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【難関大】

十字軍の経路については、たいていの教科書や資料集には載っています。ですが、たいていの場合、第1回から第7回まで一つの図にいっぺんにまとめられているので、いまいち特徴がつかみにくいということもあるかもしれません。ですが、これらの経路は時々早慶の問題などで出題されることもありますので、だいたいの特徴はとらえておく必要があります。十字軍のだいたいのポイントは以下のような感じです。

十字軍一覧表

もっとも、十字軍のうち、第2回と第5回が出題の対象となることはあまりありません。最近は「フリードリヒ2世とイスラーム」といった視点も大事になってきているので、今後、第5回の出題頻度が増す可能性はゼロではありませんが、今のところあまり見ていません。また、十字軍の軍事活動自体が以前と比べて出題の機会を減らしてきている気もします。(背景などはまだまだ出そうですが…。) ですから、注意するとすれば第1回、第3回、第4回、第6回、第7回の経路に注意を払う必要があります。

 

これらのうち、一番わかりやすいのは第4回です。ヴェネツィアが主導し、最後はコンスタンティノープルを落としてラテン帝国を建てた十字軍なので、経路はヴェネツィア→コンスタンティノープルの1本道です。余談ですが、ラテン帝国の建国により滅亡したビザンツ帝国の諸侯は周辺に亡命政権を建て、そのうちのニケーア帝国のミカエル8世がビザンツ帝国を復興して最後の王朝となるパラエオロゴス朝(パレオロゴス朝)を建てていきます(1261年)。

十字軍4回_解説付

次に比較的確認しやすいのは第6回・第7回の十字軍です。これらはどちらもフランスのルイ9世(聖王)によって行われ、アイユーブ朝からマムルーク朝に代替わりする時期の北アフリカに行っていますので、「フランス→北アフリカ」のラインを作っているものを選べばOKです。第6回はエジプトを、第7回ではチュニスを攻撃している点には注意が必要です。

十字軍6_7回_解説付

意外に区別がつきにくいのが第1回・第3回・第6回十字軍の経路なのですが、わりとはっきりした区別のつけ方があります。

まず、第1回十字軍ですが、最終的にイェルサレムを占領してイェルサレム王国ほかのキリスト教国を建てることになるので、イェルサレムに到達しているのが第1回十字軍です。(ほかにイェルサレムに到達する十字軍は、アル=カーミルとの交渉でイェルサレムを一時的に返還されたフリードリヒ2世の第5回十字軍だけですが、上述の通りあまり出て来ません。) また、参加するのは神聖ローマ帝国とフランスの諸侯なので、現在のフランスやドイツの内陸部が起点となっていることも確認できます。

十字軍1回_解説付

一方、第3回十字軍は一見すると第1回と区別がつきにくいのですが、イギリス王リチャード3世の参加した十字軍ですので、起点としてイギリスが入っているかどうかではっきり区別がつくと思います。

十字軍3回_解説付


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ついこの間の話になりますが、202312月に、山川出版社の『世界史用語集』(全国歴史教育研究協議会編、初版202312月)が新しくなり、現在(2024年度)の高3が使用している教科書「世界史探究」に準拠したものに変更されました。

その結果、旧来の教科書「世界史B」(昨年度の高3が使っていた教科書)に合わせて作られていた同社の「世界史用語集:改訂版」(全国歴史教育研究協議会編、第1版第1201812月)とはかなり表記の異なる箇所も見られることになりました。これは、教科書「世界史探究」と「世界史B」の記述内容にかなりの変更が見られたので当然といえば当然のことです。

ただ、教科書の表記が変わったからと言って、すぐに現場が対応できるかといえば、もちろんそんなことはありません。そもそも、新しく教科書に載る語や表記や表現の変更になる語だけをとっても膨大な数にのぼりますので、実際には現行の高3でも旧表記のままで学習していたりする場合は少なくないと思います。そもそも、新しい用語集が出版されたのが202312月ですからね…。教科書新しくするなら用語集も同時に新しくしてくれないと(切実)、古い用語集を使わざるを得ないですから、旧用語集を高2のころからずっと使っていますという現高3も多いものと思われます。

また、「もう1年頑張ろう!」ということで再チャレンジを目指す昨年度の高3の場合には、そもそも「世界史B」で学習しているので、より不安も大きいかと思います。一応、大学入学共通テストでは旧課程と新課程について考慮はしてれているようです(詳しくは大学入試センターをご覧ください)が、模試や各大学の個別試験までは(対応してくれるところもあるかもしれませんが)その限りではないかと思いますので、やはり心配だという方も多いのではないでしょうか。

そこで、本稿では新しい山川の用語集は、旧版の用語集と比べてどこが違うのかということをチェックしてみることにしました。(ヒマなことをしよる。) で、チェックしてみた結論から申し上げますと「旧課程の世界史Bで学習していたとしても、基本的には新しい世界史探究に対応できるし、そんなには困らない」(多分)です。まぁ、いくつか新しい語は出てきていますし、表現や表記の異なるものがあったりしますが、その多くはこれまでにも「教科書や参考書などの片隅やコラム、新説などとして紹介されてきたもの」であったり、「そもそもの出題頻度がそれほど高いとは思えない語」などが大半な気がします。中には、それなりに重要でそれなりに出題されそうな語もありますが、それらも新しい問題集を解いたり模試を何回か受けたりしていくうちに多くは修正されていくもののような気がします。

ですから、これまでしっかり勉強していたのであれば「そこまで心配することはないかなー」と思うのですが、最近は史資料問題が増えてきているので、史資料に自分の知らない表記で書かれた場合にその後が何か判断がつくだろうか、という点はちょっと気を付けたい点ですね。特に衝撃的だったのはやはり「アクエンアテン(旧イクナートン)」でしたね。これが史料問題で旧名示さずに出てくると怖いですね。他には「アンラ=マンユ(アーリマン)」あたりも多少怖さがあります。まぁ、たぶん問題作る側もその辺は考慮して注意書きつけてくれるんじゃないかなぁとは思うのですが。

また、新語や表現の違いをチェックすることで新しい教科書「世界史探究」がどのあたりを重視し始めているのか、つまり「推し」ているのかなどがある程度見えてくるかな、とも思いました。そういう意味では、より学習を深めたり学力を高めたいと思うのであれば、お金に余裕さえあれば、旧版を持っていたとしても新版は「買い」かなと思います。
もちろん、これまで世界史は全く勉強していなかったという場合には、新課程で進めていく方が無難ではあります。ただ、話の流れだけを取るなら、正直「世界史探究」よりも「世界史B」の方が高校生には把握しやすいかなーと感じますけどね。「世界史探究」は、縦割りの地域史や各国史を脱却して各地域の関係性やダイナミズムをつかんで欲しいという意図は感じるし、大切なことだとも思うのですが、あっちに行ったりこっちに行ったりで最初に学習する人にとっては分かりづらいんではなかろうか、と。何と言うか、大学で期待されるような内容を高校生に持ってきちゃった感が否めません。「複数のものの関係性をつかむ」という行為は、まず初めにそれぞれを構成する個がどういうものかを把握しないと難しいのではないかと思うので、そういう意味では「世界史B」の構成の方がつかみやすい気がします。

脱線しましたが、本稿では新版と旧版の山川用語集をチェックして、新語や表現に変化のあった語をいくつかの項目にまとめました。ただ、目的は「世界史B」と「世界探究」の記載の微妙な違い・傾向把握をすることにあるので、チェックした全ての用語は載せず、個人的に気になる語や注意したいなと思う語(「傾向把握の上で重要かな」と感じたものや、「これまでと比べて、これからちょこちょこ出題頻度が増えてくるかもしれないなー」と感じたもの)のみをまとめてあります。その中でも特に気になる語については赤字で示しました。(私の主観的なもので、用語集の色分けとは無関係です。)

また、チェックしたのは見出し語(用語)のみで、用語の解説や中身については基本ノータッチです。また山川用語集の「例のアレ」(用語の後ろにある①~⑦:「世界史探究」教科書7冊のうち何冊に登場するかをしめしたもの)についてはガン無視しましたw 自分、そもそもあれあんまり重視していないので…。出るもんは①だろうがわりと問題に出るし、出ないもんは⑦でも滅多に問題に出ませんもん。出題傾向はたくさん実際の問題にあたって経験値積んだ方が、より実態に近い感覚が身につく気がします。でも「例のアレ」のことは大好きですw

チェックした用語のうち気になるものは、以下のような項目ごとにまとめてみました。順番については、各項目内では基本古い方から新しい方に流れていますが、編集の過程で多少順番が前後しているところがあります。

 

1、新語

2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語

3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語

4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語

5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの

6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語

7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所

8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現

 

ご注意いただきたいのは、「一応チェックはしましたが、見逃しや間違いはあるかもしれないということ」と、「出るかも出ないかもとか、問題があるとかないとかは、基本私の主観なのであって何の根拠も保証もないこと」ですw また、個々の語やまとまりについて気になったことや注意が必要なことがある場合には、ところどころ解説を入れてあります。

 

【① 新語】

:上にも書いた通り、ここで紹介する新語は個人的に気になった一部のみで、これ以外にもたくさんあります。ざっと見て、新語だけでも100以上はありました。ただ、そのうちの多くは必ずしも「見たことも聞いたこともない!」というタイプのものではなく、これまでも教科書の中で別の表現で書かれていたり、資料集には載っていたり、参考書や問題集には言及されているものだったりしました。

 

・ウルのスタンダード

・黄老の政治思想

・「インド化」

・武人政権《朝鮮・日本》

・銀経済《ユーラシア大陸》

・オルトク商人

・チンギス統原理 

・スンダ海峡ルート

・「コロンブス交換」

・エスナーフ 

・絹製品《イラン産》 

:従来、絹については中国産・シルクロード関連やビザンツ関連では書かれていたが、イランのものが用語集で強調されてはいなかった

・農村経済の活発化《ムガル帝国期》

・松前藩 

・「四つの口」

・中世からの連続性《ルネサンス》

・スペイン1812年憲法(カディス憲法)

・通信革命 

・公衆衛生

・アラビア語による文芸復興運動

・輸出入の逆転《インド》

・回民の蜂起 

:旧版は「回民」のみで、蜂起に関する記載は無し

・アジア域内交易

・アヘンの輸入代替化

・甲午改革

・閔妃殺害事件 

・満洲

:旧版は満州(洲)の項目のみ「洲」の字が示されるのみで、その他はすべて「満州」表記であったが、新版ではこれが全て「満洲」表記にあらためられている。

・「日本の工業化」、「金本位制確立《日本》」、「アジア間交易」

:全般に、19世紀日本の経済状況のディテールに関する新語が並ぶ(ただし、程度)

・立憲派 

・「茶プランテーション」、「本国費」、「綿紡績業《インド》」

:全般的に、19世紀インド統治・経済に関する新語が並ぶ(程度)

・トルコ民族主義 

・「スペイン風邪」 

1919年革命

:エジプトのサアド=ザグルールによる闘争が追記

・関税自主権の回復《中国》 

・ムスリム同胞団の非合法化 

・輸入代替工業化 

・戒厳令《台湾》 

 

やはり、経済的な交流、システムがこれまで以上に丁寧に説明されるようになった箇所が個人的には気になります。また、特殊なところでは台湾の戒厳令が現代史の方でも登場してきますので気になりますね。その他については、これまでにも見られたもののうち、あまり受験生には「問題に出る用語」として意識されていなかったものが、用語としてしっかり示された場合などは気になりますね。すでに「グレートゲーム」などは周知されているのでいいかなと思いますが、「ウルのスタンダード」あたりは人によっては意外に盲点になる気がします。

 

【2、旧版と表記の仕方が完全に変わっている語】

(または似た言葉はあるが内容に大きな変化がある語)

:これまでにも登場していた語のうち、大きく表記が変更になった語がいくつか見られました。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・アメンヘテプ4世(アクエンアテン)

:旧版ではアメンホテプ4世(イクナートン)で、大きく異なります。

・写本絵画

:旧版の「ミニアチュール」の語は基本的に消えたが、「細密画」の語はところどころに残っています。もともとヨーロッパに由来する「細密画」や「ミニアチュール」の語をイスラーム世界の写本絵画にあてはめることが適切ではないと考えられたものと思われます。

・中央ユーラシア型国家

:旧版に「中央ユーラシア」はありますが、騎馬遊牧民が形成した国家形態としての中央ユーラシア型国家の説明とは全く異なりますので、新語として扱うべきものです。

・ガージャール朝

:旧版ではカージャール朝です。カッコで(カージャール朝)ともなかったので、一応今後は注意が必要かと思います。

 

【3、旧版に存在したが、表現の仕方や初出の時代・文脈などに大きな変更がある語】

:用語としては旧版からありましたが、「世界史探究」の全体的な傾向を踏まえて、表現の仕方・説明文・登場する時代や文脈などに変更がある語がいくつか存在します。それらのうち、気になったものを挙げてみます。

 

・荘園

:これまでは唐の時代で出てきていたものが、魏晋南北朝時代にまでさかのぼって出てきており、唐の時代でも再度登場します。全体的に「世界史探究」では魏晋南北朝時代と隋・唐時代の連続性を強調する記述に変わっていますので、それにともなう変化であることには注意が必要です。

・香薬(香辛料・香料)

:新しい表現で、記述に変化が見られます。おそらく、「香辛料」としてしまうと胡椒をはじめとするスパイスだけを想像していまい、乳香や没薬といった樹木の樹脂からとれる香料を想像しにくいところから表現を変化させたのではないかと勝手に推測しています。

・三仏斉

:内容が大きく変化しました。旧版の記述では原則としてシュリーヴィジャヤを含むもの(または同一のもの)ととらえられていた記述が、新版では基本的には別のもの(シュリーヴィジャヤのあとをうけたもの)としてとらえられており、「ザーバジュ」というアラブ側の呼称なども紹介されています。

・「塩・茶の専売」(宋代)、「塩の専売《元代》」

:これまでは前漢の武帝の塩・鉄・酒の専売や、唐末の黄巣の乱にからんでの塩の専売という文脈で書かれていた塩の専売が、宋代や元代についても別の文脈で登場しており、宋代については茶の専売についても言及されています。

 

【4、旧版と表記が変わっているが、旧版表記も併記されている語】

:旧版と表記が変わっていますが、カッコ内で旧版表記が併記されている語です。旧バージョンで書いたとしても特に問題はないと思われます。いくつか例を挙げてみます。

 

・アンラ=マンユ(アーリマン)

・モンゴルの君主名や称号

:たとえば、新版では「オゴデイ(オゴタイ)」などとなっていて、モンゴルの君主の名前は微妙に変えられています。また「カン(ハン)」と「カアン(ハーン、大ハーン)」の違いなどが明記されるなど、モンゴル関係は細かな変化が見られます。

・全国三部会(三部会)

:旧版では「全国三部会ともいう」となっていました。新版では説明の中で地方三部会が明記されていますので、それとの違いを明確に示すことを意図したものと思われます。

・「スルタンの奴隷」(カプクル・デウシルメ制)

:旧版にあった「デウシルメ」の代わりに登場しましたが、旧版では「スルタンの奴隷」という呼称はありませんでしたので新語となります。また「カプクル」も新語です。

・行商(公行)

・カトリック対抗(対抗宗教改革)

:旧版では「対抗宗教改革(反宗教改革)」となっていましたが、また新しい表現となりました。

・教案(仇教運動)

:旧版では「教案」という語は全く示されていなかったので新語となります。

 

【5、旧版ではいくつかの項目が設定されていた箇所を、一つのまとまりとしてまとめたもの】

:「世界史探究」では、全体的な流れや関係性を把握させたいという記述が目立つことから、用語集の方でも細かい知識・用語は極力説明文のなかにおさめてしまい、用語数を削減しようという傾向が見て取れました。具体的な例をいくつか挙げてみます。

 

・ルイ14世の対外戦争

:旧版では独自の項目として登場していた「南ネーデルラント継承戦争」、「オランダ戦争」、「ファルツ戦争」が消え、説明書きの中でまとめて紹介されました。従来よりも、これらの戦争がルイ14世の対外戦争の一環であったことがはっきりわかる記述にするとともに、個々の用語の量や重要性を減らして簡略化することを意図したと思われます。

・対仏大同盟

:旧版では第1回、第2回、第3回対仏大同盟が別項目で示されていましたが、一つにまとめられて簡略化されました。ただ、こちらについてはそれぞれの回の対仏大同盟が当時の政治状況と密接に関連していたこともあり、記述が簡略化されたからと言って個々の設問の内容が簡略化されるかといわれると疑問です。今後も結構細かい内容まで突っ込んだ設問が私大などでは出題される気がします。

・ナポレオン3世の対外戦争

:旧版では「クリミア戦争」、「アロー戦争」、「イタリア統一戦争」、「インドシナ出兵」などが別項として表示されていましたが、一つにまとめられました。(ただし、クリミア戦争、アロー戦争、イタリア統一戦争などは、新版でも別の文脈では独自の項目として出て来ます。)

・産業革命の波及

:旧版では「ベルギー産業革命」、「フランス産業革命」、「ドイツ産業革命」、「アメリカ産業革命」、「ロシア産業革命」、「日本産業革命」とそれぞれ項目が建てられていたものが、一つにまとめられて簡略化され、説明文の中で解説されることになりました。

 

【6、概念としては知られていたが、あらためて一つの語として登場させて意識づけを図ったと思われる語】

:これまでも教科書の中で文章として表記されてきたものを、あえて一つの用語として提示し、説明することで、特定の視点やとらえ方があるんだよということを意識づけさせようとしたと思われる語が散見されました。個人的には非常に良い改善だと思います。いくつか例を挙げてみます。

 

・西域の文化(ポロ競技・胡服・粉食) 

・古文の復興《唐》 

・ポーランド王兼任《ロシア》

:旧版では「ポーランド王国」の項目の中で説明されていた内容が強調されました。

・都市交通網の整備

:旧版には「地下鉄」という項目で少し言及されています。

・マムルークの一掃

:旧版では「マムルーク」の項目の中で解説されていました。

・ロシア領トルキスタン

:ロシアの南下の文脈では一つにまとめられました。ただし、新版でも「ブハラ=ハン国」・「ヒヴァ=ハン国」・「コーカンド=ハン国」は別の箇所(ティムール朝の滅亡の箇所)で独自の項目として示されています。

 

【7、旧版の語が消えるなどして、全体的に記述量や説明量が減少している箇所】

:6とは逆に、旧版よりも用語や説明が減少している箇所が何カ所かありました。ものによっては今後重要度が減少したり、特定の用語が出題から姿を消していく可能性があります。いくつか例を示します。

 

19世紀社会主義の形成と発展を示した箇所

:ラサール、ベーベル、バクーニン、皇帝狙撃事件などが見出し語としては消えるなど簡略化されました。

・イギリスのインド支配におけるいくつかの用語

:ラクシュミー=バーイーやインド省などの用語が消えましたが、新語が増えるなど重要度の低下は特に見られません。

・フランスによるベトナム支配の過程を示した箇所

:トンキンやアンナンなど細かな地名が消え、インドシナ出兵も「ナポレオン3世の対外戦争」の説明文の中にまとめられるなど、全体に簡略化されました。こちらも、ベトナム植民地化の過程の重要度が減じたというわけではなく、従来と比べるとトンキンやアンナンなどの個々の地名にはこだわらなくなる可能性があるという程度かなと思います。

 

【8、第19章「冷戦の終結と今日の世界」における目立った新語・新表現】

19章については、現代史に関する部分になります。正直こちらについては入れ替わりが激しいので、時事的要素の強いものだと思っておいた方が良いかと思います。例えば、旧版には存在しなかった「トランプ」や「バイデン」の語は、教科書に登場する前から実際の入試の場面では登場していますので、同様に用語集には載っていないけれども、ニュースなどを通して知っておいた方が良い用語は日々変わってきていると思った方が良いと思います。また、逆に今回は用語として登場しているけれども、しばらくしたら消えていたという用語もあるかと思います。

新語のうち、個人的に気になる項目は「従属理論」ですかね。ウォーラーステインの近代世界システム論と関連する語ですし、ついこの間東大でオリエンタリズムやサイードなんかが出てきたことを考えると突然「ポッ」と出てきたとしてもおかしくはありません。

「問題が作りやすそうだな」と感じる項目としては、「従属理論」のほかに「南巡講話」、「戒厳令解除」、「ロヒンギャ問題」、「フェアトレード」、「シリア内戦」、「LGBTあたりでしょうか。特に、台湾は最近HOTですし、戒厳令については上記の通り、新用語として2カ所出て来ましたのでちょっと気になります。地域や時代の流れをとらえるという意味では「経済の自由化《インド》」、「社会主義体制の崩壊《アフリカ》」は重要なテーマを含んだ良い項目だと思います。 

また、時事的知識として当然おさえておくべき内容としては「トランプ」、「バイデン」、「習近平」やロシアのウクライナ侵攻がらみ、それから「人工知能(AI)」や「持続可能な開発目標(SDGs)」あたりでしょうか。今は猫も杓子もSDGsで、学校でも散々「探究!探究!」って言ってる中で良く出て来ますから、多分、今の中高生はご存じでしょうね。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」なんかは今の受験生は当然ご存じでしょうが、5年後、10年後になるとインパクトが薄れていくかもなので、その頃の受験生は意外に苦労するかもしれませんね。 

旧版から表記が変更された語については、ほとんどのものは大きな違いは見られませんでしたが、「女性参政権獲得運動」だけはやはり気になりました。旧版でも存在した女性参政権(アメリカ・イギリスなど)の他に別項として現代史に設けられています。東大2018年大論述をはじめとして、女性の権利拡大や参政権獲得に関する設問はあちこちで出題頻度を増しているので、引き続き注意が必要ですね。

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【定期考査】

中世ヨーロッパ史の定番中の定番であるイギリス議会制形成の流れについて、超単純化してみました。
イギリス議会制形成の流れ_2 - コピー
年号も下一ケタが「5」ばっかりだし、わりとスッキリしてます。すごく定番の流れではあるのですが、意外に論述問題などで難関大でも出てくるんですよね。以前、一橋大学の2019年過去問でフランス議会(三部会)の成立と合わせて解説したことがありますが、あそこまでしっかりとした問題でなくても、「ジョンとマグナ=カルタ」→「ヘンリ3世とモンフォール議会」→「エドワード1世と模範議会」→「エドワード3世と二院制の成立」という流れに加えて「大貴族・高位聖職者と2名ずつの各州・都市代表」といった模範議会を構成したメンバーを示させるような論述問題を作るだけでも200字近くの論述問題になっちゃうと思います。というか、何度か類似の問題を定期考査で出したことがあります。採点基準がわりとはっきりしているので何より採点がラクw
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先日、動画授業でご紹介した際に「あー、これは普通に勉強していると分かりづらいかもしれないなぁ」と思ったものに「エルベ川以東」とはどのあたりを指すのかということがありましたので、少しだけお話ししてみたいと思います。

エルベ川については以前一橋の2013年過去問の解説をした際にご紹介しまして、ユトランド半島の西側の付け根から袈裟懸けにズバーッと切り下げたみたいな流れになっているのがエルベ川だというお話をいたしました。そこでもご紹介しましたが、高校世界史でエルベ川が出てくる場合には大体「エルベ川以東」という表現で、以下のような話と関連付けて出てくることが多いかと思います。
① 東方植民
② ドイツ騎士団
③ グーツヘルシャフト

ただ、この「エルベ川以東」っていうのが地図上でどのあたりで、そこにはどういったものがどういう配置で存在しているのかっていうのが具体的にイメージできるかっていうと、これが案外難しいんですね。少なくとも、高校生の頃の自分はいまいち把握できていなかった気がします。(今と違って全部本で調べないといかんかったのですよ…。) そこで、エルベ川以東を地図で示すとこんな感じになるかと思います。
世界史でおさえるべき地理_2_イタリア - コピー
図中の、ユトランド半島の付け根から右下に向かって斜めに入っている水色のラインがだいたいのエルベ川の流れですね。上流(水色のライン右下)の先端部のあたりがちょうどチェコの北部にかかるようなイメージになります。ちなみに、エルベ川の上流の支流がチェコのプラハを流れるヴルタヴァ川(モルダウ川)です。
上の図をご覧いただくと、エルベ川以東には「ブランデンブルク辺境伯領(選帝侯領)」とか、「ドイツ騎士団領(16世紀以降はプロイセン公国)」といった、東方植民の際に登場する土地がしっかりと入っているのが見て取れるかと思います。このようにして見ると、普通は「プロイセンといえばドイツ」というイメージがあるかなと思うのですが、実際にドイツ騎士団領ができたころの位置はドイツではなくてかなりポーランドなんだなぁっていうのがお分かりいただけるかと思います。プロイセン公国がブランデンブルクと同君連合を形成したり、フリードリヒ2世のときにシュレジェンをぶんどったりしているうちにだんだんドイツ寄りに拡大してくるイメージなんですね。

ちなみに、エルベ川周辺にはほかにも世界史出てくるわりと重要な土地があったりします。たとえば、ウェストファリア条約(1648年)でスウェーデンに割譲されることでスウェーデンがバルト帝国を築くきっかけとなる西ポンメルンはエルベ川以東ですし、上の地図上にはありませんが同じくブレーメンはエルベ川の下流からやや西へ行ったあたりにあります。また、ハンザ同盟で良く知られるハンブルクはエルベ川河口の街ですし、盟主のリューベックはエルベ川より少し東側に行ったあたりにある街ですね。(リューベックがエルベ川以東の街であるという情報はたまに私大の問題などで問われたりします。) リューベック、ハンブルク、ブレーメンが東側から斜めに並んでいる感じですね。

話は変わりますが、このエルベ川の流域は「ドレスデン・エルベ渓谷」として世界遺産に登録されていた風光明媚な土地なのですが、ドレスデン市街に新しい橋ができたりして景観が損なわれたという理由で、同地域は2009年に世界遺産登録を抹消されてしまったそうです…。ちょうど橋が作られる頃の2008年ごろにベルリン→ドレスデン→プラハと電車旅を楽しんだことがありましたが、綺麗なところでしたけどねぇ。
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2023年の東大の問題解説を今頃UPします。去年は仕事を変えたりしていたので3月とかホンマにバタバタでして…。今はちょうど受験もひと段落して少しばかり時間的余裕ができたのでようやく記事を更新する気力がわいてきましたよといったところです。

さて、2023年の東大の問題はぱっと見既視感のある設問でした。デジャヴってやつですね。東大の過去問演習をびっちりやった経験のある人であれば、「何かみたことある、この地図」とお感じになられたのではないでしょうか。地図中に各国の政体のあり方などを示して問うスタイルの設問は、1992年の東京大学大論述でかつて出題されたものです。内容も、1992年の問題では時期が明示されていませんでしたが、主権国家体制が「南北アメリカ」、「東ヨーロッパ」、「東南アジア」でそれぞれの変化のフェーズにおいてどのような展開を示したかを示せという内容でしたので、2023年の問題とかなり類似点があると思って良いと思います。ただし、2023年の設問はリード文の方に出題者が何を求めているかのヒントになるような文章がかなり含まれていますので、そうした部分を丁寧に読み取って、設問の要求にしっかりと答えていくことが大切なポイントとなるかと思います。1992年の問題には指定語句がなかったのに対して、2023年問題には8つの指定語句がありますから、こうしたものも解答を作成する際の道しるべになりますね。

 

【1、設問確認】

・時期:1770年前後から1920年前後まで(約150年間)

・ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジア諸国の政治の仕組みの変化を記述せよ

・同地域においてどのような政体の独立国が誕生したかを記述せよ

・地図Ⅰ・Ⅱを参考とせよ

20行(600字)以内

・指定語句:アメリカ独立革命 / ヴェルサイユ体制 / 光緒新政 / シモン=ボリバル / 選挙法改正(注1/ 大日本帝国憲法 / 帝国議会(注2/ 二月革命(注3


(注1):イギリスにおける4度にわたる選挙法改正

(注2):ドイツ帝国の議会

(注3):フランス二月革命

 

(リード文のヒント)

・近代世界=君主政体・共和政体・植民地など様々な政体があった

・この状態には以下のような変化が見られた

 ① 植民地が独立して国家となる

 ② 一つの国が分裂・解体して新しい独立国が誕生する

 ③ 元々の独立国において革命などで政体が変わる

 ④ 憲法の有無 / 議会権力の強弱 / 国民の政治参加の範囲

 

【2、地図の読解(地域ごとの変化)】

:地図Ⅰ・Ⅱを読み解き、設問が示した3地域(ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジア)におけるおおよその変化を検討します。その際に、上記のリード文で示された①~④の変化をヒントとしつつ、指定語句と結びつけながら漏れがないかどうかを確認していくと精度が高まるように思います。

 

(ヨーロッパ)

:ヨーロッパについて主に読み取れることは以下の通りです。

 

1815年頃の地図>

① 共和政体をとっているのはスイスのみ

② 成文憲法を定めている国もフランスなど数か国に限られる

 

1914年頃の地図>

① 共和政体を取る国が増加(スイスのほかフランス・ポルトガルなど)

② 成文憲法を定める国が大きく増加(イギリス以外の主要国はほぼ成文憲法を制定)

③ 北アフリカの植民地化が進んでいる(地図Ⅰに北アフリカは示されていない)

④ 両方の地図において、イギリスは成文憲法がない扱い

 

地図上の変化から注目すべき点はやはりフランスの共和政化ですね。もっとも、フランスは設問で設定されている150年間の間に「フランス革命→第一帝政→ウィーン体制と王政復古→七月王政→二月革命と第二共和政→第二帝政→第三共和政」と目まぐるしい政体の変化が存在していますので、何を書くべきか取捨選択しないとフランスだけでめちゃくちゃな字数を取られてしまうことになるので気をつけなければなりません。

その他、ほとんどの国々で立憲政がとられていますが、世界史に登場するもので注意を払うべきなのはドイツ帝国憲法(ビスマルク憲法、1871年)とロシア帝国の立憲化(ロシア帝国国家基本法、1906年)、オスマン帝国の立憲化(ミドハト憲法、1876年→停止、1878年→青年トルコ革命、1908年)あたりでしょうか。イタリアはカルロ=アルベルトの時に定められたサルデーニャ憲法がそのままイタリアでも使われますし、オーストリアはオーストリア=ハンガリー二重帝国成立時に憲法を出しています。

イギリスについては、マグナ=カルタ(1215年)、権利の章典(1689年)などが実質的には憲法としての役割の一部を担っていますが、体系的に人々の諸権利や統治機構のあり方などを記載した成文の憲法典は存在しません。いずれにしても、これらの話は17世紀までにほぼ完了していますので、立憲化という点においては、イギリスはあまり考慮に入れる必要はありません。ただ、指定語句に(イギリスの)選挙法改正がありますので、これをどのように使うかが問題となります。

 

(南北アメリカ)

:南北アメリカについて主に読み取れることは以下の通り

 

1815年頃の地図>

① 共和政体を取るのはアメリカ合衆国くらい

  (地図からは読み取りにくいが、他にハイチ、パラグアイなども)

② そのほかの国々はほぼ植民地

 

1914年頃の地図>

① 南北アメリカともに共和政体の国が大きく増加

② 同時に、立憲制を敷く国も大きく増加

③ アメリカ合衆国の領土拡大

④ カナダが君主政体に(自治領)

 

地図上の変化からは、やはり19世紀前半のラテンアメリカ諸国の独立を見ることができます。注意すべき点としては、1914年時点ではブラジルが共和政体をとっていることです。ブラジルは、独立時にはペドロ1世を皇帝とする君主国でしたが、1889年に軍部のクーデタによって共和政体に移行しています。また、カナダが植民地から君主政国家に変わっているのはイギリスの自治領になったから(自治領はイギリス国王を元首とする半独立国)ですから、この点についても可能であれば記述したいところです。

 

(東アジア)

:南北アメリカについて主に読み取れることは以下の通り

 

1815年頃の地図>

① ほぼ全ての国々が君主政体

  (南の方に植民地フィリピンがちらりと見える)

 

1914年頃の地図>

① 立憲政を敷く国は日本のみ(地図上にはロシアもあるが、ヨーロッパ扱い)

② 中国(中華民国)は共和政体

③ 朝鮮と台湾、南樺太が植民地に

 

地図上の変化から最重要なのは日本の立憲化(大日本帝国憲法と帝国議会、1889年~1890年)です。そのほか、中華民国の成立とその後の袁世凱独裁(中国に☆がついていないのは1912年の中華民国臨時約法が袁世凱によって改変されたからでしょうか)、日清・日露戦争を経ての朝鮮ならびに台湾の植民地化あたりが気をつけたいところです。南樺太は言及の仕方にもよりますが、おそらく使わないと判断して良いでしょう。

 

【3、時代の変化にともなう政体の変化と参政権の拡大】

:地図は、1815年と1914年という、設問が設定した1770年~1920年ごろという時期のほんの一部をカバーしているにすぎません。ですから、地図に引っ張られ過ぎると、肝心な部分・変化を見落としてしまう可能性があります。ちょっと考えてみるだけでもフランス革命(1789年)や第一次世界大戦後の東欧諸国の独立(1918年以降)などは見落としてはいけない要素だということが分かります。指定語句にアメリカ独立革命やヴェルサイユ体制がありますしね。そこで、時代の移り変わりによって各地域、各国の政体がどのように変化したかの大枠は確認しておいた方が良いでしょう。1992年の東大過去問に取り組んだことがある人であれば、整理はしやすかったのではないかと思います。

 

18世紀後半)

・アメリカ独立革命

:イギリスからアメリカ13植民地が独立

・フランス革命

:フランス絶対王政が崩壊 → 一時は共和政が成立

 

19世紀前半)

・ラテンアメリカ諸国の独立

:多くが共和国として独立

・フランスにおける政体変化

:王政復古→七月王政→第二共和政

・七月革命や二月革命をきっかけとするヨーロッパの政体変化

:ベルギー立憲王国の独立や欧州各国での自由主義の高揚、立憲化など

・イギリスの選挙権改正

:参政権の範囲拡大へ(~1918年の女性参政権成立まで続く)

・アメリカのジャクソニアン=デモクラシー

:特に、白人男子普通選挙の成立

・各国での奴隷制の廃止

 

19世紀後半)

・国民国家の形成や立憲化進む

:ドイツ帝国、イタリア王国など

・フランスの第二帝政崩壊と第三共和政の成立

・アメリカの奴隷解放宣言

:ただし、実質的には権利の拡大はなされず

・トルコの立憲化(★)

:ミドハト憲法の制定とアブデュルハミト2世による憲法停止

・日本の立憲化

:明治維新とその後の憲法制定、議会の設置

・ブラジルの共和政化

 

20世紀前半)

・旧帝国の解体と立憲化や共和政化

:ロシア第一革命とロシア革命、青年トルコ革命、辛亥革命と中華民国の成立、オーストリア=ハンガリー二重帝国の解体、ドイツ革命など

・東ヨーロッパ諸国の独立

:ヴェルサイユ体制の成立と民族自決

・女性参政権の拡大

:ロシア革命、ドイツ革命、イギリス選挙法改正[4]、アメリカのウィルソン政権下での憲法修正第19

 

政体の変化というところでは、このあたりが重要な要素として注目すべき内容かなと思います。もちろん、全てを書くことはできないので、ある程度情報をしぼって取捨選択する必要が出て来ます。また、オスマン帝国(トルコ)の扱いをどうするかという点は少々悩ましいところですね。設問は、「ヨーロッパ・南北アメリカ・東アジア」が対象となっていますので、もしオスマン帝国を扱うとすればヨーロッパ扱いで言及することになります。オスマン帝国をヨーロッパとして扱って言及できないことはない(問題文中のヨーロッパの地図にもギリギリのっています)のですが、抜いてしまってもおとがめはない気がしなくもないです。

 

【4、植民地の変化】

:ややもすると見逃しがちですが、植民地の変化には大きく分けて二つの方向性があります。それは、「①1770年ごろまでにすでに植民地であった地域が、自由主義の高まりなどによりそれまでの宗主国から独立していく、または地位を向上させていく」というものと、「②19世紀からの帝国主義政策によって新たに植民地となり支配されていく」というものです。このうち、②については、広くとれば政治のしくみの変化としてとれなくもないですが、設問の主要なテーマは政体の変化や新しい独立国などだと思われますので、無理に言及する必要はないと思います。

 

① 植民地→独立や地位の向上

・アメリカ合衆国

・ラテンアメリカ諸国

・ギリシア(1821年~1829年のギリシア独立戦争)

・カナダ 

・東欧諸国(セルビアなど、早い段階からの国も)

など

 

② 新たに植民地として帝国主義諸国の支配下に入る

・北アフリカ(アルジェリアなど)

・朝鮮・台湾など

 

設問の対象が「ヨーロッパ・南北アメリカ・東アジア」なので北アフリカをどうするかは悩みどころです。地図2でなぜ地図1に登場しなかった北アフリカの地図が出てきているのかをどのように解釈するかですね。もっとも、上述の通り、②はそもそも本設問のテーマにそうか微妙なところなので、省いてしまって良いとは思います。

 

【5、整理(指定語句の整理と、関連事項の配置)】

:続いて、設問の要求である「政治の仕組みの変化」「どのような政体の独立国が誕生したか」について、リード文内のヒントに示された「①植民地が独立して国家となる」、「②一つの国が分裂・解体して新しい独立国が誕生する」、「③元々の独立国において革命などで政体が変わる」、「④憲法の有無 / 議会権力の強弱 / 国民の政治参加の範囲」などの視点に注意しながら、地図の読み取りや時代ごとの大枠で抽出した内容を整理していきます。

ここでは、地域ごと(ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジア)にまとめていく方法と、時系列に沿ってまとめていく方法の二通りが考えられますが、上述の通り、かなり情報量が多いことと、ヨーロッパ、南北アメリカ、東アジアで政治的な仕組みの変化が起きる中心的な時期が自然に分かれていることなどを考えると、個々の地域ごとに分けて考えるよりは、時系列に沿って個別の事象を書き連ねていく中で、特徴のある動きや一連の動きとしてまとめられるものなどについてはその都度指摘していくという書き方の方がスムーズに書き進められるのではないかと思います。その際、まずは指定語句とその周辺事項をある程度まとめた後で、肉付けとして上述の「2、地図の読解」や「3、時代の変化にともなう政体の変化」、「4、植民地の変化」でまとめた内容を入れていくというのがやりやすいかなと思います。以下、(赤字)は指定語句になります。

 

(アメリカ独立革命)

:アメリカの独立宣言は1776年、それまでイギリスの植民地であった、いわゆる13植民地が独立を宣言し、1783年のパリ条約で最終的に独立を勝ち取り、国王のいない共和国(アメリカ合衆国)が成立することになります。また、合衆国では人民主権・連邦主義・三権分立などを規定した合衆国憲法が成立することになりました(1787年)。

これについては、やはりこの独立革命の影響を受けたフランス革命と絶対王政の崩壊をセットで示すことが必須となると思います。また、ラテンアメリカ諸国の独立もいわゆる「環大西洋革命」の流れで示してあげる方が、流れとしてはスムーズになるように思います。

 

(シモン=ボリバル)

:シモン=ボリバルは19世紀前半のラテンアメリカ諸国の独立において、大コロンビアやボリビアの独立を導いた指導者です。サン=マルティンとともにラテンアメリカ諸国の独立を導きました。また、ラテンアメリカの独立についてはハイチ(トゥサン=ルベルチュール)やメキシコ(イダルゴ、モレーロス)などの独立や、上述の通りブラジルがペドロ1世のもとで帝政を敷いたことなどには注意が必要です。

 

(選挙法改正)

:イギリス選挙法改正については第1回から第4回にかけての選挙法改正で国政に参加できる国民の範囲が拡大していったことや、そのことが19世紀の「保守党VS自由党」の二大政党制を20世期の「保守党VS労働党」へと変えていく背景の一つとなったことなどに注目する必要があります。また、時期的には少し後の話になりますが、1911年の議会法(アスキス内閣)では、庶民院の優越が認められたため、貴族院を構成する特権階層の意見を押しのけて庶民院が民意を反映することが可能となって大きな力を持つようになり、議会制度が大きく変化することとなりました。

 

(二月革命)

:フランスは、1789年のフランス革命以降、第一帝政(ナポレオン1世)と王政復古(ルイ18世とシャルル10世)、七月王政(ルイ=フィリップ)を経て、1848年の二月革命で第二共和政の成立へとつながっていきます。これについては、その後の第二帝政(ナポレオン3世)と第三共和政などもあわせて流れとして確認しておきたいですね。

 

(大日本帝国憲法)

:大日本帝国憲法は、1868年以降に明治維新を達成した日本において、その後の自由民権運動などをはじめとするいくつかの動きを経て1889年に制定されました。また、その翌年の帝国議会開催により、日本は立憲君主政国家としての体裁を整えていきます。ただし、この大日本帝国憲法はドイツと同じく欽定憲法であり、さらに帝国議会の衆議院選挙は制限選挙でしたので、国民の政治参加は大きく制限されていた点については気を付ける必要があります。

 

(帝国議会)

:ここでは、問題文中の注より、「ドイツ帝国の」帝国議会であることが明示されています。ドイツ帝国の帝国議会は、ドイツ帝国が成立した普仏戦争後の1871年から、ドイツ革命でヴァイマル共和国が成立した1918年まで続きます。ですから、プロイセンを中心とするドイツ統一とヨーロッパにおける国民国家の形成・拡大という文脈の中に位置づけて書くのも良いと思います。

また、ドイツ帝国議会は、同じく1871年に制定されたドイツ帝国憲法に基づいて成立していますが、この憲法も日本のものと同じく欽定憲法でした。また、ドイツの国制を日本が参考にしたことはよく知られていますので、「ドイツの国制が影響を与えて日本」のような一連の流れとして書くのもアリかなと思います。

 

(光緒新政)

:光緒新政は20世紀初頭、義和団事件の後の北京議定書による清の半植民地化が進む中で、危機感を抱いた清朝保守派によって進められた立憲化改革です。かつて西太后を中心とする保守派は光緒帝と康有為・梁啓超らによる変法運動をつぶしました(戊戌の政変、1898年)が、それとほぼ同様の内容の改革を自ら進めることになります。通常、内容として気をつけておくべきなのは、新軍の創設、科挙の廃止(1905年)、憲法大綱の発布と9年後の議会開設の約束(1908年)あたりですが、本設問では憲法大綱の発布あたりが特に注意すべき事柄です。

ただし、政体の変化という視点を考慮した場合、こちらの光緒新政も、これを良しとせず「保皇派」と批判する革命派を中心とする辛亥革命と、その後の中華民国の建国(共和政体の成立)や袁世凱独裁と軍閥の割拠までを一連の流れとしておさえておくべきでしょう。

 

(ヴェルサイユ体制)

:ここで注目すべき点は、やはり民族自決の原則による東欧諸国の独立です。また、ドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー二重帝国の解体に言及するのも良いと思います。

 

さて、これまで指定語句と関連する事柄をまとめてみましたが、これらをある程度並べるだけでもかなりの部分について上述の「2、地図の読解」や「3、時代の変化にともなう政体の変化」、「4、植民地の変化」でまとめた内容はカバーできそうです。上のまとめでは抜けてしまうものを見ると以下のようになります。これらを追加するかしないかは、その事柄の重要度と、文章のバランスを考えてということになるでしょう。

 

・ベルギーの独立

・カナダの自治領化

・オスマン帝国の立憲化(ミドハト憲法、青年トルコ革命、トルコ共和国)

・ブラジルの共和政化

・日清、日露戦争後の台湾・朝鮮の植民地化

・ロシア革命

 

【解答例】

アメリカ独立革命で人民主権や三権分立を定める憲法を持つ共和国が誕生し、フランス革命を経て自由主義が高まると、黒人共和国ハイチ独立を皮切りに、シモン=ボリバル指導下でラテンアメリカ諸国が独立し、君主政のブラジルを除く多くの国で奴隷制も廃止された。オスマン帝国からはギリシアも独立した。ウィーン体制下では仏の王政復古など反動化も進んだが、七月革命やベルギー立憲王国の独立で綻び、二月革命を機に欧州各地で国民国家形成への動きが強まり、仏では第二共和政が成立した。共和政体の国民国家が増加する一方で、英の選挙法改正や議会法による庶民院の優越、米のジャクソン政権下での白人男子普通選挙成立など、参政権を持つ国民の範囲も拡大し、カナダが自治領になり一部植民地の地位も向上した。独伊の統一が進む中、独は帝国議会を置き、欽定憲法を定めた。明治維新後に立憲化を目指す日本は独を手本に大日本帝国憲法を制定し、近代国家として帝国主義政策を進め、朝鮮や台湾を植民地にした。日清・日露戦争は各国に衝撃を与え、清は光緒新政で憲法大綱を発布し、ロシアはドゥーマを設置したが、辛亥革命やロシア革命で帝国は滅亡し、中国では中華民国が、ロシアではソヴィエト政権が成立した。また、オスマン帝国でも青年トルコ革命でミドハト憲法が復活した。第一次世界大戦後には女性参政権が拡大し、ヴェルサイユ体制下では解体した旧帝国領から東欧諸国が独立した。(600字)

 

キッツキツですが、とりあえずこんな感じでまとめてみました。基本的には、設問のメインテーマである「政体の変化」にかかわるところを中心にピックアップしています。また、リード文でヒントとして示されていた「①植民地が独立して国家となる」、「②一つの国が分裂・解体して新しい独立国が誕生する」、「③元々の独立国において革命などで政体が変わる」、「④憲法の有無 / 議会権力の強弱 / 国民の政治参加の範囲」などについても極力要素として入るように盛り込んでいます。

つながりとして意識したのは、「①環大西洋革命(アメリカ独立→フランス革命→ラテンアメリカ諸国独立[産業革命はスルー])」、「②参政権を持つ国民の範囲拡大」、「③立憲政のアジアへの波及(独の欽定憲法→日本の立憲化と近代化→日清・日露戦争→アジアの立憲化を刺激 / 清帝国とロシア帝国の崩壊)」あたりです。これだけ多くのものを詰め込むとどうしても事実の羅列になりがちですが、設問の意図に沿ってできるだけ一定のテーマによるつながりを意識したいところです。逆に、省いたものとしては北アフリカの植民地化ですね。オスマン帝国はギリシア独立などのからみもありますし、地図にも出ているのでヨーロッパ扱いするのはいいとしても、さすがに北アフリカは地図に出ているとはいえ本設問のテーマでは無理があるかなともいましたので、植民地に関する話については東アジア(朝鮮と台湾)の方で使いました。

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