせる設問は限られてくるわけでして、こうした背景から上記4つの出題が多く見られることになっているのではないかと思います。つまり、出題者の先生方が「楽をしたい。でも見栄えは良くしたい。」と思った時に使えるお得感満載の便利データがこれら4つなわけです。ここでは、これら4つの出題に際して、注意するべきポイントを何点か示していきたいと思います。

 

①アメリカ合衆国への移民数推移(19世紀~20世紀初頭)

1

(宮崎犀一ほか編『近代国際経済要覧』東京大学出版会、1981年より作成)

:こちらは、近年「移民史」が注目を集める中で良く出題されるようになった問題です。19世紀は「移民の世紀」とされ、教科書や資料集でも1~2Pほどを割いて説明される部分かと思います。(東京書籍『世界史B2016年版では、索引の「移民」の項目にP.303305307358428、「移民法」でP.358が示されています。また、帝国書院『最新世界史図説タペストリー十九訂版』2021年発行では、P208-209で「移民の世紀」という特集が組まれています。) 上に示したのは、アメリカ合衆国への移民数を示すグラフとしてよく示されるグラフです。

こちらのグラフを用いた設問で良く出題されるのは、まず1840年代に急増しているアイルランド系移民の部分です。「アイルランド」が問われることもありますし、「急増の理由」が問われることもありますが、いずれにしてもこれについては1840年代のアイルランドにおける「ジャガイモ飢饉」をおさえておけば事足りる定番の設問です。(今回の話からは少しずれますが、「ジャガイモ飢饉」についてちょっと目新しい視点の出題としては、2018年の東京外国語大学が災害史やチャリティーの側面から読み取れる史料を扱って出題したものがあります。)

一方で、やや難易度が高いのが、19世紀前半から高い比率を示し、19世紀後半になっても高い比率を維持する北西欧からの移民と、19世紀末から急増する東・南欧系の移民の区別を問う設問で、いわゆる「旧移民」と「新移民」の区別がついているかどうかがポイントです。これについては、北西欧系、中でもドイツ系移民(プロテスタントが多い)が1848年革命以降のドイツの混乱の中で急増していくのに対し、東南欧系(特にイタリア系、ロシア支配下のユダヤ系移民)が増加する背景としては、イタリア統一過程での混乱や、ロシアによるユダヤ人排斥やポグロムがあったことを思い浮かべられればOKです。また、出題頻度はまれですが、当初から数は多くないものの旧宗主国イギリスからの移民が継続している点を問うものもあります。

 

②各国の工業生産構成比(19世紀~20世紀初頭)

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(センター試験2003年本試験「世界史A」第3問、問1より作成)

:こちらについては18世紀後半から19世紀初頭にかけて本格化した第一次産業革命で「世界の工場」としての地位を築いたイギリスから、19世紀後半の第二次産業革命で新たな工業国として台頭したアメリカ・ドイツへという変化をおさえておけば十分な設問です。グラフとして示される時期は、19世紀前半から出てくるものもおおいですが、19世紀前半から示すと「1位=イギリス」と答えがより分かりやすくなってしまうので、最近は19世紀後半から20世紀初頭にかけての変化を示すグラフも良く出題されます。こちらの場合、読み取りのポイントとしては、以下の3点をおさえておくと良いでしょう。

 

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アメリカが世界最大の工業国へ

・同じ時期に、ドイツは世界第二位の工業国へ

・一方のイギリスは、19世紀前半に世界最大の工業国であったものが、その比率を減らしていく

 

設問としては、国名を空欄にして、そのうち2か所の組み合わせを聞いてくるタイプが多いです(例:空欄A=アメリカ、空欄B=ドイツなど)が、上記の3点をおさえておけばまず対処可能な設問かと思います。また、設問とは無関係ですが、19世紀前半に世界最大の工業国であったイギリスがアダム=スミスやリカード式の自由貿易主義を唱えていたのに対し、後発国であったアメリカ(北部)やドイツでは保護貿易が唱えられて、国内産業を保護しつつ第二次産業革命を達成したという対比は把握しておいた方が良いと思います。

 

③ソ連の経済政策と工業生産高(20世紀前半)

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出典:栖原学『ソ連工業の研究-長期生産指数推計の試み』より作成

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/62204/1/Manabu_Suhara.pdf
[
参照日:202233]

 

:こちらも定番、という感じです。ちょっとはっきりとしたデータが見当たらなかったので、銑鉄の生産量推移のグラフを作ってご紹介しています。実際には、工業生産額などのグラフが出題されることの方が多いですね。基本的にはどこが戦時共産主義なのか(Aの時期)とどこがネップ[新経済政策]の時期なのか(Bの時期)をきちんと把握して、それぞれの経済政策の名称と内容が答えられればOKで、それ以上はあまり広がらない設問かと思います。

 

④世界恐慌前後の各国工業生産

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(出典:石井栄二ほか編『大学入学共通テスト世界史トレーニング問題集』
山川出版社、2019年より引用)[一部改変]

 

:こちらについても良く出てきます。出典がはっきりしなかったのでこちらには使いませんでしたが、もう少し国の数を増やす場合もあります。(イギリス、フランス、イタリアなどを加える) いずれにしても、パターンとしてポピュラーなのはソ連と日本を選ばせる設問、またはソ連が世界恐慌の影響を受けていないことを読み取らせる問題、そして1928年~1932年にかけてソ連が実施していた経済政策(第一次五か年計画)を答えさせる設問などでしょうか。社会主義国であったソ連が世界恐慌の影響を受けなかったというのは教科書や授業などでもわりと強調される箇所です。一方、日本への世界恐慌の影響が比較的軽微で、1930年代前半から急速に回復に向かう原因としては、高校世界史的には1931年の満州事変とその後の満州国建国と満州支配がその後の経済回復の原動力となったという説明をするしかないのですが、高校日本史的な視点からは、より日本の国内事情に目を向けた説明がされることもあるかと思います。(そもそも1929年以前の日本経済が底[戦後恐慌や(昭和)金融恐慌]、高橋是清蔵相による金輸出再禁止と円安誘導による輸出の急伸など) 山川出版社の『改訂版詳説日本史B2016年版では「恐慌からの脱出」という節で以下のように述べられています。

 

1931(昭和6年)12月に成立した犬養毅内閣(立憲政友会)の高橋是清蔵相は、ただちに金輸出再禁止を断行し、ついで円の金兌換を停止した。日本経済は、これをもって最終的に金本位制を離れて管理通貨制度に移行した。恐慌下で産業合理化を進めていた諸産業は、円相場の大幅な下落(円安)を利用して、飛躍的に輸出をのばしていった。とくに綿織物の輸出拡大はめざましく、イギリスにかわって世界第1位の規模に達した。

この頃、世界の情勢は大きくゆれ動き、列強は世界恐慌からの脱出をはかって苦しんでいた。イギリスは、本国と植民地で排他的なブロック経済圏をつくり、輸入の割当てや高率の関税による保護貿易政策をとった。イギリスはじめ列強は、円安のもとでの日本の自国植民地への輸出拡大を国ぐるみの投げ売り(ソーシャル=ダンピング)と非難して対抗した。一方、輸入面では綿花・石油・屑鉄・機械などにおいて、日本はアメリカへの依存度を高めていった。

輸出の躍進に加え赤字国債の発行による軍事費・農村救済費を中心とする財政の膨張で産業界は活気づき、日本は他の資本主義国に先駆けて1933(昭和8)年頃には世界恐慌以前の生産水準を回復した。…(山川出版社『改訂版詳説日本史B2016年版、pp.347-348

 

脱線しましたが、その他の出題の仕方としては恐慌のダメージが深く、回復も遅いアメリカを選ばせるパターンや、アメリカ経済の底に近い時期の1933年にアメリカが開始したニューディール政策とその詳細(農業調整法[AAA]、全国産業復興法[NIRA]、テネシー川流域開発公社[TVA]やその後のワグナー法[1935])を問う設問、また同政策を実施したアメリカ大統領、フランクリン=ローズヴェルトを問うパターンなどが定番かと思います。ポイントとしては、ソ連、日本、アメリカと各国の事情をおさえておけば良いでしょう。

 

【データを用いた設問の注意点】

:これまで見てきた①~④は非常によく出てくる設問ですので、一度目を通したり、ポイントをおさえておくことは大切なのですが、単なる丸暗記自体にはあまり意味がありません。なぜかというと、こうした数値データはちょっと手を加えてあげるだけで全く異なるグラフや表が作れてしまうので、本質的な部分を理解していないただの丸暗記ですと対処できないことがあるからです。たとえば、以下のグラフは④の表をもとに作成したグラフです。同じデータでも、数値が書かれた表と、下のようなグラフで示されるのとではだいぶ印象が変わるというのがわかるかと思います。

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また、以下の二つのグラフは、①で使用したのと同じ数値データを用いて作成したものです。上記で紹介したものは積み上げ式の棒グラフでしたが、各国別の棒グラフと折れ線グラフにしてみました。こちらも、まったく受ける印象が変わるのがお分かりになるかと思います。このように、世界史におけるグラフや表を利用した問題では、どの部分に注目すべきかを素早く把握する必要があるのですが、そのためには基本的な世界史の知識を身につけ、頻繁に出題される設問での定番ポイントをきちんと把握しておくことが大切です。

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世界史を学習する上で意外と盲点なのが、世界史にはおろそかにするとその後の理解や学習効率が著しく落ちる基礎技能が存在するということです。「世界史なんて、どうせ読めばわかる」と思われていますし、「日本語で書いてあるし、ただのお話だから、暗記すればいいだけ」と思われています。実際、その通りでもあるのですが、ところがいざ実際に学習してみると思いのほか頭の中に入ってこず、勉強にかかる時間も積みあがっていきます。「おかしいな、こんなに勉強しているのに全然進まない…」と思っているうちに、だんだん嫌になってきて「もう、いいや」となってしまう…世界史を教える側としては本当に悲しいことです。本来、世界史とは謎アリ、戦いアリ、エロアリ、どろどろの人間関係ありの人間ドラマの集合体であって、最強の大河ドラマです。深く学べば学ぶほど味が出る、やりこみ要素アリの本当に面白いものなのですが、意外にも入り口で躓いてしまう人が結構な数います。

実は、「英語で単語や文法を知らないと話が(本当の意味では)分からない」、「数学で公式を覚えたり、計算力を身につけないと高度な問題が解けない」のと同じように、学校における一つの教科として世界史をとらえた場合、身につけないと理解が進みにくい技能が二つあります。

一つ目は、「〇〇年=〇〇世紀」の変換を瞬時にできるようにする能力です。「何だ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、これを「頭で考えることなしに」できる人は意外に少ないのです。「頭で考えない」というのは、脊髄反射的に「パッ」とわかる、ということです。青い色を見たときに「青」と言ったり、「900円買って1000円払ったからお釣りは100円」ということを計算することなしに理解するのと同様に、「1689年」と言われたら「ああ、17世紀後半か…」と即座に理解できるようにしておかないと、どうしてもテスト向けの世界史の学習は効率的に進みません。「ルターの宗教改革は1517年の九十五か条の論題から始まったわけですが…、当時は16世紀前半なわけですけれども…」という説明を学校の先生がしたり、教科書やら参考書に書いてあるときに、「パッ」と分かる人は特に抵抗なく言っていることが頭の中にスッと入ってきます。一方、この変換がすぐにできない人は「ん?1517年だから…151足すので…ああ、16世紀…で、いいんだよ、な…?」となってしまい、どうしてもワンクッションというか、「ツマリ」のようなものが生じてしまうのですね。たとえて言えば、英語の長文を読むときに分からない単語をいちいち辞書で引かないと先に進めないときのようなもので、これが思いのほか学習効率を落としてしまいます。

二つ目は、出てくる地名がどこなのか、初出の段階で地図上に思い浮かぶように確認しておくということです。世界史では当然のことながら、世界各地の地名や国名が出てきます。これを重要語句や人名とは直接関係ないからとうろ覚えにしてしまうと、「〇〇年=〇〇世紀」の場合と同じように「ツマリ」を生じてしまってまともな勉強になりません。ためしに、世界史を勉強すると出会うことになる地名について、いくつか列挙してみましょう。

 

・イラク、イラン、インド、パキスタン、アフガニスタンを東から順に並べられますか?

・「アナトリア」ってどの辺ですか?

・「トルキスタン」ってどのあたりですか?

・インダス川とガンジス川、どちらがインドの東側を流れる川ですか?

・フランス、オーストリア、ドイツ、ポーランドの位置関係がわかりますか?

 

…いかがでしょう。案外、難しいものですよね。ですが、世界史ではこれらの知識は「前提」であって、しかめ面をして学ぶものではありません。日本史で言ったら、「大阪、名古屋、東京を西から順に並べよ」と言っているようなものですからね。

ですから、先生は当たり前のように「ドイツのヒトラーは、オーストリアを併合すると東方へとドイツの生存圏を拡大するためにポーランドへと侵攻し、これが第二次世界大戦の始まりとなったわけですがァー…」と授業を進めます。地図が頭に入っていなかったらイメージのしようがありません。そこで生徒はおっさんのがなり声を子守歌代わりに聞きながら「がァー、じゃねぇよ。くた〇れ」と悪態をついて机の中に沈んでいきます…。 

ですから、多少の苦労をともなったとしても、その地名がどこかというのは最初に目にした時に把握しておくべきなのです。幸いなことに、今は昔と違っていちいち地図帳を調べる必要がありません。ちょっとGoogleやらYahooで地名を入力すれば、すぐWikipediaのページが出てきて、それを開けば地図は載っています。いちいち地図帳の索引から調べなければならなかった我々の高校生時代とは大違いです(マジでうらやましい)。

 

 本稿では、地理の問題はとりあえず置いておいて、「世紀」の変換について簡単に解説してみたいと思います。これは、ほんのちょっとの練習でできるようになりますから、最初に身に着けておきましょう。

 

① 紀元(後)の場合

 紀元とは、本来は「ある出来事がおこった年を始点として時間を測定する際の、始点となる年」のことです。ですから、世界にはいろいろな「紀元」があります。たとえば、イスラーム暦の場合には、預言者ムハンマドがメッカからメディナへと遷った「ヒジュラ」のあった年を紀元とします。

 現在使われている西暦は、イエス=キリストことナザレのイエスが生まれた年を紀元として数える年代測定法です。

プレゼンテーション1
 
 もっとも、研究では実際にイエスが生まれたのは紀元前4年頃らしいと言われていますので、西暦の紀元とはズレるわけですけれども、事実が判明するたびに紀元を動かしていたら「あ、今年2021年だと思ってたら今度から2025年になるらしいわ」みたいなことになって厄介ですので、昔から紀元とされる年がそのまま使われています。

 イエスの生まれた年=「紀元元年(1年)」として、そこから2、3、4…と数えていきます。つまり、西暦2021年というのは、イエスが生まれた年を1とした時に、2021番目にあたる年なわけです。「世紀」というのは、これを100年ごとにまとめたもので、紀元から数え始めて100年までが1世紀となります。つまり、「紀元元年~紀元100年」までが1世紀、「紀元101年~200年」までが2世紀となります。

 理屈ではそうなるのですが、すぐにパッと思い浮かべるのはちょっとした練習が必要です。1の位が「0」以外の年は、年数の100の位に1を足した数が「世紀」の数になります。たとえば、

 

・64年→1世紀(百の位は0なので)

・375年→4世紀

・726年→8世紀

・1492年→15世紀

・1871年→19世紀

・2021年→21世紀

 

となります。ただし、1の位が「0」の時だけはちょうど100年目になりますので、百の位の数字がそのまま「世紀」を表す数となります。たとえば、

 

・300年→3世紀

・1600年→16世紀

 

となるわけです。301年は4世紀、1601年は17世紀ですね。

これは慣れるとほんとに簡単です。簡単な練習用の動画を気分で作ってみましたので、利用してみてくださいw

https://youtu.be/cGbctvfQE7s

 

② 紀元前の場合

 紀元前の場合も基本的には紀元後の数え方と一緒です。「紀元元年の前の年」が「紀元前1年」となり、そこから100年間が「紀元前1世紀」となります。つまり、

 

紀元前1年~紀元前100年=紀元前1世紀

紀元前101年~紀元前200年=紀元前2世紀

紀元前201年~紀元前300年=紀元前3世紀

 

となるので、紀元前285年は「紀元前3世紀」となり、紀元後の数え方と特に変わりはありません。ただ、注意しておきたいのは、紀元後と紀元前では数字の増える方向が逆になりますので、世紀の前半と後半が逆転します。つまり、数字の多い方が世紀の前半、少ない方が後半となります。これは、感覚的につかんだ方が理屈で考えるよりも早いと思うので、図示してみましょう。

紀元法2
上の図を見ると分かる通り、たとえば紀元前1世紀は紀元前100年から始まり、紀元前1年で終わることになります。ということは、紀元前96年は「紀元前1世紀の前半」ということになる一方、紀元前15年は「紀元前1世紀の後半」となるわけです。この紀元前の世紀の前半と後半を認識することは少し難しいのですが、ここまで身につけてしまえばまず怖いものはありません。この技能は地味ではありますが、世界史を学習する上では大切な技能になるので、早いうちに身につけておくとよいと思います。
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どうも、週末体調崩していたので更新が遅れました。東大の2014年解説の方も準備中ですが、ちょっと本業の方が忙しいものでもう少しかかります。一週間以内にはUPしたいなぁと思っておりますので、もう少し待ってくださいね。

さて、今日はそんなわけでとりあえず頭を絞らなくてもサクサク書けて、かつできる限りみなさんの役に立つようなことを書こうと思っていたのですが、思いついたのがコレです。

 

「受験までどんな風に何を勉強したらいいですか?」

 

今日はこれについて、大まかな指針を示せればなぁと思っています。ついでに、いくらかの勉強法についても簡単に紹介します。さて、よくあるこの質問なのですが、個別の対応をすることはそれほど難しくありません。普段からその人の力量や授業に対する姿勢、質問の際の勘の良さ(または鈍さ)、志望校、現在進めている勉強の内容などなど、いくつかの質問をこちらからすれば、「ああ、この子ならこれぐらいの勉強をこういう形で進めるのがベストじゃないかなぁ」という絵がある程度は描けるからです。

もっとも、理想を言えば、こうしたアドバイスは後のケアもあわせてすることが大切ですね。たとえば、5月の段階で理想だと思った進め方でも、夏休みをはさんでその人がどんな勉強をしたかによって、9月の段階では理想形ではなくなることもあります。予想以上に学習が進んでいればペースアップを、逆に予定の量がこなせなかったら仕切り直しの調整をしてあげる必要があるのですね。

本当は、この微調整を各受験生が独自に行えるのが最もよいのです。「自分はこれだけのことができるようになった」とか「自分にはまだこの部分が足りない」ということをできるだけ具体的に把握して、そのための対処を練るということの繰り返しを自然に行える受験生は強い。勉強の仕方というものを心得ていますし、こうした自己分析を正確に行える人はその時々の模試の結果にも揺れません。たとえ一時的に成績が落ち込んだとしても、「ここをしっかり補強すれば大丈夫」、「むしろ今回のテストで覚えていないところがはっきりしてよかった」など、自分の力を伸ばす(成績を上げる、ではないところがミソですね)ためのヴィジョンを持っていますから、必要以上には気にしないわけですね。ただ、そうした「しっかりした人」でもやはり我々「教えること」を専門にしている人間とは経験値の差がありますから、不足している情報というのはどうしてもあります。そこをどうやって補ってあげたらいいのかを考えることは、アドバイスをする時の醍醐味でもありますし、気をつかうところでもあります。

 

ただ、上の質問(受験まで何をしたらいいか)に「汎用の答え」を用意しろ、と言われるとこれはなかなか難しいですよね。その人が高1なのか、高3なのか、浪人生なのかによっても違いますし、4月なのか、夏休みなのか、11月なのかによっても変わりますし、目指す目標によっても大きく変わります。ですから、今日お話しするのはあくまでもいくつかのケースを仮定の話として想定した場合、「最低限これだけはやっておくとあとは五分五分で勝負できるんじゃない?」というくらいの内容を示すつもりでいます。主に対象は高校3年生、または来年の受験を見すえた高校2年生に向けてのお話だと思ってください。高校3年生であれば、「自分はそれだけの量をこなしているかな?」というのを目安にしてもらえればいいですし、高校2年生であれば来年のその時期に「あ、最低でもこのくらいのペースでやればいいんだな」といった目安として活用してもらえればと思います。

 

よく聞かれるのですが、「最大でどれくらいやればいいですか」という質問に対しては「ねぇよ、そんなものわw」とお答えします。勉強に上限なんてありませんよ。できるなら体壊さない程度にやれるだけやったらよろしいのです。当たり前のことですが、体壊してしまったら何にもなりませんからね。でも、本当に勉強に上限はないですよね…。マニュスクリプトはさすがに読めますが、曲がりなりにも歴史研究に携わってたくせに古英語もロクに読めなきゃラテン語もダメとか…ほんとに…落ち込むわぁ。やってもやってもキリがないのが学問というものですが、それでも当座の目標達成に必要なラインというものをクリアすることが大切です。高校世界史には幸い、ある一定の枠組みや上限が設定されています。まぁ、どんなにハイレベルな大学でも、『詳説世界史研究』1冊丸暗記できていれば、そうひどいことにはならないはずです。

さて、それではいくつかのケースにわけてどれくらいの量を消化すればいいかを考えてみましょう。具体的な勉強法などは別稿に譲ることにして、まずは分量としてどの程度を見ておけばいいのかを示しておきます。

 

[4月から勉強を開始する場合]

   すでにある程度の通史の履修(半分以上)を終えており、世界史の基礎的知識は頭の中に入っている。

A 目指すのは東大、一橋など論述がメインの難関国公立だ。

 →9月までを目処に以下のものを終わらせましょう。

 ・志望校過去問を過去20カ年にわたり、週1ペースで研究しましょう。

   (月4回だとして、5か月で[夏明けごろ]20カ年分が一周できます)

   ・『詳説世界史研究』、または同レベルの情報量を持つ参考書やプリントを使っての暗記作業。

   ・難関私大向けの問題集(記述式)を少なくとも1冊、できれば2冊。

    :具体的には、簡単なところで『東書の世界史B問題集』、『山川の世界史問題集』、『Z会の世界史100題』あたりは単元ごとに分かれているので使い勝手が良くていいですね。

   ・センター向けのマーク式問題集を1冊。

    :それほどの分量はいりません。駿台の青本(実戦問題集)1周程度で十分かと。

  B 目指すのは早稲田・慶応などの難関私大だ。

    →過去問演習は夏休みに入ってから少しずつで十分です。それまではとにかく通史の把握と暗記に力をさきましょう。9月までに以下のものを終わらせるつもりで。

    ・『詳説世界史研究』、または同レベルの情報量を持つ参考書やプリントを使っての暗記作業。

    ・難関私大向けの問題集(記述式)を2冊(基礎編と応用編)。

     :できれば2周以上行いたい。

    ・センター向けのマーク式問題集を1冊。

     :2度解く必要はないが、見直しに力を入れること。

  C マーチ志望、またはセンターレベルの問題で8割程度をとりたい。

    →9月までに以下のものをつかって通史を抑えましょう。

    ・『詳説世界史B』クラスの学校教科書1冊を丸暗記。余裕があるようであれば『詳説世界史研究』に切り替えも可。

    ・質の良い記述式問題集を1冊、じっくりと仕上げること。

     :解くだけで終わらせず、解きながら特に気になる箇所のまとめや、後で見直せるように問題へのチェックを怠らないこと。できれば、2周、3周と繰り返すと良いですね。

    ・センター向けのマーク式問題集を1冊。

     :同じく、見直しに力を入れること。

 

  全体を通しての注意点

1、見直しが命。

:問題は素早く解く。(論述は除く。大問1問に10分かけるようでは遅い。)見直しにはたっぷり時間をかける。(イメージとしては、大問4つを3040分で解いたら見直しには1時間半。)

2、東大の場合、日本史がメインの時は世界史にかける時間はそこまでこだわらなくてもよい場合もあります。たとえば、『詳説世界史研究』ではなく、『詳説世界史B』をはじめとする教科書で基礎を把握し、残りは問題を解く中で補っていくなど。ただし、これは社会であまり点数を期待していない(英・数・国で点を取りに行く)タイプの受験生に限ります。

3、早稲田や慶応でも、論述のある学部については東大などに準じた形の学習が理想。

    :特に、早稲田の法学部は本格的な論述対策が必要。慶応の場合はもう少し短い形の論述が多いが、経済の論述はデータ解析などの特殊型が主なので、やはり過去問にあたることが望ましい。他にも、短い論述の対策としては前に紹介したZ会の『段階式世界史論述のトレーニング』などや、東大の小論述で練習を積んでおくとよいでしょう。

4、マーチ志望、センター対策の場合はとにかく基礎力(=知識量)をつけること。

:各予備校の模試で偏差62くらいの成績が出るまでは正直なところ基礎的な知識が不足しています。A、B、Cランクの知識で言えばBランクの知識が完全には頭に入っていないです。A、B、Cランクの知識とは、Aランクが一番基礎だとすると「名誉革命」、「ファラオ」、「カノッサの屈辱」、「ハンムラビ法典」、「始皇帝」、「長安」あたりはAランク。Bランクというと「ユトレヒト条約」、「立法議会(仏)」、「鎬京」、「一条鞭法」、「ソロンの改革」あたり。Cランクというと「カルロヴィッツ条約」、「ラシュタット条約」、「アイン=ジャールートの戦い」、「マウントバッテン」、「コムネノス朝」あたりでしょうか。多少手加減はしてる感がありますが。覚えにくいものは挙げればきりがないですね。「ラクナウ協定」とか「呼韓邪単于」とか。要は、ストーリーを構築するうえで必要な要素である、国、王朝、君主、基本的国制、都、戦争、条約、経済・文化のうちメジャーなもの、などを代表的な国や王朝についてうろ覚えでなくしっかり覚えているかどうかということです。マーチやセンター受けるだけならチョーラ朝とパーンディヤ朝の細かい区別をガッツリ覚えている必要はないですし、五代十国のあたりの細かな知識(石敬瑭とか)もいりません。でも、「唐」とか「宋」とか「明」とか言われた時に、建国者や代表的な皇帝、都がうろ覚えでは困る。つまり、そういうことです。

 

   まだ世界史の世の字も入っていない気がする。

:どこを目指すにしても、まずは基礎力が絶対的に不足しています。基本的には①のCのケースをベースとして、急いで世界史の基礎知識の充足をはかりましょう。まだ十分間に合います。入り口として使うものが「詳説世界史B」レベルの教科書ではキツイという場合には、「自分に合う」と感じる教科書や参考書を使っても構いません。ただ、そうした場合でも、できるだけ情報量は多いものを使う方がよいと思います。「覚えていない」と感じていても、実際には何度も見ているうちに体や感覚が「何となく」覚えて、それが選択問題なので効果を発揮したりします。ですが、そもそも情報がゼロではそうした感覚も養いようがありません。「基礎部分だけを覚える」と目標を定めるにしても、まずは一通りの情報に目を通すこと、そして問題集を解くときには解説から目をそらさないことがとても重要です。

 

[10月以降、勉強を進めるのであれば]

   すでに4月から東大などの国公立、早稲田慶応向けの勉強を十分に進めてきた。

・過去問演習を繰り返します。

  :国公立の場合、演習量を増やすのは12月に入ってからでも構いません。直近510年分程度を手厚く、繰り返し演習してみましょう。他校の過去問にもそろそろとりかかかるべきかと思います。基本的には問題演習をベースとして、不足した情報を自分のまとめ教材に書き込む、それを暗記する、苦手箇所をチェックする…を反復することです。その際、必ず自分がどこで間違えたのかや、何点くらいとれたか(配点がわからないときは単純に問題数でパーセンテージ計算でもよい)をチェックしておくことです。1度解いて終わらせず、必ず後で再度解いて前回と比べてみるという作業が必要になります。論述問題については、時間がない場合、あまりにも昔の問題を繰り返す場合には、メモや表、マインドマップの作成で代用しても構いません。とにかく、きちんとした形で「自分の頭を使って整理」をし、「それが正しかったかを確認」する作業を行うことが大切です。

 ・本格的にセンターに取り組みます。

  :センター型の問題集やセンター過去問に取り組みましょう。基本的な目安としては、「実戦問題集2周+過去問5年分×3周(または過去問10年分×3周)」あたりが基本の目安です。これを、大学過去問と同じような手順で進めましょう。ここでも、見直しが命です。

 ・特に見直しておきたい部分だけ、単元別の問題集で復習したり、再度まとめノートをつくるなどする。

  :もうすでに、「書いてまとめる」作業は9月までの段階で終わっています。書いている時間はもうありませんが、どうしても再度関係性を把握したい場合などについてはまとめノートを作ってみるのも良いでしょう。

 ・9月までに解いた問題集の見直しを行う。それが十分にできている場合に限り、力試しに他の問題集を解き進めてみる。

 

 だいたいこんなところですね。1日に社会に取れる時間は2時間といったところでしょう。「週に過去問×2、センター×2、問題集の大問×4程度を解いて、残り二日はまとめの時間」くらいが妥当なのではないでしょうか。(もちろん、やる気になればもっとできますが、他教科との兼ね合い次第ですね。)それでも、「月に過去問×8、センター×8、問題集の単元×4を解いたう上でまとめ」くらいはできますから、12月の冬休み直前ごろまでには「過去問20年分(10年分×2)、センター20年分(10年分×2)、問題集の単元×12にプラスしてまとめや暗記をする時間」がとれることになりますね。あとは、連休や冬休みを利用してペースを巻いていけば、通常のペースで勉強したとしてもかなりの分量の勉強をこなすことができるはずです。その上で、センターが終わる前後からさらに2次試験に向けて大学過去問を繰り返すという作業になります。授業がある場合はその授業を効果的に使うと消費時間が節約できます。大切なことは、継続して、定期的に、大学過去問とセンター過去問やマーク問題集を交互に進めていくことです。いっぺんにやろうとすると必ずムラができます。

正直に言えば、この段階では塾はおすすめしません。塾は「わからないことを紐解く」、「知らないスキルを教わる」ための場所で、「自分の中に情報をインプットし、定着させる場所」であることは稀です。通常、人はスキルを教わってもすぐには活用できません。それを活用できるようになるにはいくらかの時間が必要になるわけで、10月を過ぎた段階でスキルを与えられるくらいなら、一つでも多く自分の中に情報をインプットする時間を確保するべきです。ただし、以下の条件に合う人、または塾に通っていることで自分の力が着実にレベルアップし、役に立っているという人はこの限りではありません。

 

 ・すでに「暗記」の段階は概ね終了したので、あとは「考えを練る」ことや「解答にいたる思考のプロセスやエッセンス」の方を特に重点的に学習したい。

 ・ある程度は「暗記」できている。そのため、塾で授業を聞いたり、問題を解いたりしているうちに自分が忘れていた箇所を自然に思い出すことができ、自分で勉強するよりも効率がいい。

 ・正直、全く理解できない部分があるので、とにかくそのわからない部分をすっきりさせないと前に進めないので塾で解説してほしい。

 

このような場合には、ある程度インプットのための時間を捨てても塾に通う意味はあるかと思います。

 

   9月までさぼっちゃって、まだ全然準備できてないよ…。

:これは正直やばいです。ちょっと荒療治が必要になります。

 

・まず、センター向けの練習(過去問・実戦問題集・マーク式問題集)は定期的に解く・見直しをする時間を作りましょう。

・用いる教科書はやはり「詳説世界史B」クラスの学校教科書が良いでしょう。その上で、試験に頻出の「お前、ここは覚えていないとさすがにやばいだろう」というところだけはみっちり覚えましょう。具体的には、古代ローマ・ギリシアとか、中国で言えば秦・漢・唐・宋・明・清あたり、近代史で言えば絶対王政・啓蒙専制君主・英仏米革命・ナポレオン・帝国主義、現代史なら一次大戦・世界恐慌・二次大戦あたりでしょうか。基準がわからなければ、学校の先生や塾の先生、世界史のよくできる友達に「ここだけは覚えろ章」をピックアップしてもらいましょう。そして、その他の部分は太字だけ覚えて話の流れを理解したらあとはシカトしましょう。

・その上で(あるいはそれと並行して)、「ここだけは落としたくない」大学の過去問を重点的に学習しましょう。各大学には大学ごとの、さらに学部がわかれている場合には学部ごとの設問の特徴のようなものが多かれ少なかれ存在します。それをしっかり把握していると、余分な労力を極力使わずに必要な部分だけをピックアップして強化することもある程度は可能です。ただし、その場合以下の3点に注意してください。

 

 A:「落としたくない大学」とは第一志望の大学とは限りません。たとえば、「第一志望に合格できなければ浪人も辞さず!」と思っている場合には第一志望の大学に重点をおいて勉強するので良いのですが、もし「どうしても現役で!」と考えている場合にはたとえば「この大学だったら行ってもいい第2志望、第3志望の大学の過去問を重点的に学習」という安全策もなくはないです。9月までの段階で全然勉強していないという前提であればむしろアリでしょう。

 B:科目ごとの相性にも気をつけましょう。たとえば、ある大学の社会の過去問を重点的に勉強して、「よし!世界史はばっちり!」と思ったらその大学の英語がどうしても苦手で、「別の大学の世界史をやっておけばよかった…」なんていうことは十分にあり得ます。どの大学の過去問を重点的に学習すればよいのかということは、世界史だけではなく、総合的に判断しましょう。

 C:以上の戦略はセンターについては度外視していることを忘れないでください。もし、一部の単元や項目だけに特化した学習の仕方をするのであれば、それとは別にセンター向けの勉強を少し厚めにやっておきましょう。もちろん、センターを受験しないというのであれば、その限りではありません。

 いずれにしても、この方法で身につくのは世界史のほんの一部に過ぎません。ちょっと視点を変えた問題や、過去問とは全く違う傾向の問題が出てきたときには完全にお手上げです。余裕が出てきたら、できる限り他の学校、単元、問題集にも手を出して、インプットの幅を広げることを忘れないでください。

 

 さて、以上になりますが、いかがでしたでしょうか。かなり簡潔にまとめたので十分に書けなかった部分もあります。特に、具体的な勉強法ですね。問題集はこんなふうに進めようとか、できなかったところのチェックはこうするとあとでわかりやすいとか…時間のある時にその辺の工夫もあげていければと思います。人によって状況は様々でしょうが、その時その時で適した学習法は異なってくるかと思います。遮二無二学習を進めることが何より大切ですが、少し余裕ができたら自分のすべきことを整理してみる時間も大切だと思います、頑張ってください!

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