ちょうどブログのご質問に対する答えの中で話題になったので、こちらのご紹介を忘れておりました。駿台受験シリーズの『テーマ別東大世界史論述問題集』です。東大を受験することを考えるのであれば持っていて損のない本かと思います。過去二十数年(私の持っている版では「28か年徹底分析」となっています)にわたる東大大論述と小論述をテーマ別に配置し直したもので、解答例もしっかりとしたものがつけられているかと思います。もちろん、人によって細かいところに意見したくなることもあるのかもしれませんが、「設問の要求を組みとり、これに答えよう」という論述問題における基本的な姿勢が大きくぶれることがないので、わりと安心して使うことができます。こちらは私が現在手持ちのものですが、今は多分改訂されてもっと新しいのが出ているかと思います。
本書の良い点としては以下のようなことがあるかと思います。
・解答例や解説がしっかりしている
・テーマ別に問題が配置されているので、類似の問題が見つけやすい
・テーマ別に問題が配置されることで、どのような問題があるテーマについて出題されてきたのかが一目でわかるため、同テーマについて東大側がどのような問題関心を抱いているのかつかみやすい
・単純に解答に至る道筋が示されているだけでなく、関連する事項や視点などが示されているため、もともと持っている知識・理解に厚みを持たせることができる
・問題と解説部分が切り離されているので使いやすい
・大論述よりもむしろ小論述に丁寧な解説がつけられていることに好感が持てる(あ、これは個人的な感想か…)
こんなところでしょうか。さすがに、長年第一線で活躍されている先生方ですので、問題解説にとどまらず近年の歴史学の知見についても紹介されていて、知識の厚みを感じるものになっています。先に本書に取り組んだうえで、直近数か年の東大過去問については赤本で力試し、といった使い方もできるかと思います。一方で、使いづらいと考える場合があるとすれば以下のようなときでしょうか。
・テーマ別に配置されているため、年代順に設問を解きたいなどの場合には手間がかかる
・第3問は収録されていない
・上記の理由から、「力試しがしたいのでひと通り1年分の東大過去問を解きたい」などの場合には適さない
これらは、そもそも本書がそうした目的のために作られたものでないわけですから無理もないことです。野球のバットの代わりにダイソンの掃除機を使うようなもので、どんな優れた道具であっても目的に合致しないものに使っては不具合が生じるのも当然でしょう。ですから、力試しがしたいときや第3問まで通しで見たい場合には赤本などの東大過去問を、一つ一つの問題とその背景や関連知識まで含めてしっかり理解していきたい場合には本書を使うなど、その目的に合わせて使い分けをするとよいのではないかと思います。また、東大入試は何も世界史だけではないので、英国数など、他の教科も含めて解きたい場合には当然ですが赤本を買うべきですね。
私の個人的な意見では、少なくとも第一志望・第二志望までは自前の赤本を購入する(または常に利用できる環境にしておく)べきだと思いますので、それを前提に、東大前期試験の教科の中でも特に世界史で点数をとりたいとか、世界史の力を伸ばしたいなどの場合には持っていて良い本かと思います。
使い方ですが、もちろん「設問を解いて解説を読む」というやり方でも良いかとは思いますし、それが最善かとは思いますが、英語・国語・数学など他の教科もある中で28か年分の大論述+小論述を一つ一つ書いていく作業、さらにその答え合わせをして解答を精読し、知識の再確認をする作業は、そう簡単なものではありません。大論述と小論述で多分年間平均で800字~900字くらいはある分量ですから、全部でざっと3万字弱は書かないといけない計算になります。受験まで1年以上あるところから進めるのであれば余裕もあるかもしれませんが、この問題集に取り掛かろうとする人の多くは通史を終えて、少し知識も蓄えて…という状態で取り組む人がほとんどだと思いますので、早くて高3の最初、場合によっては夏休みが終わるくらいから取り組むという人もいるのではないでしょうか。そうした場合、本書の問題を一問一問、丁寧に解いていくとかなり無理がありますので、しっかり解く問題と、解説を読んでテーマの理解を深め、知識をbrush upする問題とを分けておくとよいかと思います、ただし、その場合でも「小論述にはしっかりと取り組むこと」が大切です。東大は大論述が目立ちますが、一橋などと違い、大論述だけで結果が決まるのではありません。第2問、第3問を落とさないことの方がより重要です。そうした意味で、本書は確かに良書ではありますが、受験生が使う場合にはある程度の基礎を身につけた状態で取り組むべき一冊でしょう。