2026年早稲田大学法学部の論述問題はイスラエルの建国宣言までの経緯を問う問題でした。パレスチナ問題については、2023年末に緊張が高まって以降、常に国際政治の中心的な話題となっていましたし、シオニズムをめぐる動きについてはどの大学においても頻出の内容ですから、受験生は十分に準備して臨めたのではないかと思います。実際、昨年書いたワセ法の出題傾向を分析した記事でも「昨年から今年にかけて、地政学上の諸問題が立て続けに発生しているので、そうした時事的な視点にも注意したいところです。特に、中東問題についてはベタなテーマではありますが、早稲田の法学部論述では1999年に一度出たきりですので、少し注意した方が良い気がします。」と思いっきり注意喚起していたようです。今の今まで忘れていましたがw

 

問では、ユダヤ人にとっての「パレスチナ」の持つ意味を考える必要がありました。また、シオニズムについても、ヘルツルによる第1回シオニスト会議からではなく、第一次世界大戦中からイスラエル建国宣言までという時期設定に注意する必要がありました。これらについて注意する必要はあったものの、内容そのものはごく基本的なものだったように思います。

 

【設問要求】

① 第一次世界大戦中から建国宣言に至るまでの経緯を説明せよ。

② ユダヤ人にとっての「パレスチナ」の持つ意味を示せ

 

(リード文)

・ローマ帝国の迫害とディアスポラ

2次大戦後にアラブ人の居住するパレスチナに国家を建設

 

【1、全体の流れを確認】

:時期が「第一次世界大戦中から」とあるので、フサイン=マクマホン協定(1915)やバルフォア宣言(1917)から考えるべきです。内容的に考えて、サイクス=ピコ協定に言及する必要はありません。ただし、指定語句に「シオニズム運動」があるので、これをどのように使うかは考慮すべきです。

シオニズムについての流れをざっと概観すると以下のようになりますが、本設問の時期を考えた場合、①のヘルツルの件は解答に盛り込む必要はありません。このように、情報の取捨選択についてはいくらか気を付けた方が良いでしょう。

 

19世紀後半からのシオニズム運動の流れ)

① シオニズム運動の高揚[1897、ヘルツルによる第1回シオニスト会議] …本設問では不要

→ユダヤ人の国家建設運動へ

 

cf.) 19世紀の反ユダヤ主義の背景 

・ナショナリズムの高揚と国民国家の形成

・「人種」概念の形成(宗教・文化によらず、ユダヤ人という「人種」は変化しないとする理解)

 

② オスマン帝国と対立するイギリスによるシオニスト支援

1917 バルフォア宣言

:イギリス外相バルフォアによるユダヤ人の民族的郷土(national home)建設支援表明

→フサイン=マクマホン協定(1915)ならびにサイクス=ピコ協定(1916)との矛盾

 

③ イギリスによる委任統治と、ユダヤ人入植者の拡大

1922 パレスチナがイギリスの委任統治領に

ユダヤ人が増加(イギリスはアラブ人住民の権利を侵害しないことを条件とした)

→貧しいアラブ農民が土地をユダヤ人に売却

→ユダヤ人入植者による集団農場(キブツ)、軍事組織(ハガナー)の形成→対立激化

 

1935 ドイツでニュルンベルク法によるユダヤ人の公民権剥奪(ホロコーストへ)

→ドイツを捨てたユダヤ人の入植者数が急増

    (1922年で約8万、1931年で約17万、1944年で約55万)

【パレスチナにおける人口推移(1922年-1944年)】
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【宗教別人口増加率(1922年-1944年)】
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SURVEY OF PALESTINE, Chapter VI, pp.152-161より作成)

④ 国際連合によるパレスチナ分割案(1947

・ユダヤ人→国家建設準備

・アラブ人→反発

⑤ イスラエルの建国(1948) …その後の第1次中東戦争は不要

・イスラエルの建国にアラブ連盟が反発→イスラエルの勝利

・パレスチナ難民の発生

 

【2、ユダヤ人にとっての「パレスチナ」の持つ意味】

:本設問では、ユダヤ人にとっての「パレスチナ」の持つ意味について考えよという指示がありますので、これについて言及する必要があります。ただ、意外に受験生には文章として表現しにくい部分かもしれません。また、一言で「ユダヤ人にとってのパレスチナ」と言っても、時代や文脈によってその意味は様々です。

 

(旧約聖書) 『ゼカリヤ書』などに示された、神がユダヤ人とともに帰り、ともにあるとした土地 

(古代) ヘブライ王国など、ユダヤ人国家が存在

(ローマ支配以降) 宗教的聖地・精神的故郷

19世紀末以降) シオニズムによる民族国家建設の地

 

ここでは、第一次世界大戦中からのとありますので、宗教的な意味と、ユダヤ人国家建設の目的地ということが示してあれば十分なのではないでしょうか。

 

【解答例】

ユダヤ人は、宗教的聖地で神との約束の地であるパレスチナに国家建設を図るシオニズム運動を強めた。第1次世界大戦でオスマン帝国と戦うイギリスは、バルフォア宣言でユダヤ人の民族的郷土建設を支持したが、アラブ人独立を約したフサイン=マクマホン協定を結んでいたアラブ人は反発した。イギリスの委任統治領下で増加したパレスチナへのユダヤ人入植者は、ドイツのホロコーストが激化すると急増し、ユダヤ人国家建設への国際的支持も高まったが、アラブ人との対立は激化した。第2次世界大戦後、イギリスは問題解決を国際連合の裁定に委ねた。ユダヤ人に有利なパレスチナ分割案にアラブ人は反発したが、ユダヤ人はイスラエル建国を宣言した。(300字)

 

こんな感じでしょうか。上にも書きましたが、イスラエルの建国宣言までが設問の要求ですので、その後の第1次中東戦争やパレスチナ難民の発生などは解答に含めないように注意しましょう。