早稲田大学文学部の世界史は、出題上の特徴が比較的明確な試験です。
2022~2026年度の5年間の問題を設問単位で分析すると、単に「細かい知識が多い」、「文化史が出やすい」といった印象論だけではなく、いくつかの傾向が確認できます。
特に重要な点としては、
・ 短答記述が約3割を占める
・ 中国・東アジア史が毎年まとまって出題される
・ 文化史・宗教史が試験全体を通して繰り返し出題される
・ 最後の大問は5年連続で文化史系
・ 最後の大問では5年連続で図版が使用されている
・ 人名・地名を自力で書く力が必要
・ 年代・地理・文化を関連づける問題が多い
・ 過去問で出た知識が数年後に再出題されることがある
などです。
以下、2022~2026年度の問題をもとに詳しく見ていきます。
【早稲田大学文学部世界史の基本構成】
2022~2026年度の大問数・設問数をまとめると、次のようになります。
5年間の合計は、215問です。このうち、「選択式149問=69.3%」、「短答記述66問=30.7%」となっています。大問数にいくらかの変動はありますが、全体の設問数は41問~46問と40程度で安定しています。大問ひとつあたりの設問数は2022年度の約5.1問から、2025年度には8.2問となっています。直線的な変化とまでは言えませんが、近年は大問数が少なくなる一方、1大問あたりの設問数が増える傾向が見られます。
2022~2026年度の文学部には論述はありません。その代わりに多いのが短答記述です。5年間で66問、全設問の30.7%を占めています。また、内容的にも単に基本用語だけを書かせるわけではありません。たとえば2026年度では、
・ マスタバ
・ メロエ
・ 澶淵の盟
・ 神宗
・ 大祚栄
・ カーナティック戦争
などが記述解答となっており、それなりの難度の言葉でも書かせに来ています。
マスタバあたりは一応文学部の2015年問題で出題がありますが、かなり無理があります。こういうものを大問1の問1に持ってきて受験生の心を砕きに来るあたり、早稲田の文学部は受験生のメンタルを試しているのではないかと疑いたくなります。
ただまぁ、早稲田大学の考古学系は昔からエジプト調査・考古学研究の系譜は強いので(さくじいとか)、エジプト系はハードル高くなりがちなのかもしれません。
脱線しましたが、早稲田の文学部は、他の学部同様に「選択肢を見れば分かる」レベルで止めるのではなく「自力で用語を再生できる」レベルまで知識を引き上げることが重要です。
【短答記述問題の割合について】
5年間で短答記述として出題された66問を、今回の分析では「人名」、「地名・都市・地域等」、「その他」に分類しました。結果は以下の通りです。
人名:25問(37.9%)
地名・都市・地域等:17問(25.8%)
その他:24問(36.4%)
人名と地名のみで短答記述全体の63.6%となります。つまり、「誰か」または「どこか」を自力で答える問題が多く出題されることが分かります。2025年度だけを見ても、班超、光緒帝、フェルナンド、チョーサー、ウィクリフ、ダーウィン、ユスティニアヌスなどが直接記述になっています。
人物については、「人物名→事績」だけでなく、「事績→人物名」の方向でも答えられるようにしておく必要があります。
【中国・東アジア史は5年連続でまとまって出題】
早稲田大学文学部では、中国・東アジア史も重要です。
中国・東アジアを主軸とする問題を分類して数えたところ、
2022年度:6問
2023年度:12問
2024年度:11問
2025年度:11問
2026年度:8問
となり、合計48問でした。全215問の約22.3%が中国や東アジアを主軸とすつ大問からの出題となります。
文学部の中国・東アジア史で重要なのは、単純な王朝通史だけではないという点です。
2023年度大問Ⅱでは、六朝文化、中国文化の朝鮮半島・日本への伝播、唐代の国際交流などが扱われています。本文でも、漢字・儒教・漢訳仏教・律令などを通して東アジア文化圏が形成されたという視点が示されています。
さらに同年度の大問Ⅴでは、
・ 全真教
・ 白蓮教
・ 中国におけるイスラーム
・ カトリック
・ 祖先祭祀
・ 顧炎武
などが問われています。
これを見るに、中国の歴史については政治史だけでなく文化史・宗教史・思想史や対外関係などもまとめて学習することが重要です。
【文化史・宗教史は試験全体を通して繰り返し出題】
早稲田大学文学部の世界史で特徴的なのが文化史です。
最後の大問に文化史が出題されていることに目が向きがちですが、他の大問にも数多く文化史が出題されています。文化史・宗教史は試験の一部だけに限定された分野ではなく、試験全体を通して繰り返し登場する分野と考えた方がよいでしょう。
特に、各年度の最後の大問では必ず文化史が図版つきで出題されています。
2022~2026年度の最後の大問のテーマを整理すると、次のようになります。
また、最後の文化史大問は特定の時代に固定されておりません。たとえば、
2023年度
:「ユダヤ教→ビザンツ帝国→ガンダーラ・マトゥラー」と展開
(偶像崇拝禁止、イコノクラスム、仏像成立を一つのテーマで結ぶ)
2024年度
:古代の戦争表現からノルマン征服、バイユー=タペストリーへと展開
2025年度
:ビザンツ世界から近現代の政治的・公共的な美術表現へ広げる
2026年度
:宗教美術、オランダ絵画、近代の写真などを扱う
そのため、「ルネサンスだけ重点的に覚える」などの局所的な対策では不十分です。むしろ、古代から近現代までの主要な文化事項を、宗教・政治・都市などの背景と結びつけて理解することが重要です。また、図版の多用などを考えるに作品名と作者名だけを覚えるのではなく、作品・図版を目で見て把握し、時代・地域・宗教・政治的背景と関連づけて確認する必要があります。
資料集を見る際には、「この作品は何か」だけではなく、「いつの時代か」、「どの地域か」、「どの国家や宗教と関係するか」、「どの歴史的出来事と結びつくか」まで確認しながら学習する必要があるでしょう。
さらに、問われる文化史の範囲はかなり広くとられています。重要なのは、「宗教・宗教制度」、「美術・建築・図像」、「思想・哲学」、「文学・著作」、「科学・学術」、「文字・書物・印刷」などです。たとえば2023年度では、グーテンベルクの活版印刷から宗教改革、禁書、さらにイエズス会による中国での漢訳出版まで一続きのテーマとして扱っています。また同年度のイスラーム史では、ギリシア学術の受容、イスラーム科学、農作物や砂糖の伝播などが扱われています。つまり文学部では、文化がどのように形成され、伝わり、受容され、統制されたかという視点も重要です。
【宗教史や文化交流史などの重要性】
早稲田大学文学部の出題では宗教関係の出題も目立ちます。
たとえば2023年度だけでも、
・ 仏教
・ 全真教
・ 白蓮教
・ イスラーム
・ カトリック
・ 教皇権
・ 修道院
・ 宗教改革
・ イコノクラスム
・ 仏像成立
などが扱われています。
中国王朝の宗教政策そのものを扱った大問もあり、本文では度牒・賜額・宗教勢力の公認や統制などが説明されています。したがって、宗教史を文化史の補足程度に扱わない方が良いでしょう。イスラーム史も繰り返し出題されているため、王朝だけでなく、宗教制度・学術・建築・交易などと結びつけて学ぶ必要があります。
また、文明間の交流を扱った問題も目立ちます。2023年度大問Ⅱでは、漢字・儒教・漢訳仏教・律令などの中国文化が東アジアへ広がる過程が扱われています。同年度大問Ⅳでは、イエズス会士による西洋文明の東アジアへの伝達が扱われています。したがって、各地域史を完全に分離して覚えるのではなく、「どこからどこへ何が伝わったか」を意識して整理することが大切です。
【年代問題は年号暗記だけでは対応しにくい】
早稲田文学部では、出来事の前後関係を判断させる問題も見られます。
2023年度では六朝文化について、「王羲之」、「陶淵明」、「顧愷之」、「昭明太子」を年代順に判断させています。また百年戦争関連でも、「クレシーの戦い」、「黒死病」、「ジャックリーの乱」「オルレアンの戦い」の前後関係を判断させています。こうした設問を年号暗記だけで対応することは難しいため、個々の年号だけでなく、同じテーマに属する人物・事件を時系列で整理しておくことが大切です。
【知識だけでなく、関連性を問う視点が重要】
分析したところ、短答記述66問のうち17問は地名・都市・地域等に分類される問題でした。実際に出題されたものを列挙すると
・ 南京
・ 揚州
・ シチリア
・ カラコルム
・ ブランデンブルク
・ キール
・ ポンペイ
・ ヘースティングズ
・ レヒフェルト
・ テノチティトラン
・ メロエ
・ イェルサレム
などが記述解答になっています。こうした問題に対処するためには、「事件→場所」、「人物→地域」、「文化財→所在地」という方向でも答えられるようにしておくことが重要です。
また、事柄についても比較的細かな事項が出題される一方で、基本事項も多く問われます。たとえばグーテンベルクについても、単に「活版印刷」と覚えるだけではなく、『四十二行聖書』や印刷機などについて複数の説明を比較して判断する問題になっています。したがって、細かな用語を大量に増やすことだけを優先するより、主要事項の関連知識を一段広く、正確に固めることが重要です。
【過去問で出た知識が再び出題されることがある】
過去問研究も重要です。5年間を比較すると、同じ知識そのものが再び正答になった例があります。代表的なのが、澶淵の盟です。2022年度大問Ⅳ設問5で「澶淵の盟」が正答となり、2026年度大問Ⅱ設問3でも再び同じ語が記述解答になっています。また、ワクフも2024年度大問Ⅴ設問5で出題され、その後2026年度大問Ⅲ設問1で再び正答になっています。したがって、「一度出た用語はもう出ない」とは考えない方がよいでしょう。
また、上記のように完全に同じ答えが再出題されるだけではありません。2023年度では、14世紀のオクスフォード大学で教皇権を批判した神学者について、その人物に関する説明を選ばせています。2025年度では、ウィクリフそのものを直接記述させています。
また、「2023年度:イコン・イコノクラスム」、「2025年度:ユスティニアヌス」、「2026年度:ハギア=ソフィア聖堂」というように、ビザンツ帝国の宗教・文化に関する知識も別の角度から繰り返されています。したがって過去問に取り組む際は、正解だけを覚えるのではなく、その周辺知識まで広げて復習することが重要です。
【早稲田文学部世界史の勉強法】
以上の分析を踏まえると、対策は次のように進めるのが効果的です。
① 教科書・標準的な参考書を使って通史を抜けなく固める
:細かな問題もありますが、まず主要事項を正確に理解していることが重要です。
② 人名・地名・事件名を自力で書く練習をする
:短答記述は全体の30.7%を占め、本記事の分類ではその63.6%が人名・地名系です。
③ 中国・東アジア史を重点的に学習する
:中国・東アジアを主軸と分類した大問だけでも、全215問中48問、22.3%を占めています。
④ 文化史・宗教史を後回しにしない
:最後の大問は5年連続で文化史系であり、図版も5年連続で使用されています。
⑤ 資料集を使って図版・地図を確認する
:絵画・彫刻・建築・宗教美術を、時代・地域・歴史的背景と関連づけて確認しておくとよいでしょう。
⑥ 年代はテーマごとの前後関係で整理する
:政治史だけでなく文化史人物も年代整序の対象になっています。
⑦ 過去問の正答から周辺知識を広げる
:澶淵の盟やワクフのように、実際に同じ知識が数年後に再出題された例があります。
早稲田大学文学部の世界史では、通史を土台として、中国・東アジア史、文化史・宗教史、短答記述、資料集を使った図版・地理対策を重点的に仕上げることが、得点を安定させるための基本的な対策といえるでしょう。
【2027年早稲田大学文学部「世界史」の出題予想】
あくまでも出題傾向は傾向なので、絶対に出るとは言えませんが、仮に自分が2027年の早稲田大学文学部の世界史試験を受けることになった場合、特に気を付けておきたい箇所をあげるのであれば、以下のような内容になるかと思います。
① 明・清代の社会・経済・対外交易
中国史は毎年重要です。
近年は思想・宗教・宋の国際関係などが中心で、明・清の社会経済史にはまとまった出題余地があります。
② 鄭和・朝貢貿易・海禁
東アジア+交流史+地理を組み合わせやすく、文学部型のテーマになりやすいと思います。
③ 広州・マカオ・東アジア海域交易
2023年度でも広州・揚州・泉州など港市とムスリム商人を扱っており、都市・交易の再利用性が高いです。
④ 清朝の対外関係とアヘン戦争前後
中国史の中で2022~26年度の大問主題として近代中国は比較的手薄です。
⑤ 洋務運動・変法運動・辛亥革命
中国思想・政治改革・西洋知識受容という文学部好みのテーマに接続しやすい内容です。
⑥ 宋学・朱子学と東アジアへの伝播
中国思想史+朝鮮・日本への文化伝播を結びつけられます。
2023年にも東アジア文化圏形成は大きく扱われました。
⑦ 石窟寺院(敦煌・雲岡・龍門)、北魏
2023年に莫高窟が実際に問われており、仏教・美術・地理を同時に問える内容です。
⑧ ビザンツ美術・イコン・モザイク
2023・2025・2026年度に関連知識が繰り返し登場しています。
⑨ ロマネスク・ゴシック建築
最終文化史大問の図版題材として使いやすく、建築物から時代・宗教・都市を問えます。
⑩ ルネサンス美術と人文主義
図版を用いた文化史の典型です。作者・作品だけでなく都市・パトロン・思想まで広げられます。
⑪ 宗教改革と印刷文化
2023年に「グーテンベルク→宗教改革→禁書→中国への漢訳出版」までひと続きで出題されました。
文学部の「知識伝播」型を代表する内容です。
⑫ イエズス会と東西文化交流
イエズス会宣教師、徐光啓、西洋科学、漢訳など。中国史とヨーロッパ文化史をつなげやすいです。
また、意外に苦手にしている受験生も多く、一定の問題レベルが確保できる内容です。
⑬ イスラーム建築や社会制度(モスク・マドラサ・ワクフなど)
ワクフは2024・2026年に再出題されています。
宗教制度+建築+都市という出題が可能です。
⑭ イスラーム科学とギリシア学術の継承
2023年度でイブン=ルシュド、フワーリズミーなどを扱い、文学部の交流史の中心的な例です。
⑮ 12世紀ルネサンス
⑭と接続しやすい内容です。
2027年度の文学部では、単語単位で「これが出る」という確度は高くありませんが、中国・東アジア、宗教、文化交流、建築・図像の4本柱から出題される可能性は、直近5年間の傾向から相対的に高いと考えます。特に絞るなら「明・清~近代中国」と「宗教建築・美術史」の2つのテーマは気にかかります。
ただし、繰り返しますがあくまでも出題傾向、しかも直近5年分の分析からのものですので、当たればラッキーレベルの予想です。

