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タグ:#上智TEAP利用型

2025TEAP利用型のリード文は「学生になる、学生であること」の意味や価値について歴史的変化を概観した上で考察することをテーマとした文章でした。前年の「世界史の世界史」という文章に続き、具体的な歴史というより、やや抽象的な文章でした。さらに論述問題の方も本文を土台としつつ、「学生になる、学生であること」の意味を論じさせるというもので、世界史の知識をただ整理すればよいという類のものではなく、解答作成の自由度が高い一方で、受験生に本文の本質的な読解力・作文能力を要求するものでした。2020年頃から上智TEAP利用型の論述問題は、「受験生に自分の考えを述べさせる」スタイルの設問を模索してきたように思いますが、リード文の内容も含めて設問の「型」が徐々に整いつつある印象を受けます。来年度も類似の問題が出題されるとすれば、受験生には単なる世界史の丸暗記ではなく、一定の世界史知識と理解をもとに、文章の内容を読み取り、その上で自身の論を展開する確かな国語力が必要とされることになるでしょう。 

試験の基本的な形式については大きな変化はありません。小問が5題、200字論述が1題、350字論述が1題の90分試験でした。こちらも先日書いた出題傾向の方で述べましたが、2018年以降、試験の形式自体には大きな変化はなく、安定してきているように思われます。小問の内容についてはごく基本的なもので、大学入学共通テストやGMARCHクラスの設問が解けるのであれば難問といえるものはありませんでした。さすがに小問で取りこぼしたくはないですが、内容を考えると論述の配点が大きいと思われますので、早くから論述対策に取り組んでおくことが必要となります。

 

【小問(設問1、⑴~⑸)】

設問1

問⑴ d

:北宋の頃に導入された皇帝による直接試験は殿試。基本問題。

 

⒜ 郷挙里選は前漢の武帝の頃に始まったもので、高祖の時期ではない。

⒝ 九品中正法は結果として豪族の貴族化を招いた。

⒞ 科挙を朝鮮王朝で導入したのは李成桂であって世宗ではない。また、科挙自体はその前の王朝である高麗時代から導入されている。

 

問⑵ b

:ツンフトは同職ギルド(手工業者の同業組合)のことを指し、商人ギルドとは異なる。受験生の中には商人と手工業者を混同してしまう人がいますが、商人は「物品の流通・販売を担う人」であり、手工業者は「物品の製造を行う人」です。つまり、商人は「売る人」、手工業者は「作る人(職人)」と簡潔に区別できますので、意識しておくと良いでしょう。

 

問⑶ d

:三十年戦争の講和条約であるウェストファリア条約(1648)によって、カルヴァン派も公認された。

 

⒜ ドイツ農民戦争において、ミュンツァーが指揮する農民軍が農奴制廃止などを要求する「十二か条」を掲げると、ルターはこれに反対し、諸侯に鎮圧を訴えかけた。

⒝ サン=バルテルミの虐殺(1572)はユグノー戦争(1562-1598)中に発生した事件。

⒞ ルター派のドイツ諸侯が結んだのはシュマルカルデン同盟。

 

問⑷ c

:インドの初代首相となったのはネルー。ガンディーはインド独立の翌年に暗殺されるが、その当時で78歳の高齢。

 

問⑸ a

:ハンガリーで反ソ暴動が発生したのは1956年。この年にソ連が行ったスターリン批判をきっかけに自由化の波が強まったことが背景にあった。ソ連はこれに介入し、首相ナジ=イムレは連行されて秘密裏に処刑された。スターリン批判とポーランド・ハンガリーにおける反ソ暴動(1956)は冷戦史の中でも頻出の基本事項。

 

設問2(論述問題、200字以内)

【設問概要】

・リード文中の下線部(第一次世界大戦を契機に社会が大衆化した)に関連して、第一次世界大戦が参戦国の政治・社会に与えた影響について説明せよ。

200字以内。

・指定語句:植民地 / 女性参政権 / 総力戦 / 民族運動

 

:第一次世界大戦の影響については、いろいろな大学でも出題される超頻出の問題で、論述問題としては基本問題といってよい問題です。この年の受験生でこちらの問題を取りこぼしてしまった場合は、かなり不利な状況になったのではないかと思われます。一応、「参戦国の政治・社会に与えた影響」という限定はされていますが、特に目新しいところもない設問ですので、以下に第一次世界大戦の特徴ならびにこの戦争が各所に与えた影響と、解答例を示しておきます。

 

(第一次世界大戦の特徴)

① 世界大戦

:ヨーロッパのみならず、アジア・アフリカ・アメリカなどの各地が様々な形で戦争にかかわった世界大戦となったこと。

② 新兵器の登場

:毒ガス、戦車、飛行機などをはじめとする新兵器が登場したこと。

③ 総力戦

:国家の総力を動員し、工業力をはじめとする国力が戦争の勝敗を決定する総力戦となったこと。(銃後への戦争拡大[女性の軍需工場への動員、経済活動の国家統制など]、植民地からの戦力・物資の動員、挙国一致内閣の成立など)

 

(第一次世界大戦の影響)

① 植民地における民族運動の高揚

:戦争のために物資や人員を動員した植民地では、自治や独立を要求する民族運動が高揚

② 女性参政権の拡大

:女性の目に見える形での戦争協力が評価されたことや、ドイツ・ロシアで起こった革命などが原因となって、主要国において女性参政権が拡大し、大衆の政治参加がさらに進んだ。

 

[第一次世界大戦前後に女性参政権が成立した主な国]

・ソヴィエト=ロシア(1917

・ドイツ、イギリス(1918

・アメリカ合衆国(1920

 

③ 国際関係の変化(ヨーロッパの相対的地位の低下)

:ヨーロッパ列強中心の国際体制が動揺し、相対的地位が低下。また、東欧周辺の4つの帝国が消滅(ドイツ帝国・オーストリア=ハンガリー帝国・オスマン帝国・ロシア帝国)。一方で、アメリカ合衆国が台頭し、後にはソ連や日本などが存在感を増す。

 

(解答例)

総力戦となった第一次世界大戦で各国経済は疲弊し、その影響で革命が発生したドイツとロシアでは、ヴァイマル共和国とソヴィエト=ロシアが成立した。また、女性が総力戦の一翼を担ったことで、英・米でも女性参政権が認められるなど、大衆の政治参加が進んだ。物資や人員を供給した植民地では権利意識が高まったが、ヴェルサイユ体制下での民族自決がアジア・アフリカに適用されなかったことから、民族運動や独立運動が高揚した。 (200字)


設問3(論述問題、350字以内)

【1、設問概要】

・波線部に関連し、学生になる、学生であることが持ちうる普遍的な意味、もしくは複数の地域や時代に共通する意味を論ぜよ。

・波線部は以下の通り。

「学生になる目的や学生であることの意味は時代や地域によって異なり、それに応じて社会における学生の役割や学生に対する社会のまなざしも多様でありうるのだ。しかし、逆説的に、そうした歴史的変化を俯瞰できてはじめて、学生になる、学生である、ということの普遍的な意味や価値も見えてくるのではないだろうか。」

・問題文の内容を踏まえよ。

・論ずる際に、論の裏付けとなるような歴史的な出来事・具体的な事例を複数挙げよ。

300字以上350字以内。

 

【2、設問の要求を正確にとらえる】

:設問の意味を何となくとらえてしまっては、答えを用意することはできません。本設問に限らず、設問の要求を正確にとらえることが論述問題を解くときの基本です。特に、本設問の場合は問われている内容が具体的な歴史的事項ではなく、やや抽象的な内容ですので、通常の設問以上に設問の要求を正確にとらえることは重要となります。本設問は、

 

① 学生になる、学生であることが持ちうる普遍的な意味を論ぜよ。

② もしくは、複数の地域や時代に共通する意味を論ぜよ。

 

とありますので、これらを理解することが重要となります。

まず、「もしくは」とありますので、①または②のどちらか一方を答えれば良いということになります。

では、①とはどういうことでしょうか。以前にもご紹介した気がしますが、「普遍的」とは「時代や場所を超えて、変わらずに当てはまる」ことを指します。ですから、本設問は「学生になること」や「学生であること」が、時代や場所を超えて共通して持ちうる意味にはどういったものがあるか、と読み替えることが可能です。そのように考えますと、②の意味もほぼ①と同じことを聞いていることが分かります。ただし、①は「普遍的な」とかなり広くとっているのに対し、②の方は「複数の地域や時代」とやや限定的な問い方をしていることになります。

①、②のいずれにしても、「学生になる、学生であること」が、多くの場合に共通して持ちうる意味について論ずることを要求されていることには変わりありません。あとは、その要求に従って論を組み立てるだけです。

 

【3、リード文の内容を整理する】

続いて、リード文の内容を読解し、整理します。設問には論の裏付けとなる歴史的な出来事や事例は「問題文に挙がっているものでなくてもよい」とありますが、それでも自分で勝手に作ったあまり一般的ではない事例を挙げても論に説得力が出ませんし、一から話の流れを作るのも大変です。それよりもむしろ、リード文の内容を整理することを通して、「出題者はどのような議論・立論を想定しているのか」をある程度読み取った方が、全体像を把握しやすくなるはずです。

 

リード文には、学生や大学についての話として、①辞書的な意味、②西洋中世、③西洋近世、④近代、⑤第一次世界大戦以降~20世紀後半、現在の日本、の大きく6つの区分で、それぞれの変遷について述べていますので、これらを整理してみます。設問で聞かれているのは「学生」についてですが、学生について書かれている場所が少ないことや、大学の意味を通して学生の意味も考えることができることから、ここでは学生と大学の両方について整理していきます。

 

① 辞書的な意味

学生:学問をしている人。特に大学に通って学ぶ人。

大学:⑴ 中国の周代以降、王者の建てた最高学府。管理の養成機関。 ⑵ 高等教育の中核をなす学校で、学術の研究および教育の最高機関。

② 西洋中世

学生:学問をしている人。

大学:学者や教師、学生たちの独自の組合から発したもの。大学が先にあるのではなく、人が集まり大学を成した。

③ 西洋近世

学生:聖職者・官吏・医者・教師になるのと同義。官公吏の予備軍。

大学:領邦(国家)と大学の結びつきが強まる。

④ 近代

学生:専門化された学問を追求するために学生になる。国家や社会の中枢を担うエリートの卵。学生ではない人や女性を自分たちとは異なると差別するエリート男性意識と結びつく。

大学:学術機関として発展。(従来からの学問分野における成果、新しい専門分野の確立など。)外国からの留学生も受け入れる。人脈作りの場。行政・司法・医療・教育などの各分野に専門家を輩出するための機関。

⑤ 現代

学生:近代と比べると「学生=エリートの卵」という等式が成り立ちにくくなったものの、名門大学の学生になることは依然として社会的上昇のための有力な手段や自己実現への近道。20世紀後半には既存の政治・経済体制、文化規範を批判する精神と行動力を持つ社会集団に。

大学:大衆に門戸が開かれ、女子の学生も増加。(「エリート型」から「マス型」へ。)国家や社会について学生が意見をかわし、行動を起こすための公共圏としての側面を持つ。

⑥ 現在の日本

学生:カスタマー化した存在。様々な目的を持って学生になる者が増えたため、主体的に活動する学生だけでなく、ただ大学からのサービスを受け取るだけの受動的な学生が増加。

大学:レジャーランド化。社会的上昇や自己実現よりも、別の目的のために楽しむ場。

 

【4、共通している点と変化している点を整理】

:3で整理した内容をもとに、各時代・地域における学生や大学の、どのような部分に共通した意味・内容を見いだせるかや、また逆に時代とともに変化した点が何かについて整理して、自己の立論の核となる部分を見定めます。少なくとも、リード文の読み取りが正確で、かつその後の立論が設問の要求に沿ったものとなっていれば、大きく的外れな解答を作成してしまう危険性はぐっと減ります。

 

(学生・大学に共通する点)

・学問を学ぶ場所であり、学ぶ人であるということ

・多くの時代について、国家と結びつき、また国家を支える人材を輩出してきたこと

・意見交換の場や公共圏として作用した時代があったこと

・時代によって目的は変わるものの、学生たちはそれぞれの目的をもって大学に入ること

 

(学生・大学の変遷)

・学生や教師などの人的結合が大学の中核をなすこともあれば、大学という施設や制度が中核となって人を引き付けることもあったこと

・国家に有用な人材を輩出する機関として機能することもあれば、国家とは離れた形で学問を学ぶ場所として機能することもあった

・特定の身分集団(ギルド、エリートの卵、男社会)を形成することが多かったものの、近年は大衆化し、女子の参加も増加するなどの変化が見られること

・学生の目的は、学問研究、特定の職につくことやエリートになること、社会的上昇や自己実現を達成すること、青春を謳歌することなど、時代によって大きく変わること

 

概ね、こんなところかと思います。本設問では普遍的な意味や、共通する意味が問われていますので、共通点を中心に立論を考えていくことになります。

 

【5、共通点を示す際に、論の裏付けとなる歴史的事項を整理】

:立論の際には、「学生になること、学生であること」が持ちうる普遍的な意味や共通点を示すにあたり、それを裏付ける歴史的事実なども挙げる必要があります。ここでは、4でまとめた共通点を軸にして、関係する事柄にどんなものがあるか考えていきます。

 

① 学問を学ぶ場所であり、学ぶ人であるということ

:こちらについては、辞書的な意味のほか、中世から現代にいたる大学を例として挙げれば十分でしょう。


② 多くの時代について、国家と結びつき、また国家を支える人材を輩出してきたこと

:こちらについては、まず辞書的な意味のほか、近世の神聖ローマ帝国や近代の国民国家における事例などを中心に挙げればよいでしょう。日本の近代化の事例を挙げるのも良いかと思います。

学問と国家の結びつきという点では中国の科挙なども思いつきやすいかと思います。ただし、中国では国家によって設立された最高教育機関は前漢武帝による「太学」や、西晋の頃に設置され、隋の文帝により整備された「国子監」などとなるため、本文で挙げられている西洋の大学とは趣が異なる点には注意が必要です。

また、イスラーム圏における大学、マドラサについても例示できるかと思います、マドラサはシャリーアなど、クルアーンに基づく学問を学ぶ場で、ウラマーが養成される場でしたが、官僚(特に法官・書記・行政官)として国家に仕える人材の教育機関としての役割も果たしていました。法官(カーディー)や勅令起草官・財務官など、シャリーアに対する深い理解を必要とする職に就くにはマドラサで教わる知識が不可欠でした。また、セルジューク朝のニザーム=アル=ムルクによるニザーミーヤ学院では、ウラマーだけでなく政務に携わる学識者の育成も行い、国家官吏の養成機関としての側面も持っていました。

「科挙」や「マドラサ」といった用語は世界史ではごくごく基礎的な知識ですが、本文の内容に頼るだけでなく、こうした用語・視点をところどころで織り交ぜることで、様々な時代・地域において大学が国家と結びつき、国家を支える機能を果たしていたことを、より説得力をもって示すことができます。(本文の内容は、時代こそ違えど大部分が西欧における内容なので、それを補うことができます。)


③ 意見交換の場や公共圏として作用した時代があったこと

:たとえば、中世のウニベルシタス(ユニベルシタス)は教師と学生によって構成された一種のギルドであり、教師と学生が大学における自治を担っていました。また、当時の学生たちは大学のある場所とは別のヨーロッパ各地から集まってくることが普通でした。自治を行うにあたり、学生たちは互いの意見交換を行ったり、時には教師の集団と対抗したり、移転をほのめかして市当局と交渉するなどして、独自の場を構成していました。こうした点を、ベトナム戦争中の反戦運動を展開して既存の政治・経済体制や文化規範を批判した合衆国の学生や、グローバルに反戦運動を展開した世界の学生とあわせて示すのも良いでしょう。また、日本であれば安保闘争や全共闘などの学生運動を例示しても良いかもしれません。

少し脱線しますが、公共圏というのは、「人間の生活において、他者や社会と相互に関わりあいを持つ時間や空間、または制度的な空間と私的な空間の間に介在する領域」のことを言います。公共圏という言葉自体をはっきり定義するのは難しいのですが、この議論の先駆者であるユルゲン=ハーバマス18世紀のヨーロッパ市民社会において成立した「ブルジョワ公共圏」の分析を通してこの公共圏を考えていましたので、世界史に登場するもので言えば17世紀以降に登場したカフェ、サロン、新聞などが公共圏を成したものと考えてよいかと思います。これらのように、完全に「家庭内(ドメスティック)」な領域ではないけれども、一方で完全に「公的」な領域ではない空間のことを指して「公共圏(Public Sphere)」と呼びました。(もっとも、ハーバマスはドイツの人なので原語はエッフェントリヒカイト[Öffentlichkeit]ですが。) 今風に言えば、SNSとか市民団体の討論会などはこうした公共圏といってよいかと思います。要は、国家とは無関係な独立した空間において、公共善などの社会全体や比較的広く共通される諸問題などについて、理論的に自由な意見交換が可能な場のことと考えてよいのではないかと思います。

公共圏は歴史学の分野でも注目されている分野ですので、歴史学研究をしている人なら多分ハーバマスまたはミシェル=フーコーなどには一度は触れるかと思います。この分野について知るのであれば、まずはハーバマスの『公共性の構造転換』(細谷貞雄・山田正行訳、未来社、1973年)は邦訳も出ていますので、こちらを読まれるのが良いかと思います。また、公共圏について具体的な実像を見たい場合には、イギリスの事例に偏ってしまいますが、『近代イギリスと公共圏』(大野誠編、昭和堂、2009年)はいろいろな事例が示されていて面白かったです。

 

④ 時代によって目的は変わるものの、学生たちはそれぞれの目的をもって大学に入ること

:これについては、正直当たり前といえば当たり前のことなので、あまり強調しなくても良いかと思います。上記②と結びつけて述べたり、またリード文では現在の学生がレジャーランドにいるカスタマーとして見られていることが示されていますので、そうしたものと結びつけて論じてみても良いかもしれません。

 

【解答例】

学生になる、学生であることは、「学問を学ぶ人」という普遍的意味を持っていたが、同時に国家を支える人材となることを意味することも多かった。科挙に挑戦した書生や、マドラサで学んだウラマーの多くは官僚となり活躍したし、近世・近代のヨーロッパでは、学生は聖職者・官吏・医者・教師の予備軍であり、学生になることは社会的上昇や自己実現の機会を得ることを意味した。一方で、大学の自治を担った中世のウニベルシタスや、言論の自由を求めたブルシェンシャフト、反戦運動を展開した20世紀後半の学生運動のように、学生は一種の公共圏たる大学において既存の体制や文化を批判する勢力ともなり得た。このように、専門的知識を持つ学生になることは、国家を支え、社会を変革することが可能な存在となることを意味していたと考えることができる。(350字)

 

解答例は上記【5】でまとめた内容のうち、を中心にまとめてみました。ちなみに、本設問の模範解答は上智大学のHPでも公開されています。そちらでは、学生たちが「国家や政府を批判的に捉えて変革しようとして、大きな存在感を示す」存在としてとらえ、具体例としてブルシェンシャフト、ベトナム反戦運動、第二次天安門事件、香港の雨傘運動などを示していますので、主にの内容をまとめたものになっています。このように、本設問はリード文に示されている普遍的意味ないし時代や地域を超えて見られる共通の意味を取り違えることさえなければ、様々な事例をもとに色々な事柄を挙げて答えることができる、比較的解答作成の自由度が高い設問となっています。その分、解答を作る受験生の読解力・文章構成力・世界史の基礎知識を満遍なく問うことができる良問となっているように思います。ただし、採点は大変でしょうね…。


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上智のTEAP利用型も、導入されてからずいぶん経ちまして前回の2025年でもう11年目です。月日の経つのは早い。さすがにこれだけ時間が経過すると、試験形式の方も落ち着いてきて、形がしっかり定まってきたように思います。現在の基本的な試験形式は以下の通りです。


・試験時間:90分

・設問数:小問5、論述2問(200字論述+300字~350字論述)


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2018年に試験時間がそれまでの60分から90分に変更され、そのあたりから設問数はほぼ5問で統一されるようになりました。論述問題については、最初の方こそ字数が安定しなかったものの、2020年以降は「200字論述+300字または350字論述」の形で安定しています。もちろん、突然の試験形式の変更などはありえますが、とりあえずはこの形で出題されることを期待して良さそうです。

上智TEAP利用型世界史の問題では、小問は相変わらずごく基本的な内容で、大学入学共通テストレベルの知識があれば解ける問題が大半です。5問とも全て選択式となっており、問題数が少ないことを考えても、取りこぼすことなく全問を正解したいところです。


一方で、最後についている論述問題についてはかなり手ごたえのある問題となっています。以下は、2015年~2025年までに出題された論述問題の設問概要一覧になります。

スクリーンショット 2025-05-14 224615


以前、2021年までの問題を分析した記事で指摘しましたが、2019年までは史料読解の必要はありつつも基本的には世界史の知識と読み取った情報を整理してまとめれば十分であったのに対し、2020年と2021年の論述問題では解答者自身の見解や用意された文章の文脈を考慮する必要があるなど、解答者自身が自分の言葉で語る必要のある設問が続けて出題されるといった傾向の変化が見られました。

まさに、このあたりの時期から、論述問題のうち第2問目の300字~350字論述の方では、資料の読み取りに加えて受験生自身の受験生自身の歴史に対する視点や立論の仕方などを問うスタイルの問題が出されるようになりました。大学入試と言うよりは大学で出される論文試験に近いスタイルの問題と言って良いと思います。ただし、やや受験生の主観に左右されそうであった2020年の出題の仕方とは異なり、2021年以降の設問はあくまで世界史の知識と与えられた資料をもとに、受験生がどのように情報を整理するか・論を立てるかが問われており、基本に世界史に対する深い理解が必要となるスタイルの設問となっています。それにともない、200字論述の方はそれまでの少し凝った雰囲気がなくなり、世界史の基本的知識を説明させるスタイルの平易な出題が続いています。
こうした試験形式を見るに、小問と200字論述をしっかりと解き切る世界史の基礎力を身につけることは必須です。その上で、300字論述をある程度はまともにかけるようにするというのが、まずは目指すべき目標となるかと思います。

また、以前はかなり限定されたテーマについて述べるリード文が主体で、時代的にもはっきり何世紀をテーマにしているということが言えたのに対し、直近2年のリード文は世界史の個別テーマと言うよりは、より一般的なテーマをもとにして世界史的な意味や視座を問うというスタイルのリード文に変化してきています。そのため、厳密に何世紀頃のことをテーマにしているということは言えなくなりました。特に根拠はなく、カンではありますが、この傾向は今後も続きそうな気がします。依然として近現代史に対する理解が最重要であることには変わりがありませんが、これまで以上にリード文、資料の読解が重要となり、世界史の知識をベースとしつつも、国語力(読解力だけでなく文章作成能力も含めた)が要求される出題に徐々に内容がシフトしてきているように感じます。採点は大変かと思いますが、個人的には受験生の総合力を問う良い設問だと思います。(ただ、問題のバランス的にもう少し小問を増やしたりしてくれても良いかなぁとは思います。)

非常に対策が難しい問題ではありますが、練習・対策用としては上智TEAP利用型の過去問演習は必須です。それ以外に練習材料として使えるということであれば以前からお話ししている通り、東京外国語大学の過去問が良いと思います。扱っている時代、小問数、論述問題が資料読解を必要とする点、論述問題の字数など、類似している点も多く、やや設問の内容に方向性の違いはあるものの、良い練習材料になると思います。また、論述対策は必ずしもないのですが、ICUの人文・社会科学考査あたりは、少しレベルの高い人文社会学系の長い文章を読み、その内容をしっかり理解できているかを確認するトレーニングとしては有用な気がします。(ただし、文章のレベル自体は上智TEAP利用型よりも一段上の文章が多いので内容的には難しい。) 個人的には、材料は上智TEAP利用型と東京外国語大学の過去問で十分かと思いますが、自学自習はかなり難しいので、世界史について深い理解があり、国語力も兼ね備えた信頼できる指導者に解説・添削ともに指導してもらえるのであればそれに越したことはないと思います。学校の先生が「使える」のであればバリバリこき使うのもアリでしょうw

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