前回の早稲田文学部に続き、今回は慶應義塾大学文学部の簡単な出題傾向分析をしてみました。早稲田と違って、慶応の文学部は基本的には何らかのテーマに沿って話が展開するテーマ史の形で出題されることが多いです。たとえば、2021年の大問Ⅰなどは「交通(街道・海上交通・鉄道など)」をテーマとして出題しています。
この形で出題される場合、大問ごとの主要テーマは分析しても正直あまり意味はありません。なぜかというと、作ろうとすれば何でも作れてしまうからです。また、慶応の場合はこうしたテーマ史をベースに出題が作られるので、一つの大問の中に複数の分野・時代にわたる出題が含まれていることも少なくありません。(たとえば、先ほどの2021年の「交通史」をテーマとした出題には、「王の道」や「アッピア街道」といった古代オリエント・地中海世界からの出題のほか、「蒸気機関車」・「スティーブンソン」など産業革命期の内容、さらに「アウトバーン」などの20世紀史にいたるまで非常に多様な内容が含まれていました。この辺も、一つの大問の中で比較的同種の単元の内容が含まれることが多い早稲田の文学部の出題傾向とは大きく異なる点かと思います。
そこで、慶応文については、単純に設問ごとに、解答がどの範囲に関係しているものかを分析するだけにしました。調べ方は前回ご紹介した早稲田大学文学部の出題傾向と同じで、以下の通りとなっています。
・表中の範囲については山川出版社『詳説世界史研究』2017年度版の章立てを利用。掲載されていないものについては、山川用語集の掲載場所から妥当だと思われる範囲に振り分け。
・分類の仕方も数え方も粗いので、あくまでも大雑把な傾向把握。頼り過ぎない方が吉。
(各設問の出題範囲分析)
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「その他」は2021年の「駅伝(制)」など、複数分野にまたがっていて分類が難しいものや、2019年の「モンバサ」のように、文章と設問だけでは世界史のどの分野に振り分けるべきか判断がつきにくいものを「その他」としています。
早稲田文と比べるとあまり傾向というべき傾向はみて取れません。一定数、やや出題が多いかなという単元はありますが、慶応文では「毎年満遍なく●●から出る」というよりは、「突如としてまとまってごそっと出題される」ことが多いため、正直6年分程度の分析では参考程度かなという気がします。
ただ、それでもやはり「古代オリエント~地中海世界」や「中世ヨーロッパから近世初期(ゲルマン人の諸王国~ルネサンス・大航海時代・宗教改革あたりまで)」、「帝国主義とアジアの民族運動」あたりは比較的よく出るように思われます。中国史については古代史よりも明・清以降の方がよく出題されるイメージです。
また、逆にあまり出題されない範囲というのも見えてきます。先史時代からの出題がないのは分かりますが、意外だったのは「内陸アジア世界・東アジア世界の形成」(北宋~元など)からの出題があまりなかったことです。また、「欧米における近代国民国家の発展」(ウィーン体制以降の19世紀ヨーロッパ史など)も思ったよりも出題されていませんでした。
以上、簡単に分析をしましたが、これらはあくまで過去6年分程度の簡単な分析にすぎません。「出題傾向」などというものは時としてガラっと変わってしまうこともあります。また、慶応の場合、上述の通り特定の年にそれまであまり出ていなかった分野がごそっと出題されることもありますので、特定の分野が「出る・出ない」と決めつけてかからない方が無難です。その辺のところをよくご理解の上、参考になるものがあればお使いください。