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2025TEAP利用型のリード文は「学生になる、学生であること」の意味や価値について歴史的変化を概観した上で考察することをテーマとした文章でした。前年の「世界史の世界史」という文章に続き、具体的な歴史というより、やや抽象的な文章でした。さらに論述問題の方も本文を土台としつつ、「学生になる、学生であること」の意味を論じさせるというもので、世界史の知識をただ整理すればよいという類のものではなく、解答作成の自由度が高い一方で、受験生に本文の本質的な読解力・作文能力を要求するものでした。2020年頃から上智TEAP利用型の論述問題は、「受験生に自分の考えを述べさせる」スタイルの設問を模索してきたように思いますが、リード文の内容も含めて設問の「型」が徐々に整いつつある印象を受けます。来年度も類似の問題が出題されるとすれば、受験生には単なる世界史の丸暗記ではなく、一定の世界史知識と理解をもとに、文章の内容を読み取り、その上で自身の論を展開する確かな国語力が必要とされることになるでしょう。 

試験の基本的な形式については大きな変化はありません。小問が5題、200字論述が1題、350字論述が1題の90分試験でした。こちらも先日書いた出題傾向の方で述べましたが、2018年以降、試験の形式自体には大きな変化はなく、安定してきているように思われます。小問の内容についてはごく基本的なもので、大学入学共通テストやGMARCHクラスの設問が解けるのであれば難問といえるものはありませんでした。さすがに小問で取りこぼしたくはないですが、内容を考えると論述の配点が大きいと思われますので、早くから論述対策に取り組んでおくことが必要となります。

 

【小問(設問1、⑴~⑸)】

設問1

問⑴ d

:北宋の頃に導入された皇帝による直接試験は殿試。基本問題。

 

⒜ 郷挙里選は前漢の武帝の頃に始まったもので、高祖の時期ではない。

⒝ 九品中正法は結果として豪族の貴族化を招いた。

⒞ 科挙を朝鮮王朝で導入したのは李成桂であって世宗ではない。また、科挙自体はその前の王朝である高麗時代から導入されている。

 

問⑵ b

:ツンフトは同職ギルド(手工業者の同業組合)のことを指し、商人ギルドとは異なる。受験生の中には商人と手工業者を混同してしまう人がいますが、商人は「物品の流通・販売を担う人」であり、手工業者は「物品の製造を行う人」です。つまり、商人は「売る人」、手工業者は「作る人(職人)」と簡潔に区別できますので、意識しておくと良いでしょう。

 

問⑶ d

:三十年戦争の講和条約であるウェストファリア条約(1648)によって、カルヴァン派も公認された。

 

⒜ ドイツ農民戦争において、ミュンツァーが指揮する農民軍が農奴制廃止などを要求する「十二か条」を掲げると、ルターはこれに反対し、諸侯に鎮圧を訴えかけた。

⒝ サン=バルテルミの虐殺(1572)はユグノー戦争(1562-1598)中に発生した事件。

⒞ ルター派のドイツ諸侯が結んだのはシュマルカルデン同盟。

 

問⑷ c

:インドの初代首相となったのはネルー。ガンディーはインド独立の翌年に暗殺されるが、その当時で78歳の高齢。

 

問⑸ a

:ハンガリーで反ソ暴動が発生したのは1956年。この年にソ連が行ったスターリン批判をきっかけに自由化の波が強まったことが背景にあった。ソ連はこれに介入し、首相ナジ=イムレは連行されて秘密裏に処刑された。スターリン批判とポーランド・ハンガリーにおける反ソ暴動(1956)は冷戦史の中でも頻出の基本事項。

 

設問2(論述問題、200字以内)

【設問概要】

・リード文中の下線部(第一次世界大戦を契機に社会が大衆化した)に関連して、第一次世界大戦が参戦国の政治・社会に与えた影響について説明せよ。

200字以内。

・指定語句:植民地 / 女性参政権 / 総力戦 / 民族運動 (下線を引く)

 

:第一次世界大戦の影響については、いろいろな大学でも出題される超頻出の問題で、論述問題としては基本問題といってよい問題です。この年の受験生でこちらの問題を取りこぼしてしまった場合は、かなり不利な状況になったのではないかと思われます。一応、「参戦国の政治・社会に与えた影響」という限定はされていますが、特に目新しいところもない設問ですので、以下に第一次世界大戦の特徴ならびにこの戦争が各所に与えた影響と、解答例を示しておきます。

 

(第一次世界大戦の特徴)

① 世界大戦

:ヨーロッパのみならず、アジア・アフリカ・アメリカなどの各地が様々な形で戦争にかかわった世界大戦となったこと。

② 新兵器の登場

:毒ガス、戦車、飛行機などをはじめとする新兵器が登場したこと。

③ 総力戦

:国家の総力を動員し、工業力をはじめとする国力が戦争の勝敗を決定する総力戦となったこと。(銃後への戦争拡大[女性の軍需工場への動員、経済活動の国家統制など]、植民地からの戦力・物資の動員、挙国一致内閣の成立など)

 

(第一次世界大戦の影響)

① 植民地における民族運動の高揚

:戦争のために物資や人員を動員した植民地では、自治や独立を要求する民族運動が高揚

② 女性参政権の拡大

:女性の目に見える形での戦争協力が評価されたことや、ドイツ・ロシアで起こった革命などが原因となって、主要国において女性参政権が拡大し、大衆の政治参加がさらに進んだ。

 

[第一次世界大戦前後に女性参政権が成立した主な国]

・ソヴィエト=ロシア(1917

・ドイツ、イギリス(1918

・アメリカ合衆国(1920

 

③ 国際関係の変化(ヨーロッパの相対的地位の低下)

:ヨーロッパ列強中心の国際体制が動揺し、相対的地位が低下。また、東欧周辺の4つの帝国が消滅(ドイツ帝国・オーストリア=ハンガリー帝国・オスマン帝国・ロシア帝国)。一方で、アメリカ合衆国が台頭し、後にはソ連や日本などが存在感を増す。

 

(解答例)

総力戦となった第一次世界大戦で各国経済は疲弊し、その影響で革命が発生したドイツとロシアでは、ヴァイマル共和国とソヴィエト=ロシアが成立した。また、女性が総力戦の一翼を担ったことで、英・米でも女性参政権が認められるなど、大衆の政治参加が進んだ。物資や人員を供給した植民地では権利意識が高まったが、ヴェルサイユ体制下での民族自決がアジア・アフリカに適用されなかったことから、民族運動や独立運動が高揚した。 (200字)


設問3(論述問題、350字以内)

【1、設問概要】

・波線部に関連し、学生になる、学生であることが持ちうる普遍的な意味、もしくは複数の地域や時代に共通する意味を論ぜよ。

・波線部は以下の通り。

「学生になる目的や学生であることの意味は時代や地域によって異なり、それに応じて社会における学生の役割や学生に対する社会のまなざしも多様でありうるのだ。しかし、逆説的に、そうした歴史的変化を俯瞰できてはじめて、学生になる、学生である、ということの普遍的な意味や価値も見えてくるのではないだろうか。」

・問題文の内容を踏まえよ。

・論ずる際に、論の裏付けとなるような歴史的な出来事・具体的な事例を複数挙げよ。

300字以上350字以内。

 

【2、設問の要求を正確にとらえる】

:設問の意味を何となくとらえてしまっては、答えを用意することはできません。本設問に限らず、設問の要求を正確にとらえることが論述問題を解くときの基本です。特に、本設問の場合は問われている内容が具体的な歴史的事項ではなく、やや抽象的な内容ですので、通常の設問以上に設問の要求を正確にとらえることは重要となります。本設問は、

 

① 学生になる、学生であることが持ちうる普遍的な意味を論ぜよ。

② もしくは、複数の地域や時代に共通する意味を論ぜよ。

 

とありますので、これらを理解することが重要となります。

まず、「もしくは」とありますので、①または②のどちらか一方を答えれば良いということになります。

では、①とはどういうことでしょうか。以前にもご紹介した気がしますが、「普遍的」とは「時代や場所を超えて、変わらずに当てはまる」ことを指します。ですから、本設問は「学生になること」や「学生であること」が、時代や場所を超えて共通して持ちうる意味にはどういったものがあるか、と読み替えることが可能です。そのように考えますと、②の意味もほぼ①と同じことを聞いていることが分かります。ただし、①は「普遍的な」とかなり広くとっているのに対し、②の方は「複数の地域や時代」とやや限定的な問い方をしていることになります。

①、②のいずれにしても、「学生になる、学生であること」が、多くの場合に共通して持ちうる意味について論ずることを要求されていることには変わりありません。あとは、その要求に従って論を組み立てるだけです。

 

【3、リード文の内容を整理する】

続いて、リード文の内容を読解し、整理します。設問には論の裏付けとなる歴史的な出来事や事例は「問題文に挙がっているものでなくてもよい」とありますが、それでも自分で勝手に作ったあまり一般的ではない事例を挙げても論に説得力が出ませんし、一から話の流れを作るのも大変です。それよりもむしろ、リード文の内容を整理することを通して、「出題者はどのような議論・立論を想定しているのか」をある程度読み取った方が、全体像を把握しやすくなるはずです。

 

リード文には、学生や大学についての話として、①辞書的な意味、②西洋中世、③西洋近世、④近代、⑤第一次世界大戦以降~20世紀後半、現在の日本、の大きく6つの区分で、それぞれの変遷について述べていますので、これらを整理してみます。設問で聞かれているのは「学生」についてですが、学生について書かれている場所が少ないことや、大学の意味を通して学生の意味も考えることができることから、ここでは学生と大学の両方について整理していきます。

 

① 辞書的な意味

学生:学問をしている人。特に大学に通って学ぶ人。

大学:⑴ 中国の周代以降、王者の建てた最高学府。管理の養成機関。 ⑵ 高等教育の中核をなす学校で、学術の研究および教育の最高機関。

② 西洋中世

学生:学問をしている人。

大学:学者や教師、学生たちの独自の組合から発したもの。大学が先にあるのではなく、人が集まり大学を成した。

③ 西洋近世

学生:聖職者・官吏・医者・教師になるのと同義。官公吏の予備軍。

大学:領邦(国家)と大学の結びつきが強まる。

④ 近代

学生:専門化された学問を追求するために学生になる。国家や社会の中枢を担うエリートの卵。学生ではない人や女性を自分たちとは異なると差別するエリート男性意識と結びつく。

大学:学術機関として発展。(従来からの学問分野における成果、新しい専門分野の確立など。)外国からの留学生も受け入れる。人脈作りの場。行政・司法・医療・教育などの各分野に専門家を輩出するための機関。

⑤ 現代

学生:近代と比べると「学生=エリートの卵」という等式が成り立ちにくくなったものの、名門大学の学生になることは依然として社会的上昇のための有力な手段や自己実現への近道。20世紀後半には既存の政治・経済体制、文化規範を批判する精神と行動力を持つ社会集団に。

大学:大衆に門戸が開かれ、女子の学生も増加。(「エリート型」から「マス型」へ。)国家や社会について学生が意見をかわし、行動を起こすための公共圏としての側面を持つ。

⑥ 現在の日本

学生:カスタマー化した存在。様々な目的を持って学生になる者が増えたため、主体的に活動する学生だけでなく、ただ大学からのサービスを受け取るだけの受動的な学生が増加。

大学:レジャーランド化。社会的上昇や自己実現よりも、別の目的のために楽しむ場。

 

【4、共通している点と変化している点を整理】

:3で整理した内容をもとに、各時代・地域における学生や大学の、どのような部分に共通した意味・内容を見いだせるかや、また逆に時代とともに変化した点が何かについて整理して、自己の立論の核となる部分を見定めます。少なくとも、リード文の読み取りが正確で、かつその後の立論が設問の要求に沿ったものとなっていれば、大きく的外れな解答を作成してしまう危険性はぐっと減ります。

 

(学生・大学に共通する点)

・学問を学ぶ場所であり、学ぶ人であるということ

・多くの時代について、国家と結びつき、また国家を支える人材を輩出してきたこと

・意見交換の場や公共圏として作用した時代があったこと

・時代によって目的は変わるものの、学生たちはそれぞれの目的をもって大学に入ること

 

(学生・大学の変遷)

・学生や教師などの人的結合が大学の中核をなすこともあれば、大学という施設や制度が中核となって人を引き付けることもあったこと

・国家に有用な人材を輩出する機関として機能することもあれば、国家とは離れた形で学問を学ぶ場所として機能することもあった

・特定の身分集団(ギルド、エリートの卵、男社会)を形成することが多かったものの、近年は大衆化し、女子の参加も増加するなどの変化が見られること

・学生の目的は、学問研究、特定の職につくことやエリートになること、社会的上昇や自己実現を達成すること、青春を謳歌することなど、時代によって大きく変わること

 

概ね、こんなところかと思います。本設問では普遍的な意味や、共通する意味が問われていますので、共通点を中心に立論を考えていくことになります。

 

【5、共通点を示す際に、論の裏付けとなる歴史的事項を整理】

:立論の際には、「学生になること、学生であること」が持ちうる普遍的な意味や共通点を示すにあたり、それを裏付ける歴史的事実なども挙げる必要があります。ここでは、4でまとめた共通点を軸にして、関係する事柄にどんなものがあるか考えていきます。

 

① 学問を学ぶ場所であり、学ぶ人であるということ

:こちらについては、辞書的な意味のほか、中世から現代にいたる大学を例として挙げれば十分でしょう。


② 多くの時代について、国家と結びつき、また国家を支える人材を輩出してきたこと

:こちらについては、まず辞書的な意味のほか、近世の神聖ローマ帝国や近代の国民国家における事例などを中心に挙げればよいでしょう。日本の近代化の事例を挙げるのも良いかと思います。

学問と国家の結びつきという点では中国の科挙なども思いつきやすいかと思います。ただし、中国では国家によって設立された最高教育機関は前漢武帝による「太学」や、西晋の頃に設置され、隋の文帝により整備された「国子監」などとなるため、本文で挙げられている西洋の大学とは趣が異なる点には注意が必要です。

また、イスラーム圏における大学、マドラサについても例示できるかと思います、マドラサはシャリーアなど、クルアーンに基づく学問を学ぶ場で、ウラマーが養成される場でしたが、官僚(特に法官・書記・行政官)として国家に仕える人材の教育機関としての役割も果たしていました。法官(カーディー)や勅令起草官・財務官など、シャリーアに対する深い理解を必要とする職に就くにはマドラサで教わる知識が不可欠でした。また、セルジューク朝のニザーム=アル=ムルクによるニザーミーヤ学院では、ウラマーだけでなく政務に携わる学識者の育成も行い、国家官吏の養成機関としての側面も持っていました。

「科挙」や「マドラサ」といった用語は世界史ではごくごく基礎的な知識ですが、本文の内容に頼るだけでなく、こうした用語・視点をところどころで織り交ぜることで、様々な時代・地域において大学が国家と結びつき、国家を支える機能を果たしていたことを、より説得力をもって示すことができます。(本文の内容は、時代こそ違えど大部分が西欧における内容なので、それを補うことができます。)


③ 意見交換の場や公共圏として作用した時代があったこと

:たとえば、中世のウニベルシタス(ユニベルシタス)は教師と学生によって構成された一種のギルドであり、教師と学生が大学における自治を担っていました。また、当時の学生たちは大学のある場所とは別のヨーロッパ各地から集まってくることが普通でした。自治を行うにあたり、学生たちは互いの意見交換を行ったり、時には教師の集団と対抗したり、移転をほのめかして市当局と交渉するなどして、独自の場を構成していました。こうした点を、ベトナム戦争中の反戦運動を展開して既存の政治・経済体制や文化規範を批判した合衆国の学生や、グローバルに反戦運動を展開した世界の学生とあわせて示すのも良いでしょう。また、日本であれば安保闘争や全共闘などの学生運動を例示しても良いかもしれません。

少し脱線しますが、公共圏というのは、「人間の生活において、他者や社会と相互に関わりあいを持つ時間や空間、または制度的な空間と私的な空間の間に介在する領域」のことを言います。公共圏という言葉自体をはっきり定義するのは難しいのですが、この議論の先駆者であるユルゲン=ハーバマス18世紀のヨーロッパ市民社会において成立した「ブルジョワ公共圏」の分析を通してこの公共圏を考えていましたので、世界史に登場するもので言えば17世紀以降に登場したカフェ、サロン、新聞などが公共圏を成したものと考えてよいかと思います。これらのように、完全に「家庭内(ドメスティック)」な領域ではないけれども、一方で完全に「公的」な領域ではない空間のことを指して「公共圏(Public Sphere)」と呼びました。(もっとも、ハーバマスはドイツの人なので原語はエッフェントリヒカイト[Öffentlichkeit]ですが。) 今風に言えば、SNSとか市民団体の討論会などはこうした公共圏といってよいかと思います。要は、国家とは無関係な独立した空間において、公共善などの社会全体や比較的広く共通される諸問題などについて、理論的に自由な意見交換が可能な場のことと考えてよいのではないかと思います。

公共圏は歴史学の分野でも注目されている分野ですので、歴史学研究をしている人なら多分ハーバマスまたはミシェル=フーコーなどには一度は触れるかと思います。この分野について知るのであれば、まずはハーバマスの『公共性の構造転換』(細谷貞雄・山田正行訳、未来社、1973年)は邦訳も出ていますので、こちらを読まれるのが良いかと思います。また、公共圏について具体的な実像を見たい場合には、イギリスの事例に偏ってしまいますが、『近代イギリスと公共圏』(大野誠編、昭和堂、2009年)はいろいろな事例が示されていて面白かったです。

 

④ 時代によって目的は変わるものの、学生たちはそれぞれの目的をもって大学に入ること

:これについては、正直当たり前といえば当たり前のことなので、あまり強調しなくても良いかと思います。上記②と結びつけて述べたり、またリード文では現在の学生がレジャーランドにいるカスタマーとして見られていることが示されていますので、そうしたものと結びつけて論じてみても良いかもしれません。

 

【解答例】

学生になる、学生であることは、「学問を学ぶ人」という普遍的意味を持っていたが、同時に国家を支える人材となることを意味することも多かった。科挙に挑戦した書生や、マドラサで学んだウラマーの多くは官僚となり活躍したし、近世・近代のヨーロッパでは、学生は聖職者・官吏・医者・教師の予備軍であり、学生になることは社会的上昇や自己実現の機会を得ることを意味した。一方で、大学の自治を担った中世のウニベルシタスや、言論の自由を求めたブルシェンシャフト、反戦運動を展開した20世紀後半の学生運動のように、学生は一種の公共圏たる大学において既存の体制や文化を批判する勢力ともなり得た。このように、専門的知識を持つ学生になることは、国家を支え、社会を変革することが可能な存在となることを意味していたと考えることができる。(350字)

 

解答例は上記【5】でまとめた内容のうち、を中心にまとめてみました。ちなみに、本設問の模範解答は上智大学のHPでも公開されています。そちらでは、学生たちが「国家や政府を批判的に捉えて変革しようとして、大きな存在感を示す」存在としてとらえ、具体例としてブルシェンシャフト、ベトナム反戦運動、第二次天安門事件、香港の雨傘運動などを示していますので、主にの内容をまとめたものになっています。このように、本設問はリード文に示されている普遍的意味ないし時代や地域を超えて見られる共通の意味を取り違えることさえなければ、様々な事例をもとに色々な事柄を挙げて答えることができる、比較的解答作成の自由度が高い設問となっています。その分、解答を作る受験生の読解力・文章構成力・世界史の基礎知識を満遍なく問うことができる良問となっているように思います。ただし、採点は大変でしょうね…。


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上智のTEAP利用型も、導入されてからずいぶん経ちまして前回の2025年でもう11年目です。月日の経つのは早い。さすがにこれだけ時間が経過すると、試験形式の方も落ち着いてきて、形がしっかり定まってきたように思います。現在の基本的な試験形式は以下の通りです。


・試験時間:90分

・設問数:小問5、論述2問(200字論述+300字~350字論述)


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2018年に試験時間がそれまでの60分から90分に変更され、そのあたりから設問数はほぼ5問で統一されるようになりました。論述問題については、最初の方こそ字数が安定しなかったものの、2020年以降は「200字論述+300字または350字論述」の形で安定しています。もちろん、突然の試験形式の変更などはありえますが、とりあえずはこの形で出題されることを期待して良さそうです。

上智TEAP利用型世界史の問題では、小問は相変わらずごく基本的な内容で、大学入学共通テストレベルの知識があれば解ける問題が大半です。5問とも全て選択式となっており、問題数が少ないことを考えても、取りこぼすことなく全問を正解したいところです。


一方で、最後についている論述問題についてはかなり手ごたえのある問題となっています。以下は、2015年~2025年までに出題された論述問題の設問概要一覧になります。

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以前、2021年までの問題を分析した記事で指摘しましたが、2019年までは史料読解の必要はありつつも基本的には世界史の知識と読み取った情報を整理してまとめれば十分であったのに対し、2020年と2021年の論述問題では解答者自身の見解や用意された文章の文脈を考慮する必要があるなど、解答者自身が自分の言葉で語る必要のある設問が続けて出題されるといった傾向の変化が見られました。

まさに、このあたりの時期から、論述問題のうち第2問目の300字~350字論述の方では、資料の読み取りに加えて受験生自身の受験生自身の歴史に対する視点や立論の仕方などを問うスタイルの問題が出されるようになりました。大学入試と言うよりは大学で出される論文試験に近いスタイルの問題と言って良いと思います。ただし、やや受験生の主観に左右されそうであった2020年の出題の仕方とは異なり、2021年以降の設問はあくまで世界史の知識と与えられた資料をもとに、受験生がどのように情報を整理するか・論を立てるかが問われており、基本に世界史に対する深い理解が必要となるスタイルの設問となっています。それにともない、200字論述の方はそれまでの少し凝った雰囲気がなくなり、世界史の基本的知識を説明させるスタイルの平易な出題が続いています。
こうした試験形式を見るに、小問と200字論述をしっかりと解き切る世界史の基礎力を身につけることは必須です。その上で、300字論述をある程度はまともにかけるようにするというのが、まずは目指すべき目標となるかと思います。

また、以前はかなり限定されたテーマについて述べるリード文が主体で、時代的にもはっきり何世紀をテーマにしているということが言えたのに対し、直近2年のリード文は世界史の個別テーマと言うよりは、より一般的なテーマをもとにして世界史的な意味や視座を問うというスタイルのリード文に変化してきています。そのため、厳密に何世紀頃のことをテーマにしているということは言えなくなりました。特に根拠はなく、カンではありますが、この傾向は今後も続きそうな気がします。依然として近現代史に対する理解が最重要であることには変わりがありませんが、これまで以上にリード文、資料の読解が重要となり、世界史の知識をベースとしつつも、国語力(読解力だけでなく文章作成能力も含めた)が要求される出題に徐々に内容がシフトしてきているように感じます。採点は大変かと思いますが、個人的には受験生の総合力を問う良い設問だと思います。(ただ、問題のバランス的にもう少し小問を増やしたりしてくれても良いかなぁとは思います。)

非常に対策が難しい問題ではありますが、練習・対策用としては上智TEAP利用型の過去問演習は必須です。それ以外に練習材料として使えるということであれば以前からお話ししている通り、東京外国語大学の過去問が良いと思います。扱っている時代、小問数、論述問題が資料読解を必要とする点、論述問題の字数など、類似している点も多く、やや設問の内容に方向性の違いはあるものの、良い練習材料になると思います。また、論述対策は必ずしもないのですが、ICUの人文・社会科学考査あたりは、少しレベルの高い人文社会学系の長い文章を読み、その内容をしっかり理解できているかを確認するトレーニングとしては有用な気がします。(ただし、文章のレベル自体は上智TEAP利用型よりも一段上の文章が多いので内容的には難しい。) 個人的には、材料は上智TEAP利用型と東京外国語大学の過去問で十分かと思いますが、自学自習はかなり難しいので、世界史について深い理解があり、国語力も兼ね備えた信頼できる指導者に解説・添削ともに指導してもらえるのであればそれに越したことはないと思います。学校の先生が「使える」のであればバリバリこき使うのもアリでしょうw

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【難関大】

十字軍の経路については、たいていの教科書や資料集には載っています。ですが、たいていの場合、第1回から第7回まで一つの図にいっぺんにまとめられているので、いまいち特徴がつかみにくいということもあるかもしれません。ですが、これらの経路は時々早慶の問題などで出題されることもありますので、だいたいの特徴はとらえておく必要があります。十字軍のだいたいのポイントは以下のような感じです。

十字軍一覧表

もっとも、十字軍のうち、第2回と第5回が出題の対象となることはあまりありません。最近は「フリードリヒ2世とイスラーム」といった視点も大事になってきているので、今後、第5回の出題頻度が増す可能性はゼロではありませんが、今のところあまり見ていません。また、十字軍の軍事活動自体が以前と比べて出題の機会を減らしてきている気もします。(背景などはまだまだ出そうですが…。) ですから、注意するとすれば第1回、第3回、第4回、第6回、第7回の経路に注意を払う必要があります。

 

これらのうち、一番わかりやすいのは第4回です。ヴェネツィアが主導し、最後はコンスタンティノープルを落としてラテン帝国を建てた十字軍なので、経路はヴェネツィア→コンスタンティノープルの1本道です。余談ですが、ラテン帝国の建国により滅亡したビザンツ帝国の諸侯は周辺に亡命政権を建て、そのうちのニケーア帝国のミカエル8世がビザンツ帝国を復興して最後の王朝となるパラエオロゴス朝(パレオロゴス朝)を建てていきます(1261年)。

十字軍4回_解説付

次に比較的確認しやすいのは第6回・第7回の十字軍です。これらはどちらもフランスのルイ9世(聖王)によって行われ、アイユーブ朝からマムルーク朝に代替わりする時期の北アフリカに行っていますので、「フランス→北アフリカ」のラインを作っているものを選べばOKです。第6回はエジプトを、第7回ではチュニスを攻撃している点には注意が必要です。

十字軍6_7回_解説付

意外に区別がつきにくいのが第1回・第3回・第6回十字軍の経路なのですが、わりとはっきりした区別のつけ方があります。

まず、第1回十字軍ですが、最終的にイェルサレムを占領してイェルサレム王国ほかのキリスト教国を建てることになるので、イェルサレムに到達しているのが第1回十字軍です。(ほかにイェルサレムに到達する十字軍は、アル=カーミルとの交渉でイェルサレムを一時的に返還されたフリードリヒ2世の第5回十字軍だけですが、上述の通りあまり出て来ません。) また、参加するのは神聖ローマ帝国とフランスの諸侯なので、現在のフランスやドイツの内陸部が起点となっていることも確認できます。

十字軍1回_解説付

一方、第3回十字軍は一見すると第1回と区別がつきにくいのですが、イギリス王リチャード3世の参加した十字軍ですので、起点としてイギリスが入っているかどうかではっきり区別がつくと思います。

十字軍3回_解説付


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ついこの間の話になりますが、202312月に、山川出版社の『世界史用語集』(全国歴史教育研究協議会編、初版202312月)が新しくなり、現在(2024年度)の高3が使用している教科書「世界史探究」に準拠したものに変更されました。

その結果、旧来の教科書「世界史B」(昨年度の高3が使っていた教科書)に合わせて作られていた同社の「世界史用語集:改訂版」(全国歴史教育研究協議会編、第1版第1201812月)とはかなり表記の異なる箇所も見られることになりました。これは、教科書「世界史探究」と「世界史B」の記述内容にかなりの変更が見られたので当然といえば当然のことです。

ただ、教科書の表記が変わったからと言って、すぐに現場が対応できるかといえば、もちろんそんなことはありません。そもそも、新しく教科書に載る語や表記や表現の変更になる語だけをとっても膨大な数にのぼりますので、実際には現行の高3でも旧表記のままで学習していたりする場合は少なくないと思います。そもそも、新しい用語集が出版されたのが202312月ですからね…。教科書新しくするなら用語集も同時に新しくしてくれないと(切実)、古い用語集を使わざるを得ないですから、旧用語集を高2のころからずっと使っていますという現高3も多いものと思われます。

また、「もう1年頑張ろう!」ということで再チャレンジを目指す昨年度の高3の場合には、そもそも「世界史B」で学習しているので、より不安も大きいかと思います。一応、大学入学共通テストでは旧課程と新課程について考慮はしてれているようです(詳しくは大学入試センターをご覧ください)が、模試や各大学の個別試験までは(対応してくれるところもあるかもしれませんが)その限りではないかと思いますので、やはり心配だという方も多いのではないでしょうか。

そこで、本稿では新しい山川の用語集は、旧版の用語集と比べてどこが違うのかということをチェックしてみることにしました。(ヒマなことをしよる。) で、チェックしてみた結論から申し上げますと「旧課程の世界史Bで学習していたとしても、基本的には新しい世界史探究に対応できるし、そんなには困らない」(多分)です。まぁ、いくつか新しい語は出てきていますし、表現や表記の異なるものがあったりしますが、その多くはこれまでにも「教科書や参考書などの片隅やコラム、新説などとして紹介されてきたもの」であったり、「そもそもの出題頻度がそれほど高いとは思えない語」などが大半な気がします。中には、それなりに重要でそれなりに出題されそうな語もありますが、それらも新しい問題集を解いたり模試を何回か受けたりしていくうちに多くは修正されていくもののような気がします。

ですから、これまでしっかり勉強していたのであれば「そこまで心配することはないかなー」と思うのですが、最近は史資料問題が増えてきているので、史資料に自分の知らない表記で書かれた場合にその後が何か判断がつくだろうか、という点はちょっと気を付けたい点ですね。特に衝撃的だったのはやはり「アクエンアテン(旧イクナートン)」でしたね。これが史料問題で旧名示さずに出てくると怖いですね。他には「アンラ=マンユ(アーリマン)」あたりも多少怖さがあります。まぁ、たぶん問題作る側もその辺は考慮して注意書きつけてくれるんじゃないかなぁとは思うのですが。

また、新語や表現の違いをチェックすることで新しい教科書「世界史探究」がどのあたりを重視し始めているのか、つまり「推し」ているのかなどがある程度見えてくるかな、とも思いました。そういう意味では、より学習を深めたり学力を高めたいと思うのであれば、お金に余裕さえあれば、旧版を持っていたとしても新版は「買い」かなと思います。
もちろん、これまで世界史は全く勉強していなかったという場合には、新課程で進めていく方が無難ではあります。ただ、話の流れだけを取るなら、正直「世界史探究」よりも「世界史B」の方が高校生には把握しやすいかなーと感じますけどね。「世界史探究」は、縦割りの地域史や各国史を脱却して各地域の関係性やダイナミズムをつかんで欲しいという意図は感じるし、大切なことだとも思うのですが、あっちに行ったりこっちに行ったりで最初に学習する人にとっては分かりづらいんではなかろうか、と。何と言うか、大学で期待されるような内容を高校生に持ってきちゃった感が否めません。「複数のものの関係性をつかむ」という行為は、まず初めにそれぞれを構成する個がどういうものかを把握しないと難しいのではないかと思うので、そういう意味では「世界史B」の構成の方がつかみやすい気がします。

脱線しましたが、本稿では新版と旧版の山川用語集をチェックして、新語や表現に変化のあった語をいくつかの項目にまとめました。ただ、目的は「世界史B」と「世界探究」の記載の微妙な違い・傾向把握をすることにあるので、チェックした全ての用語は載せず、個人的に気になる語や注意したいなと思う語(「傾向把握の上で重要かな」と感じたものや、「これまでと比べて、これからちょこちょこ出題頻度が増えてくるかもしれないなー」と感じたもの)のみをまとめてあります。その中でも特に気になる語については赤字で示しました。(私の主観的なもので、用語集の色分けとは無関係です。)

また、チェックしたのは見出し語(用語)のみで、用語の解説や中身については基本ノータッチです。また山川用語集の「例のアレ」(用語の後ろにある①~⑦:「世界史探究」教科書7冊のうち何冊に登場するかをしめしたもの)についてはガン無視しましたw 自分、そもそもあれあんまり重視していないので…。出るもんは①だろうがわりと問題に出るし、出ないもんは⑦でも滅多に問題に出ませんもん。出題傾向はたくさん実際の問題にあたって経験値積んだ方が、より実態に近い感覚が身につく気がします。でも「例のアレ」のことは大好きですw

チェックした用語のうち気になるものは、以下のような項目ごとにまとめてみました。順番については、各項目内では基本古い方から新しい方に流れていますが、編集の過程で多少順番が前後しているところがあります。

 

1、新語

2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語

3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語

4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語

5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの

6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語

7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所

8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現

 

ご注意いただきたいのは、「一応チェックはしましたが、見逃しや間違いはあるかもしれないということ」と、「出るかも出ないかもとか、問題があるとかないとかは、基本私の主観なのであって何の根拠も保証もないこと」ですw また、個々の語やまとまりについて気になったことや注意が必要なことがある場合には、ところどころ解説を入れてあります。

 

【① 新語】

:上にも書いた通り、ここで紹介する新語は個人的に気になった一部のみで、これ以外にもたくさんあります。ざっと見て、新語だけでも100以上はありました。ただ、そのうちの多くは必ずしも「見たことも聞いたこともない!」というタイプのものではなく、これまでも教科書の中で別の表現で書かれていたり、資料集には載っていたり、参考書や問題集には言及されているものだったりしました。

 

・ウルのスタンダード

・黄老の政治思想

・「インド化」

・武人政権《朝鮮・日本》

・銀経済《ユーラシア大陸》

・オルトク商人

・チンギス統原理 

・スンダ海峡ルート

・「コロンブス交換」

・エスナーフ 

・絹製品《イラン産》 

:従来、絹については中国産・シルクロード関連やビザンツ関連では書かれていたが、イランのものが用語集で強調されてはいなかった

・農村経済の活発化《ムガル帝国期》

・松前藩 

・「四つの口」

・中世からの連続性《ルネサンス》

・スペイン1812年憲法(カディス憲法)

・通信革命 

・公衆衛生

・アラビア語による文芸復興運動

・輸出入の逆転《インド》

・回民の蜂起 

:旧版は「回民」のみで、蜂起に関する記載は無し

・アジア域内交易

・アヘンの輸入代替化

・甲午改革

・閔妃殺害事件 

・満洲

:旧版は満州(洲)の項目のみ「洲」の字が示されるのみで、その他はすべて「満州」表記であったが、新版ではこれが全て「満洲」表記にあらためられている。

・「日本の工業化」、「金本位制確立《日本》」、「アジア間交易」

:全般に、19世紀日本の経済状況のディテールに関する新語が並ぶ(ただし、程度)

・立憲派 

・「茶プランテーション」、「本国費」、「綿紡績業《インド》」

:全般的に、19世紀インド統治・経済に関する新語が並ぶ(程度)

・トルコ民族主義 

・「スペイン風邪」 

1919年革命

:エジプトのサアド=ザグルールによる闘争が追記

・関税自主権の回復《中国》 

・ムスリム同胞団の非合法化 

・輸入代替工業化 

・戒厳令《台湾》 

 

やはり、経済的な交流、システムがこれまで以上に丁寧に説明されるようになった箇所が個人的には気になります。また、特殊なところでは台湾の戒厳令が現代史の方でも登場してきますので気になりますね。その他については、これまでにも見られたもののうち、あまり受験生には「問題に出る用語」として意識されていなかったものが、用語としてしっかり示された場合などは気になりますね。すでに「グレートゲーム」などは周知されているのでいいかなと思いますが、「ウルのスタンダード」あたりは人によっては意外に盲点になる気がします。

 

【2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語】

(または似た言葉はあるが内容に大きな変化がある語)

:これまでにも登場していた語のうち、大きく表記が変更になった語がいくつか見られました。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・アメンヘテプ4世(アクエンアテン)

:旧版ではアメンホテプ4世(イクナートン)で、大きく異なります。

・写本絵画

:旧版の「ミニアチュール」の語は基本的に消えたが、「細密画」の語はところどころに残っています。もともとヨーロッパに由来する「細密画」や「ミニアチュール」の語をイスラーム世界の写本絵画にあてはめることが適切ではないと考えられたものと思われます。

・中央ユーラシア型国家

:旧版に「中央ユーラシア」はありますが、騎馬遊牧民が形成した国家形態としての中央ユーラシア型国家の説明とは全く異なりますので、新語として扱うべきものです。

・ガージャール朝

:旧版ではカージャール朝です。カッコで(カージャール朝)ともなかったので、一応今後は注意が必要かと思います。

 

【3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語】

:用語としては旧版からありましたが、「世界史探究」の全体的な傾向を踏まえて、表現の仕方・説明文・登場する時代や文脈などに変更がある語がいくつか存在します。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・荘園

:これまでは唐の時代で出てきていたものが、魏晋南北朝時代にまでさかのぼって出てきており、唐の時代でも再度登場します。全体的に「世界史探究」では魏晋南北朝時代と隋・唐時代の連続性を強調する記述に変わっていますので、それにともなう変化であることには注意が必要です。

・香薬(香辛料・香料)

:新しい表現で、記述に変化が見られます。おそらく、「香辛料」としてしまうと胡椒をはじめとするスパイスだけを想像していまい、乳香や没薬といった樹木の樹脂からとれる香料を想像しにくいところから表現を変化させたのではないかと勝手に推測しています。

・三仏斉

:内容が大きく変化しました。旧版の記述では原則としてシュリーヴィジャヤを含むもの(または同一のもの)ととらえられていた記述が、新版では基本的には別のもの(シュリーヴィジャヤのあとをうけたもの)としてとらえられており、「ザーバジュ」というアラブ側の呼称なども紹介されています。

・「塩・茶の専売」(宋代)、「塩の専売《元代》」

:これまでは前漢の武帝の塩・鉄・酒の専売や、唐末の黄巣の乱にからんでの塩の専売という文脈で書かれていた塩の専売が、宋代や元代についても別の文脈で登場しており、宋代については茶の専売についても言及されています。

 

【4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語】

:旧版と表記が変わっていますが、カッコ内で旧版表記が併記されている語です。旧バージョンで書いたとしても特に問題はないと思われます。いくつか例を挙げてみます。

 

・アンラ=マンユ(アーリマン)

・モンゴルの君主名や称号

:たとえば、新版では「オゴデイ(オゴタイ)」などとなっていて、モンゴルの君主の名前は微妙に変えられています。また「カン(ハン)」と「カアン(ハーン、大ハーン)」の違いなどが明記されるなど、モンゴル関係は細かな変化が見られます。

・全国三部会(三部会)

:旧版では「全国三部会ともいう」となっていました。新版では説明の中で地方三部会が明記されていますので、それとの違いを明確に示すことを意図したものと思われます。

・「スルタンの奴隷」(カプクル・デウシルメ制)

:旧版にあった「デウシルメ」の代わりに登場しましたが、旧版では「スルタンの奴隷」という呼称はありませんでしたので新語となります。また「カプクル」も新語です。

・行商(公行)

・カトリック対抗(対抗宗教改革)

:旧版では「対抗宗教改革(反宗教改革)」となっていましたが、また新しい表現となりました。

・教案(仇教運動)

:旧版では「教案」という語は全く示されていなかったので新語となります。

 

【5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの】

:「世界史探究」では、全体的な流れや関係性を把握させたいという記述が目立つことから、用語集の方でも細かい知識・用語は極力説明文のなかにおさめてしまい、用語数を削減しようという傾向が見て取れました。具体的な例をいくつか挙げてみます。

 

・ルイ14世の対外戦争

:旧版では独自の項目として登場していた「南ネーデルラント継承戦争」、「オランダ戦争」、「ファルツ戦争」が消え、説明書きの中でまとめて紹介されました。従来よりも、これらの戦争がルイ14世の対外戦争の一環であったことがはっきりわかる記述にするとともに、個々の用語の量や重要性を減らして簡略化することを意図したと思われます。

・対仏大同盟

:旧版では第1回、第2回、第3回対仏大同盟が別項目で示されていましたが、一つにまとめられて簡略化されました。ただ、こちらについてはそれぞれの回の対仏大同盟が当時の政治状況と密接に関連していたこともあり、記述が簡略化されたからと言って個々の設問の内容が簡略化されるかといわれると疑問です。今後も結構細かい内容まで突っ込んだ設問が私大などでは出題される気がします。

・ナポレオン3世の対外戦争

:旧版では「クリミア戦争」、「アロー戦争」、「イタリア統一戦争」、「インドシナ出兵」などが別項として表示されていましたが、一つにまとめられました。(ただし、クリミア戦争、アロー戦争、イタリア統一戦争などは、新版でも別の文脈では独自の項目として出て来ます。)

・産業革命の波及

:旧版では「ベルギー産業革命」、「フランス産業革命」、「ドイツ産業革命」、「アメリカ産業革命」、「ロシア産業革命」、「日本産業革命」とそれぞれ項目が建てられていたものが、一つにまとめられて簡略化され、説明文の中で解説されることになりました。

 

【6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語】

:これまでも教科書の中で文章として表記されてきたものを、あえて一つの用語として提示し、説明することで、特定の視点やとらえ方があるんだよということを意識づけさせようとしたと思われる語が散見されました。個人的には非常に良い改善だと思います。いくつか例を挙げてみます。

 

・西域の文化(ポロ競技・胡服・粉食) 

・古文の復興《唐》 

・ポーランド王兼任《ロシア》

:旧版では「ポーランド王国」の項目の中で説明されていた内容が強調されました。

・都市交通網の整備

:旧版には「地下鉄」という項目で少し言及されています。

・マムルークの一掃

:旧版では「マムルーク」の項目の中で解説されていました。

・ロシア領トルキスタン

:ロシアの南下の文脈では一つにまとめられました。ただし、新版でも「ブハラ=ハン国」・「ヒヴァ=ハン国」・「コーカンド=ハン国」は別の箇所(ティムール朝の滅亡の箇所)で独自の項目として示されています。

 

【7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所】

:6とは逆に、旧版よりも用語や説明が減少している箇所が何カ所かありました。ものによっては今後重要度が減少したり、特定の用語が出題から姿を消していく可能性があります。いくつか例を示します。

 

19世紀社会主義の形成と発展を示した箇所

:ラサール、ベーベル、バクーニン、皇帝狙撃事件などが見出し語としては消えるなど簡略化されました。

・イギリスのインド支配におけるいくつかの用語

:ラクシュミー=バーイーやインド省などの用語が消えましたが、新語が増えるなど重要度の低下は特に見られません。

・フランスによるベトナム支配の過程を示した箇所

:トンキンやアンナンなど細かな地名が消え、インドシナ出兵も「ナポレオン3世の対外戦争」の説明文の中にまとめられるなど、全体に簡略化されました。こちらも、ベトナム植民地化の過程の重要度が減じたというわけではなく、従来と比べるとトンキンやアンナンなどの個々の地名にはこだわらなくなる可能性があるという程度かなと思います。

 

【8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現】

19章については、現代史に関する部分になります。正直こちらについては入れ替わりが激しいので、時事的要素の強いものだと思っておいた方が良いかと思います。例えば、旧版には存在しなかった「トランプ」や「バイデン」の語は、教科書に登場する前から実際の入試の場面では登場していますので、同様に用語集には載っていないけれども、ニュースなどを通して知っておいた方が良い用語は日々変わってきていると思った方が良いと思います。また、逆に今回は用語として登場しているけれども、しばらくしたら消えていたという用語もあるかと思います。

新語のうち、個人的に気になる項目は「従属理論」ですかね。ウォーラーステインの近代世界システム論と関連する語ですし、ついこの間東大でオリエンタリズムやサイードなんかが出てきたことを考えると突然「ポッ」と出てきたとしてもおかしくはありません。

「問題が作りやすそうだな」と感じる項目としては、「従属理論」のほかに「南巡講話」、「戒厳令解除」、「ロヒンギャ問題」、「フェアトレード」、「シリア内戦」、「LGBTあたりでしょうか。特に、台湾は最近HOTですし、戒厳令については上記の通り、新用語として2カ所出て来ましたのでちょっと気になります。地域や時代の流れをとらえるという意味では「経済の自由化《インド》」、「社会主義体制の崩壊《アフリカ》」は重要なテーマを含んだ良い項目だと思います。 

また、時事的知識として当然おさえておくべき内容としては「トランプ」、「バイデン」、「習近平」やロシアのウクライナ侵攻がらみ、それから「人工知能(AI)」や「持続可能な開発目標(SDGs)」あたりでしょうか。今は猫も杓子もSDGsで、学校でも散々「探究!探究!」って言ってる中で良く出て来ますから、多分、今の中高生はご存じでしょうね。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」なんかは今の受験生は当然ご存じでしょうが、5年後、10年後になるとインパクトが薄れていくかもなので、その頃の受験生は意外に苦労するかもしれませんね。 

旧版から表記が変更された語については、ほとんどのものは大きな違いは見られませんでしたが、「女性参政権獲得運動」だけはやはり気になりました。旧版でも存在した女性参政権(アメリカ・イギリスなど)の他に別項として現代史に設けられています。東大2018年大論述をはじめとして、女性の権利拡大や参政権獲得に関する設問はあちこちで出題頻度を増しているので、引き続き注意が必要ですね。

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【定期考査】

中世ヨーロッパ史の定番中の定番であるイギリス議会制形成の流れについて、超単純化してみました。
イギリス議会制形成の流れ_2 - コピー
年号も下一ケタが「5」ばっかりだし、わりとスッキリしてます。すごく定番の流れではあるのですが、意外に論述問題などで難関大でも出てくるんですよね。以前、一橋大学の2019年過去問でフランス議会(三部会)の成立と合わせて解説したことがありますが、あそこまでしっかりとした問題でなくても、「ジョンとマグナ=カルタ」→「ヘンリ3世とモンフォール議会」→「エドワード1世と模範議会」→「エドワード3世と二院制の成立」という流れに加えて「大貴族・高位聖職者と2名ずつの各州・都市代表」といった模範議会を構成したメンバーを示させるような論述問題を作るだけでも200字近くの論述問題になっちゃうと思います。というか、何度か類似の問題を定期考査で出したことがあります。採点基準がわりとはっきりしているので何より採点がラクw
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