早稲田大学教育学部の世界史は、早稲田の世界史の中でもかなり特徴のはっきりした試験です。

問題の中心となるのは、単純に用語を答える問題ではなく、「正しい説明はどれか」、「誤っている説明はどれか」、「二つの文章の正誤の組合せとして正しいものはどれか」、「年代順に並べた場合、何番目にくるか」といった正誤・判定型の問題です。

また、選択肢の誤りは完全なデタラメであるとは限りません。人物名は正しいが時代が違う、王朝名は正しいが制度が違う、条約名は正しいが締結国が違う、地名は正しいが位置関係が違う、といった文章の一部分だけをずらした誤文が数多く作られています。

そのため、早稲田教育の世界史では、「この用語を知っている」だけでは十分ではありません。その人物がいつ・どこで何をしたのか、その制度がどの王朝で行われたのか、出来事の前後関係がどうなっているのか、などまで正確に整理できていることが重要になります。


今回は、2022~2026年度の5年分について、大問テーマを並べるだけではなく、各設問で正解を導くために必要となった知識を「中核知識」として整理し、地域別・時代別の傾向を確認しました。


【早稲田大学教育学部世界史の基本構成】

2022~2026年度を見ると、基本的に大問4題・マーク式という構成が続いています。近年は50問前後を解く形式となっており、2026年度も第1問12問、第2問13問、第3問13問、第4問12問という構成です。2025年度も4大問で構成され、各大問に多数の選択問題が配置されています。

つまり、教育学部では、かなり多くの選択肢を、限られた時間内に正確に処理する力が必要になります。

また、「50問あるから50個の知識が必要」と考えるのは適切ではありません。一つの4択問題の中に、複数の人物・制度・地域・年代が含まれているため、実際には、一つの正解を得るために複数の知識を比較しながら判断する必要がある試験と考えるべきかと思います。

【2022~2026年度の大問テーマ】

まず、5年間の出題を大まかに整理すると次のようになります。

※以下の「大問テーマ」は大学が付けた正式名称ではなく、問題内容をもとに便宜的に整理したものです。


大問テーマ


(一国史よりも「テーマ史」の発想が重要)

5年間の問題を並べると、早稲田教育では単純な一国史だけでなく、「疫病」、「民族移動」、「交易」、「社会主義」、「移民」、「脱植民地化」、「経済活動」、「遊牧民」など、一つのテーマを通じて複数地域・複数時代をつなぐ問題がかなり目立ちます。

たとえば2023年度第1問では、古代ギリシアからヴァイキング、東方植民、ポルトガル・オランダ・イギリスの海外進出、アフリカやアメリカまで話が広がります。

つまり、「中国史」、「フランス史」、「オスマン帝国史」のような、国・地域ごとの通史だけでなく、「交易史」、「民族移動史」、「植民地化と脱植民地化」、「社会主義運動」のような、教科書の章を越えたテーマごとのつながりや整理を意識しつつ、学習を進める必要があります。

【設問ごとの「中核知識」をもとにした分析】
続いて、設問を解く際に決定的に必要となる「中核知識」について、時代・地域別などの分析を進めてみたいと思います。
今回の地域別・時代別分析では、単純に「1問=1件」と数えてはいません。早稲田教育では正誤問題が多いため、一つの設問の中に複数の知識が含まれます。

たとえば2023年度第4問の「遼」についての問題では、「契丹文字」、「キタイ」、「猛安・謀克」、「州県制」、「澶淵の盟」といった複数の知識が選択肢中に含まれています。一方で、この設問の正答を決める上での決定的な知識は、「猛安・謀克は遼ではなく金の制度」という知識があれば十分でした。本稿では、こうした知識を「中核知識」と呼んでいます。

そこで今回は、正答を確定、または決定的に誤答を排除するために必要な知識を「中核知識」として扱い、これについて分析します。一方で、残りの選択肢まですべて正誤を判定するために必要な知識は「周辺判定知識」として別途分析を加えています。

(集計ルール)

今回の分析では、次のような集計上のルールを用います。

〇 正答を確定するために必要となる知識を「中核知識」として扱う

〇 二つの文章を別々に正誤判定する問題では、それぞれを独立した知識として考える

〇 年代整序では、個々の年号よりも「出来事の前後関係」を一つの知識として扱う

〇 問題文の中で、すでに示されている情報は、原則として必要知識には含めない

〇 すべての選択肢を完全に判定するための追加知識は「周辺判定知識」とし、地域・時代の集計には原則加えない

〇 複数地域にまたがる場合は、正答判定の中心となる地域を主分類とする

〇 複数時代にまたがる場合は、正答判定の中心となる時期に分類する

〇 大学側が不適切と認定した問題は通常集計から除外する

〇 大学側が複数正解を認めた問題は注意して扱う

したがって、以下の数字は厳密な統計値というより、出題の大きな偏りを見るための概算です。また、以下の割合は配点の割合ではありません。正答判定に用いた中核知識を地域・時代別に分類した際のおおよその構成です。数%の違いよりも、「4割弱」、「2割強」、「1割強」といった大きな傾向を見るためのものとお考えください。

(地域別ではヨーロッパが4割弱)

中核知識を地域別に分類すると、おおよそ次のような構成になります。


地域別表
まず、ヨーロッパ史が最大です。2022年度第1問では中世ヨーロッパ、第2問では第一次世界大戦後のヨーロッパがまとまって問われています。2023年度第2問もスウェーデンとバルト海世界が中心で、三十年戦争、北方戦争、ナポレオン戦争、ウィーン会議、ロシア史、非同盟、NATOなどが問われています。

一方で、ヨーロッパ以外の地域が全体の6割程度を占める点には注意が必要です。ヨーロッパ史が比較的手厚く出ているからと言って、そこだけを重点的にやれば合格点に届くほど甘くはないということが分かります。


(中国・東アジアは2割強で、かつ時代的な広がりがある)

中国・東アジアは、5年間を通して非常に安定した形式で出題されています。

2022年度第4問

2023年度第4問

2025年度第4問

2026年度第4問


と、5年間のうち4年度でまとまった東アジア史が出題されています。たとえば、
2023年度第4問では「唐」、「吐蕃」、「新羅」、「渤海」、「遼」、「西夏」などが一つの大問にまとめられています。さらに設問では、「朝鮮半島統一」、「渤海」、「唐末」、「新羅」、「遼」、「燕雲十六州」、「西夏」などに関する事柄が問われています。

また、2025年度第4問は古代中国から、2026年度第4問は19世紀末~20世紀初頭の東アジアから出題されています。

このように、中国史については過去5年分を見るだけでも古代・中世・近世・近現代からまんべんなく出題されるため、どこかだけを重点的に学習するという方法は危険です。教育学部で中国史から2割強の出題がされていることを考えれば、中国史については古代から近現代まで全体を通して仕上げる必要がある分野と考えた方がよいでしょう。

(
イスラーム+中央ユーラシアも2割強)

西アジア・イスラーム世界と中央ユーラシアを合わせると、全体の2割強程度になります。これは、中国・東アジアに近い規模です。したがって、早稲田教育ではこの地域を「周辺分野」と考えない方がよいでしょう。

2022年度第3問では、現在のイラク周辺をシュメール・バビロニアからイスラーム時代、オスマン帝国、現代イラクまで追っています。

また、2023年度第3問では、トルコ民族の歴史について


○ 丁零

○ 突厥

○ ウイグル

○ トルコ人のイスラーム化

○ ガズナ朝

○ セルジューク朝

○ オスマン帝国

○ トルコ共和国


という長期的な流れが問われています。
実際の設問でも、ガズナ朝、セルジューク朝、ウマル=ハイヤーム、ムラービト朝、オスマン帝国、青年トルコ革命、セーヴル条約、トルコ共和国の世俗化などが続きます。

少し脱線しますが、これについては、2010年代の後半から、トルコ民族の歴史については東大・京大を中心にかなり集中して出題されていましたので、受験生の間ではトルコ史に対する意識・耐性が高まってきていました。そうした面もあって、次第でもトルコ民族史については出題頻度が高まってきています。

<主要国立大学の大論述でトルコ民族史が問われた例>
国公立トルコ史

また、こうしたトルコ民族史が出題されるようになった背景として、「トルコ民族史」が単なるイスラーム史の一部分ではなく、ユーラシアを横断する歴史として捉え直されるようになったことや、内陸アジア・中央ユーラシアを、東アジア史とイスラーム史の隙間ではなく、一つの歴史空間として見る傾向が強まってきたことなども挙げられるかと思います。つまり、トルコ民族史を追うと、中国・中央アジア・西アジア・ヨーロッパなどの地域を一本につなぐことができ、民族移動、宗教変容、国家形成、東西交流を数百年~千年以上の時間軸で見せることができるため、地域や時代をまたぐ歴史像を提示する上で非常に使い勝手が良いのです。使われ初めてから10年以上がたちますので、やや古びてきた感はありますが、今後もしばらくの間はテーマとして注意すべき内容ととらえた方が良いでしょう。

話を元に戻しますと。2026年度第3問も騎馬遊牧民と東西交流からの出題があります。したがって、中央ユーラシアやイスラーム史を苦手なまま放置すると、教育学部ではかなり危険だと考えた方がよいでしょう。

(東南アジアは平均割合以上に注意)

東南アジアは5年間平均では1割弱です。数字だけを見ると、ヨーロッパや中国より優先順位が低いように見えます。しかし2024年度第4問では、東南アジア史が一大問を占めています。マレー、インドネシア、ベトナム、カンボジア、タイ、フィリピンなどがまとまって出題されました。

つまり、5年間平均では少ない地域でも、一年度では大問一つ分になることがあるということです。地域別割合は、「捨てる地域を決めるため」ではなく、「どこを厚くすべきか」を考える材料として使うべきでしょう。

(時代別では20世紀以降が3割程度)

必要知識を時代別に見ると、おおよそ次のようになります。

時代別比重
最も多いのは20世紀以降です。


2022
年度にはヴェルサイユ体制、

2023年度には非同盟・NATO、

2024年度には社会主義や移民、

2025年度には脱植民地化、

2026年度には国連・冷戦・中東問題などが出題されています。


したがって、20世紀史は教育学部対策の重点分野と考えてよいでしょう。

(一方で、20世紀以前は約7割)

20世紀以降が3割程度ということは、逆に言えば「古代~19世紀」が約7割を占めることになります。

そのため、「早稲田は近現代が大事だから、古代・中世は後回しでよい」という勉強法は危険です。

特に中世は2割強あり、20世紀に次いで存在感があります。2023年度ではヴァイキング、東方植民、中世教会、テュルク史、唐と周辺民族など、中世関係の問題がかなり多く出ています。2026年度第3問も古代~中世の中央ユーラシア史が大きな部分を占めます。

したがって、「20世紀史をやや厚めにする」、「ただし古代・中世・近世にも穴を作らない」というのが現実的な対策になります。

(地域×時代で見ると、対策の重点は見えてくる)

大まかには次のような傾向があります。

時代_地域別

これは「その時代・地域しか出ない」という意味ではありません。5年間の出題を見たときに、特に意識しておきたい組合せです。

中国史は時代を絞りにくい分野ですが、中央ユーラシアについては、「匈奴などの古代遊牧民」→「突厥」→「ウイグル」→「モンゴル」→「トルコ系諸民族のイスラーム化」といった長い流れを整理しておくことは比較的効果的かと思われます。

【早稲田大学教育学部では「周辺判定知識」も大切】

早稲田教育では、正答を決めるための中核知識のほかに、残りの誤った選択肢まで完全に切るための周辺判定知識があります。

たとえば2023年度第4問の「遼」の問題では、正答を取るだけなら、「猛安・謀克制は金」と分かれば判断できる場合があります。しかし、全選択肢を完全に判定するには、「契丹文字」、「キタイ・カタイ」、「猛安・謀克制」、「州県制」、「澶淵の盟」まで確認する必要があります。

同様に2023年度第1問では、「クレタ文明」、「ドーリア人=スパルタ」、「シュリーマン=ミケーネ文明」といった複数の知識が選択肢に並びます。

つまり、早稲田教育は、「50問あるから50事項を覚えればよい」という試験ではありません。一問を丁寧に復習するだけでも、複数の周辺知識を確認することができます。

こうした問題の特徴から考えると、早稲田教育の過去問演習で最ももったいないことは、「正解した問題は復習しない」ということです。たまたま一つの選択肢だけ知っていて正解した可能性があるためです。

過去問を復習するときには、「aはどこが間違っているか」、「bはなぜ正しいか」、「cはどこを直せば正しくなるか」、「dは何と何を混同させているか」などまで踏み込んで確認するとよいでしょう。

たとえば2023年度第1問のポルトガル海外進出を復習すれば、「ヴァスコ=ダ=ガマとインド航路」、「アルブケルケとゴア」、「マラッカ」、「マカオ」、「セウタ」などをまとめて確認できます。こうした誤文訂正を繰り返すことで、一問の過去問を複数の知識の復習に利用して、知識の層を増やしていくことが大切です。

【年代整序は「年号」ではなく「前後関係」が重要】

早稲田大学の教育学部では、出来事を年代順に並べる問題も見られます。

たとえば2023年度第4問では、「新羅による加耶諸国の併合」、「百済滅亡」、「白村江の戦い」、「高句麗滅亡」の順序が問われました。すべての西暦を完璧に覚えていればもちろん解けますが、新羅による加耶諸国の併合の年号まで覚えているというのは現実的ではありません。むしろ、「百済滅亡→白村江→高句麗滅亡」という歴史的な流れを理解していることが、正解に近づくためには重要です。

年号は数字だけで覚えるのではなく、事件と事件の前後関係までセットで整理するとよいでしょう。

【地理知識もかなり重要】

教育学部の正誤問題では、地理知識もかなり役立ちます。

中央ユーラシア、バルカン半島、西アジア、東南アジア、中国周辺地域などでは、「その国・都市・民族がどこに位置していたのか」を知らないと、選択肢を切りにくい問題があります。

特に、中央ユーラシア・バルカン半島・西アジア・東南アジア・中国周辺民族・列強の植民地分割については、資料集の地図で確認しておく価値があります。

早稲田の正誤問題では、「名前は知っているが、どこにあるのか分からない」という状態はかなり危険です。

【早稲田大学教育学部「世界史」で優先したい分野】

5年間の分析から考えると、まず重要なのはヨーロッパ史です。

中でも、「中世」、「19世紀」、「20世紀」は特に注意したいところです。

次に、中国・東アジア史です。こちらは特定時代ではなく、古代から近現代まで全体を押さえる必要があります。


さらに、イスラーム世界・中央ユーラシアです。
両者を合わせると2割強程度となり、中国・東アジアに近い規模になります。

また、時代別では20世紀史、特に冷戦・社会主義・脱植民地化・国際機関などは重点的に確認しておく価値があります。

ただし、割合が低い地域・時代を捨てることはおすすめできません。東南アジアのように、5年間平均ではそれほど高くない地域が一年度では大問一つを丸ごと占めることがあるためです。

【まとめ】

2022~2026年度の早稲田大学教育学部世界史を、個別設問で正解を導くための知識を基準に分析すると、いくつかの特徴が見えてきます。


(地域別)

○ ヨーロッパが4割弱

○ 中国・東アジアが2割強

○ 西アジア・イスラーム+中央ユーラシアが2割強

という構造が大きな柱。

(時代別)

○ 20世紀以降が3割程度で最も多い

○ 20世紀以前も約7割が出題される


そのため、
「ヨーロッパ近現代だけを重点的に勉強する」という対策では不十分です。中国史は全時代について、イスラーム・中央ユーラシアも重要で、各地域を網羅的に学習することが求められます。

早稲田大学教育学部の世界史は、細かな知識をただ大量に覚える試験というより、教科書レベルの知識を正確な関係性の中で整理し、それを正誤判定に使えるかを厳しく確認する試験と考えるべきかと思います。
一問一問のレベルはそう難解なものはありません。ただし、時代的・地域的に「ヤマをはる」ことは不可能に近いため、かなりの量の知識を備えて試験に臨む必要があります。