今回は2016年の上智TEAP利用型世界史についての解説を進めたいと思います。
上智TEAP利用型世界史については、年によってかなり設問の難易度に差があります。まだ導入されて間もなく、問題の内容・形式ともに落ち着かない様子でしたので、先に特に難しい設問である2017年、2019年、2020年などの解説からUPしておりました。そんなわけで、今回解説する2016年の問題はそれらと比べるとやや取り組みやすい内容かと思います。要求されている問いもそこまで難しい内容ではありませんし、リード文自体も比較的内容を理解しやすい設問であるかと思います。ただ、2016年は試験時間が60分でしたので、設問1と設問2を素早く解き、論述問題にしっかりと時間を使って丁寧に解き進める必要があったかと思います。
また、上智については近年入試方式の大幅な変更がなされています。詳しくは2020年解説の方に書いておきました(というか、上智の用意した動画を紹介しておきました。丸投げですみませんw)ので、そちらもご確認いただくとよいかと思います。
<設問1>
:典型的な空欄補充問題です。全て基本問題かと思います。しっかり勉強している人はおそらく全問正解してくるので、この年の小問は一つも落としてはいけなかった内容かと思います。
( ア )-② [フランス]
:インドシナ戦争は宗主国フランスに対してベトナム民主共和国の独立宣言を行ったホー=チ=ミン率いるベトナム独立同盟(ベトミン)が起こした戦争。ディエンビエンフーの戦い(1954)でベトナム側の勝利が決定的となり、ジュネーヴ休戦協定(1954)で休戦へ。
( イ )-② [パキスタン]
:1947年のインド独立法に基づいて分離独立。
また、アフガニスタンは1919年に独立、バングラデシュは第3次印パ戦争(インド=パキスタン戦争)で1971年に独立しているので、省くことができる。
( ウ )-① [南アフリカ共和国]
:人種隔離政策からアパルトヘイトを想起すべき。
( エ )-① [スカルノ]
:シハヌークはカンボジア、マルコスはフィリピン、リー=クアンユーはシンガポール。
( オ )-④ [ガーナ]
:アフリカの黒人国家の独立としては、ガーナ(1957、ンクルマ[エンクルマ]の指導)、ギニア(1958、セク=トゥーレの指導)を経て1960年のアフリカの年で17か国が独立。
( カ )-② [アッバース朝]
:イラクの首都バグダードが都であったのはアッバース朝。(アッバース朝第2代カリフ、マンスールの時に建設された)
※ ウマイヤ朝の都はダマスクス、マムルーク朝はカイロ、イル=ハン国はタブリーズ。
( キ )-③[サイクス=ピコ協定]
:第一次世界大戦中の中東地域をめぐる取り決めとしては、フサイン=マクマホン協定(1915、アラブ人の独立を約束)、サイクス=ピコ協定(1916、英・仏・露による中東分割支配)、バルフォア宣言(1917、ユダヤ人に対する民族的郷土建設を約束)は頻出なのでおさえておく。
( ク )-④[モノカルチャー]
:エンクロージャーはイギリスで起こった土地の囲い込み、マニュファクチュアは工場制手工業、コルホーズはソ連の集団農場。
( ケ )-④[ナスル朝]
:1492年、ナスル朝のグラナダが陥落してレコンキスタが終了。
( コ )-③[ジャクソン]
:1830年、インディアン強制移住法はジャクソン大統領の時。
<設問2>
:こちらの設問も、リード文に対する基本的な読解力と世界史の基礎的知識があれば、特に問題なく解ける設問です。全問正解も十分に可能です。
a
(解答例1)武力によって外部へと追いやられた(16字)
(解答例2)植民地社会の外部にいる存在とされた(17字)
(解答例3)植民地社会の外部に位置づけられていた(18字)
:南北アメリカの事情について書かれた文章の第3段落に書かれています。また、設問より「植民地社会の内部に位置付けられていた」と「対照的」であるわけですから、反対の内容を示せばOK。
b
(解答例)プランテーションの労働力(12字)
c
(解答例1)選挙権や公共施設利用についての黒人差別(19字)
(解答例2)ジム=クロウ法よる黒人差別や公民権制限(19字)
d (例)非暴力主義を掲げた黒人の公民権運動(17字)
(例)黒人差別の完全な撤廃を求める公民権運動(19字)
<設問3>
:こちらの設問も、他の年の上智TEAP利用型の論述問題と比べると平易な内容です。リード文の読解がしっかりできれば問題はありません。設問では、「スペイン領ラテンアメリカ」と「イギリス13植民地」では「対照的な」社会構造が形成された理由を述べよと言っています。「対照的」という言葉は他の大学の論述問題でもよく出てくる言葉ですが、「AとBという二つのものに著しく異なる特徴がある、または二つのものを比較検討する余地がある」ことを示す言葉です。もしリード文の内容がうまく頭に入ってこない場合には、「スペイン領ラテンアメリカ」と「イギリス13植民地」には、いくつかの要素について異なる特徴があるのだ、ということを意識して読み進めてみるとよいでしょう。
【1、設問確認】
・メキシコとアンデス高原を中心とするスペイン領ラテンアメリカでは、なぜイギリス13植民地と対照的な社会構造が形成されたのか論ぜよ
・具体的な歴史上の事実を補足せよ
・「先住民が狩猟・採集にもとづいて部族単位で分散的に生活していたこと」がイギリス13植民地の構造に影響を与えたとする仮説を参考にせよ
【2、リード文の読解】
リード文全体の構造は以下の通りです。
① 非ヨーロッパ地域の独立の多様性
② アジア・アフリカ諸国と南北アメリカの相違
(宗主国からの独立と国家形成の担い手について)
③ スペイン領植民地(南部アメリカ)とイギリス領13植民地(北部アメリカ)の相違
(定住白人と先住民の関係のあり方)
④ 13植民地における先住民関係性の背景
これらのうち、本設問に直接関係があるのは③と④です。以下は、③と④の内容を表にしてまとめたものになります。
【解答例】
スペイン領ラテンアメリカでは、アンデス高原にインカ帝国、メキシコにアステカ王国が存在し、トウモロコシやジャガイモの栽培を行い、マチュピチュ、クスコやテノチティトランなどの都市も存在し一定の人口が集中して居住していた。そのため、狩猟・採集に従事して分散して生活していたイギリス13植民地とは異なり、先住民を労働力に転化し搾取することが容易で、キリスト教に教化しつつ支配するエンコミエンダ制が発達した。しかし、ヨーロッパ人の持ち込んだ疫病で人口が激減したため西アフリカから農場や鉱山の労働力として黒人奴隷が輸入された。クリオーリョが支配層を形成しつつも、先住民や黒人奴隷は労働力として社会の内部に包摂されて人種間の混血が進み、先住民を社会外部へ排除したイギリス13植民地とは異なる複雑な社会構造が形成された。(350字)
大切な部分は、スペイン領ラテンアメリカでは先住民や黒人奴隷などの労働力が植民地社会の中に組み込まれていったのに対し、イギリス13植民地では先住民を外部の世界へ追いやり、排除していったということと、なぜそのような差異が生じたかを説明する理由として、前者が農耕社会でまとまった人口の確保が容易だったため、労働力に転化しやすい環境にあったのに対し、後者は狩猟・採集社会で分散して住んでいたため、労働力に転化するにはコスパが悪かったということをきちんととらえられていたかということです。世界史の授業や教科書ではこうした内容はあまり習いませんが、リード文から十分読み取れる内容かと思います。世界史の知識をベースにして、国語的な読解力を問う設問です。平易ではありますが、試験時間と照らしても無理のない良問かと思います。